【シリーズ 再エネの未来】体験リポート GWOの風車メンテ基本安全トレーニング
2024/01/09
福島市のFOMアカデミーが提供しているGWOの「基本安全トレーニング」では、風車メンテナンスに必要な専門知識や技術を学ぶ。実際に5日間のトレーニングを受講した山下幸恵記者の体験リポートをお届けする!
タワー内で意識を失った仲間
助けるにはまず何をすべきか
「風車のタワー内部で作業中、仲間が意識を失ってハシゴに宙吊りになっている。助けるためには、まず何に注意すべきですか?」トレーニング3日目、高所作業訓練でのインストラクターからの質問に対して、筆者は「レスキュー装置を持っていく」と答え、ほかの受講生は「急いで仲間のもとへ駆けつける」と回答した。しかし、どちらも不正解。
「風車では、第一に自分の身の安全を確保するのが重要。そうしなければ、ケガ人が増えて逆に仲間に迷惑をかけるからです」という説明を聞いて「そうだった、緊急時でも周囲の安全確認が最優先だった」と思い出した。
理論と実践のトレーニング
風車の作業で一番大切なこと
FOMアカデミーのBST(基本安全トレーニング)では、はじめに座学で各トレーニングの理論を学び、次に、体を動かして実践する。動画やインストラクターの実体験などに基づく解説を聞いてポイントや注意点をしっかり頭に入れたうえで、実技に挑むという流れだ。そのため、仲間をレスキューする際に周囲の安全確認が最優先だということは事前に習っていた。それでも、いざ実践となると頭が真っ白になって、たった今学んだことがすっぽりと抜け落ちてしまう。
それを痛感したのは、4日目の初期応急処置のトレーニング。仲間がさまざまな場面で負傷したことを想定し、受講生が役割を分担して負傷者の手当やAED(自動体外式除細動器)の手配、応援の要請といったロールプレイを行う。いくつものシナリオの中から筆者が行ったトレーニングは、風車1階の電気設備での事故を想定したものだった。事故現場を想定したアリーナの扉を開けると、負傷した仲間を模したダミー人形とその周囲に垂れ下がる電力ケーブル。火災を知らせる警報まで鳴っている。必死に手を動かして人形の骨折部位を固定し、胸骨圧迫を続けながらほかの受講生にAEDを取り付けてもらう。しかし、AEDの使用手順が思い出せない。受講生同士で協力しながら何とかロールプレイを終えると、緊張感が一気に解けてその場に座り込んでしまった。
理論と実践を繰り返す5日間のトレーニングで改めて感じたのは、風車という環境の特殊性だ。風車は閉所、高所であるだけでなく、沿岸や山地などの僻地に設置される。つまり、外部の救援が到着するまでに時間がかかり、仲間同士で助け合わなくてはならないということだ。そのため、全員がレスキュー装置の使い方や応急処置などの知識を身につけることが重要になる。しかし、今回のトレーニングを通じて、緊急時に何を優先するのかという判断力や仲間を大切に思う姿勢も同じくらい大切であるということを身をもって感じた。
FOMアカデミー
一般社団法人ふくしま風力O&MアソシエーションのFOMアカデミー(福島県福島市)は、GWOの認証を得て風車メンテナンスに不可欠なトレーニングを2022年6月から提供している。廃校になった小学校をそのまま再利用して、風力発電のトレーニングに特化した環境を整備。受講者数は1年間でのべ200人超にのぼり、最近は国内外からの視察や見学も受け入れている。
GWO(Global Wind Organisation)とは、風力発電業界における安全な職場環境の構築を目指し、安全訓練と緊急事態に関する国際基準を設定する国際団体。GE、ベスタス、シーメンスガメサといった大手風車メーカーなどが立ち上げた非営利組織だ。
FOMアカデミーの
BST4モジュール
初期応急処置(First Aid)
ケガの症例に合わせた包帯の巻き方を受講生同士で実践して学ぶ。使う包帯や三角巾などは実物だ。
風車で仲間が負傷したことを想定したシナリオトレーニングなどを行う。
マニュアルハンドリング(Manual Handling)
狭い空間でも重量物を安全に運ぶための正しい姿勢や体の使い方を学ぶ。
火災予防と消火(Fire Awareness)
屋外でCO2消火器の使用方法を実践し、ナセル内を模した空間で脱出訓練などを行う。
高所作業(Working at Height)
ランヤードと呼ばれる命綱を使ってハシゴに上り、ポジショニングロープで自分の体を固定して仲間をレスキューする高所作業訓練。
アリーナに設置された訓練設備でレスキュー訓練や高所からの脱出訓練などに取り組む。
高さ8メートルからロープ一本で降下する訓練。両手で作業できるように、特殊な装置で体を固定する方法を学ぶ。
撮影:FOMアカデミー
撮影:FOMアカデミー
まったくの素人で身長155cmの筆者だが、インストラクターの方々の熱心な指導によって5日間の基礎安全トレーニングを無事完了し、GWOの認証を取得することができた。日常生活に応用できる学びも多く、実りの多い訓練だった。
問い合わせ
FOMアカデミー
〒960-0271
福島県福島市飯坂町茂庭字遠西96-1
TEL:024-572-5159
取材・文:山下幸恵(office SOTO)
写真:都築大輔