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政策・制度

“再エネ先進国”に学ぶべきこと 経済学の視点からみた日本の風力発電政策

洋上風力発電のラウンドにおける価格決定はどうあるべきか。近年の世界的な資材の高騰を受け、日本の風力発電業界がコストダウンを成し遂げて発展を遂げるにはどうしたらよいのかについて、九州大学大学院経済学研究院の堀井伸浩准教授に聞いた。

日本の再エネ導入はまだまだ
中国では熾烈な価格競争

日本の脱炭素に関する政策は、全体として、再エネの導入量や使用率を向上させるように進められていますが、それでも、2030年のCO2排出量を46%削減(2013年比)するパリ協定の目標とは整合していません。

再生可能エネルギーの発電容量で、2位の米国を大きく引き離して世界のトップを走る中国。いま、中国で進んでいる再エネ導入の速度と比べると、日本の状況はまだ緩いと感じます。中国では、太陽光発電や陸上風力発電の入札の多くでプレミアムを外し、安価な火力発電と価格だけで真っ向勝負をするまでになっているのです。

中国はそれほど価格を重視した入札を行っています。それによって厳しい価格競争が生まれ、今年6月に行われた福建省の洋上風力発電の入札では、落札価格が1kWhあたり0.2元程度(約4円)にまで下がりました。

適切な価格競争促す制度設計を
一層の価格低減に努めるべき

日本と中国とでは条件が異なるためすべてを参考にはできませんが、日本の洋上風力発電においても、中期的に価格がきちんと下がっていくように制度設計をすべきです。FIT制度では、再エネの価格が長期的に下がっていくことを想定して、現在の高い価格を社会全体で負担し、競争を制限しています。

厳しいようですが、価格競争の結果、ついていけない事業者は淘汰されても仕方ありません。経済学では、基本的に競争して価格を下げていくことが社会にとって望ましく、国民負担によって支えられているFIT制度ではなおさらです。

その一方で、洋上風力発電事業をスケールアップすることは価格を下げるための絶対条件ですが、日本ではさまざまな制約があってそれも難しいでしょう。だからこそ、国民負担のもとで導入を支援している洋上風力発電などの再エネは、価格を下げるためにもっと努力を重ねるべきです。

風車製造でも存在感高める中国
太陽光で世界席巻したデジャヴュ

中国の太陽光発電産業では、激烈な価格競争の結果、かつて首位に輝いた太陽光メーカーが倒産することも珍しくありません。だからこそ、各社は少しでも安く品質の高い製品を作り出すために、研究開発に巨額の投資を行っています。それによって、中国は世界の太陽光市場でトップシェアにのしあがってきたのです。

近い将来、風力発電の分野でも中国の太陽光メーカーと同じことが起きるでしょう。欧米の風車メーカーも現在、部品の大半を中国から調達しています。大量生産のスケールメリットによって、欧米の風車メーカーには自社で製造するメリットがなくなってきています。

以前は、機械産業が得意な日本には、風力発電産業の成長のチャンスがあるといわれていました。しかし、自前でさまざまな機械の製造ノウハウを蓄積してきた中国も、機械産業の技術を伸ばしています。また、ソフトウェアの分野も成長していることでしょう。研究開発に多くの投資を注いでない日本は、中国にキャッチアップするのは困難です。

資材高騰とエネルギーの安定供給
隣国の中国との関係改善を切望

これらを考慮すると、日本が風力発電事業を進めるにあたって行うべきは、国産化にこだわっていたずらにコストを引き上げることではないと考えます。

ただでさえ風力発電事業の事業性を確保するのが難しい中、足元の資材価格の高騰によって、局面はさらに厳しくなっています。今のように、日本の技術が未成熟で、コストが高いままでは、アジアに販路を拡大して外貨を獲得することも難しいでしょう。日本より圧倒的に価格競争力が高い国を差し置いて、脱炭素化と経済成長を両立できるというグリーン成長を主張することはもはやナンセンスです。

自分が専門としている経済学の観点からみると、隣国である中国から安い設備を導入したり、中国企業を誘致したりしてコスト低減を図り、国民負担を和らげることが望ましいと考えますが、日本と中国の外交問題は、経済学の観点では解決できない問題です。資材価格の高騰が続く中、エネルギーの安定供給を図るうえで、隣国である中国との関係改善を切に望みます。

国内の一部からは中国から風車を納入すると、中国メーカーに海上の風況や海底地形などを掌握され、安全保障上の問題があるとの指摘もあります。不動産不況の長期化で中国経済が減速し、これまで活発だった中国国内の再エネ投資の先行きは不透明な状況ですが、再エネ先進国である中国に学ぶべきことは少なくありません。

話を聞いた人

九州大学
大学院経済学研究院
大学院経済学府・地球社会統合科学府
准教授
堀井伸浩氏

 


取材・文:山下幸恵(office SOTO)

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