日本での洋上風力導入・拡大を確信[東大教授・石原孟氏インタビュー]
2022/02/25
日本での洋上風力発電システム導入促進に向けて、数多くのプロジェクトをリードしてきた東京大学の石原孟教授に、「洋上風力産業ビジョン」が掲げる「2030年までに10GW、40年までに浮体式も含む30GW~45GWの案件形成」などについて聞いた。
東京大学の石原孟教授
インタビュー
――風力発電との出会いについて教えてください。
もともと大学で航空工学を学び、大学院で土木工学を専攻し、河川と海岸工学などについて研究しました。博士課程修了後に清水建設に8年間在籍し、超高層建築物などの耐風設計の技術開発に携わりました。
風力発電の研究を始めたのは00年、ちょうど清水建設から東京大学の橋梁研究室に移った年です。研究分野も横断的でしたし、学部、大学院、民間企業も経験していますので、風車メーカー、建設会社、そして大学のアカデミアなど、皆さんの気持ちがよく分かります。そこが少し他の研究者と違うところかもしれません。少し変わり者かもしれません(笑)。
00年は、世界初の本格的な商業洋上ウインドファームができた年です。当時世界最大の2MWの風車20基が海岸から2km地点に建設され、世界一美しい洋上風力発電所だとも言われています。現地で見て、洋上風力の規模の大きさに驚き、とても感銘を受けました。
日本の国土面積は世界61位ですが、領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた面積は世界6位です。海洋国家の日本に洋上風力産業をどうしても立ち上げる必要があると考え、07年から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や民間企業などと共に海外調査を始め、研究プロジェクトを立ち上げたのです。これまでに、福島県沖の浮体式洋上風力発電や千葉県銚子沖の着床式洋上風力発電の実証研究などに携わってきました。
4条件クリアで“機が熟した”
「研究開発」「FIT新設」
「海域計画」「導入目標」
日本で洋上風力発電の導入を促すためには、実現すべき4つの条件がありました。一つ目は安全性・信頼性・経済性を立証するための研究開発です。二つ目は洋上風力発電のFIT(固定価格買取制度)の新設です。三つ目と四つ目が海域計画と導入目標です。この四つの条件が満たされない限り、日本で洋上風力発電は発展しないと考え、このことを10年以上にわたって唱えてきたのです。
一つ目の研究開発は08年にスタートしました。二つ目のFITは13年に新設されました。三つ目の海域計画は、16年7月に港湾法が改正され、19年4月に再エネ海域利用法が施行されました。そして四つ目の導入目標は、20年10月に「洋上風力産業ビジョン」として示されたのです。
この四つの条件を一つずつクリアすることに関わってきました。日本の洋上風力は、いま必要な四つの条件の全てがそろっています。日本は、洋上風力で成功しているヨーロッパが、かつて努力して用意した四つの条件の全てを手に入れたのです。
過去10年間、日本風力発電協会(JWPA)や日本風力エネルギー学会(JWEA)、国や産業界と一緒に努力してきました。一つずつ問題をクリアして、解決すべき問題を解決してきたのです。これは決して一人でできるものではありませんでした。国も、民間も、学協会の皆さんが共に一生懸命取り組んだからです。
これから日本における洋上風力の導入が成功し、拡大していくことを確信しています。今、機が熟したのです。ぜひ皆さんに自信を持ってやっていただきたいと思っています。
「実現すべき4条件」
をクリア
1 研究開発(08年開始)
●年間数十億円の研究開発費投入。国・NEDO
2 FIT(13年新設)
●FIT(固定価格買取制度)新設。36円/kWh
3 海域計画(19年施行)
●16年7月、改正港湾法施行。認定事業は20年間海域利用が可能に
●19年10月、港湾法一部改正案閣議決定。港湾区域での占用認定30年間に
●19年4月、再エネ海域利用法施行
4 導入目標(20年設定)
●20年12月、「洋上風力産業ビジョン」公表。「30年10GW、40年最大45GW」掲げる