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政策・制度

【第3ラウンド 深堀り解説】産業育成・振興のカギ握る 価格調整条項

洋上風力第3ラウンドの公募が始まった。第2ラウンドと大きく異なるのは発電事業者が複数海域に公募する場合の落札上限容量100万kWの設定を撤廃したことだ。欧米の入札システム調整を見習うべき。

供給価格上限額を
1円引き下げ

国は今年1月、「青森県日本海南側」と「山形県遊佐町沖」で発電事業者の公募を開始した。公募の受け付け締め切りは7月19日。選定結果は今年の12月中に公表する予定。青森・山形の2海域の想定設備利用率は39.3%と恵まれた風況であり、高い経済性が期待できることから、供給価格上限額を第2ラウンドの同様の海域の19円/kWhを1円下回る18円/kWhとした。山形県遊佐町沖の系統容量は45万kW、青森県沖日本海南側は60万kWで、計105万kWとなる。

公募には、第2ラウンドと同様にFIP制度を適用する。供給価格、事業実現性やゼロプレミアム水準3円/kWhなどの評価基準は第2ラウンドと同様だ。ただ複数の海域での合計出力100万kWを上限とする落札制限は撤廃され、同一企業による両海域落札が可能となる。

東京電力リニューアブルパワーは第2ラウンドの長崎県沖の落札に続いて、第3ラウンドの山形県沖でも落札を目指す。本命といわれていた第1ラウンドの千葉県銚子市沖を、三菱商事グループに落札されてから、大手電力会社のプライドのもと、精力的に活動している。


青森県鰺ヶ沢町沖

青森県沖の注目企業は東急不動産だ。同社はオリックスやENEOSグループなど、大手企業で構成する再エネ発電事業者団体の代表幹事会社を務めている。社内に専門チームを組織し、デンマークの洋上風力大手企業と組んで満を持しての参入を目指す。

外資系企業ではシンガポールに本社を置くヴィーナ・エナジーに要注意だ。同社はアジア太平洋地域最大の独立系再エネ発電事業者。国内では2023年12月末時点で約40ヶ所の太陽光発電所と陸上風力発電所を運営しており、総出力は1GWに迫る。同社は、第2ラウンドの新潟県沖に応札したが落選。第3ラウンドは、四国電力や都市ガス大手の東邦ガスと組んで、捲土重来を期す。

産業育成・振興のカギ握る
価格調整条項

第3ラウンドでは適用されなかったが、今後の洋上風力入札で注目されているのは、エスカレーション/価格調整条項を取り入れるかだ。同条項は、受注済みの契約価格について、インフレの影響による資材費などの高騰を反映させる契約条項のことである。

国土交通省は最近のインフレ事情を考慮し、激変緩和措置として公共事業にエスカレーション条項を適用している。建設時期が入札から4~5年先となる、洋上風車などの設備や工事の確定見積もりを算定することは非常に困難な状況にあることから、同条項の適用は不可欠だろう。

国内外で洋上風力発電事業を手がける、ある総合商社の幹部は「洋上風力で先行する欧米では、世界的なインフレの影響で落札条件の見直し要求や中止が相次いでいることから、入札システムを調整する動きが急速に進んでいる。英国政府は、50GWの風力発電導入目標を堅持するため、価格重視の入札方針を抜本的に見直した。2023年11月に実施した洋上風力を含む再エネプロジェクトに対して、入札上限価格を66%引き上げている」と語る。

その一方で、日本では上限価格条件の厳格化が続いているが、建設業界の2024年問題には注意が必要だ。2019年4月に施行された「働き方改革関連法」で、建設業界については5年間の猶予措置がとられたため、今年の3月末に期限を迎える。今年4月の適用後は、工事や工期の制約が厳しくなり、それだけコストアップの要因となる。

有望な海域で
足踏みしている海域も

第3ラウンドの公募は青森、山形のわずか2海域にとどまった。青森県日本海北側と千葉県九十九里沖は、「有望な区域」に整理されたものの、法定協議会が一度も開かれていない。同じく有望な区域の千葉県いすみ市沖も一度しか開催されておらず、足踏み状態が続いている。

昨年5月に北海道の日本海側5海域が「有望な区域」に格上げされ、関係者の期待が高まっているが、漁業者をはじめとする利害関係者との調整の難しさが、あらためてうきぼりとなっている。

PROFILE

松崎茂雄

エネルギー問題を20年以上にわたって取材。独自の視点で国の政策に斬り込む経済ジャーナリスト。趣味は座禅とランニング。


WIND JOURNAL vol.6(2024年春号)より転載

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