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【深堀り解説】浮体式の新たな動きが活発化、技術研究組合の設立や電気運搬船構想

浮体式洋上風力発電の世界市場で勝ち抜くため、日本企業は低コスト化や量産化などの技術開発に本腰を入れてきた。実証事業の開始や技術研究組合の設立など、新たな動きが活発化している。

メイン画像:浮体式風車の設置を検討している伊豆大島沖。(東京都大島町)

愛知県田原市・豊橋市沖
セミサブ型風車を1基設置

浮体式大規模実証は、2024年6月に「秋田県南部沖」、「愛知県田原市・豊橋市沖」を事業区域に選定し、研究開発に向けて動き出した。このうち愛知県沖は、中部電力子会社のシーテックを幹事会社として、日立造船、鹿島建設、北拓、商船三井の5社が事業者に選定されている。水深80~130mの海域に1万5000kW以上のセミサブ型風車1基を設置する計画だ。

NEDO関係者は「この2海域は現時点で再エネ海域利用法の促進区域となっているものではない。実証事業終了後の風力発電設備の取り扱いは、地元が提示する条件に基づき決定する方針だ」と説明する。当初の計画を変更しない限り、愛知県沖では終了後に風車は撤去される見通しだ。

 

 

浮体式洋上風力の
技術・建設技術組合を設立

日本企業はこれから形成・拡大される浮体式洋上風力の世界市場シェア獲得に向けて、事業者の連携を強めている。24年3月に設立された「浮体式洋上風力技術研究組合(FLOWRA)」は大手電力会社や総合商社などの発電事業者を中心とした技術研究組合だ。施工会社や造船、重電、材料メーカーなどと共同研究パートナーを組んで研究開発を進めていく。設立の目的のひとつが、開発した技術の世界規模での標準化や技術認定だ。あくまでもグローバルな市場を見据えている。

国交省は今年1月、「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合(FLOWCON)」の設立を認可した。FLOWCONは浮体式洋上風力の大量急速施工や、合理的な建設コストの実現を目指す。五洋建設、東亜建設工業、東洋建設、日鉄エンジニアリング、若築建設、IHI運搬機械、住友重機械工業の7社が組合員、カナデビア(旧日立造船)、JFEエンジニアリング、ジャパン・マリンユナイテッドの3社が賛助会員となっている。

研究開発の主要なテーマは、「浮体式洋上風力発電の合理的な建設システム」、「海上作業基地に必要な技術開発」、「海上施工に関わる気象海象予測システムの開発」の3つだ。一般財団法人沿岸技術研究センター、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所、一般財団法人港湾空港総合技術センターの3者がアドバイザーとなるほか、FLOWRAとも技術交流をを行う。世界の浮体式市場に向けて、日本企業が本格的に動き出す。

横浜市臨海部を
再エネ電力の集積地に

横浜市臨海部を再エネ電力の集積地にしようという動きが出ている。戸田建設と東京電力パワーグリッド(東電PG)は今年1月、横浜市、三菱UFJ銀行、パワーエックス子会社と、洋上風力による再エネ電力について横浜市臨海部を起点に電気運搬船で運ぶ事業の実現に向けての覚書を締結した。東京、神奈川の沖合に浮体式風車が建設されることを念頭に、電気の運搬に必要な港湾インフラの構築や金融面での支援などを協議する。首都圏で電力需要が増えるなか、浮体式風車の電気を届けやすくする。

戸田建設は、長崎県五島市沖で浮体式風車を国内で初めて実用化した知見を生かし、洋上風力発電所の建設を検討する。東電PGは横浜市臨海部の電力需給バランスの変動に対応するために不可欠な電力供給拠点の整備を検討する。

パワーエックスは海上で発電した電気を蓄電池に貯めて運ぶ電気運搬船を建造し、26年の完成を目指している。水深が深く海底ケーブルの敷設にばく大なコストがかかるような海域からでも電気を運べるのが特徴だ。首都圏には相模湾や伊豆諸島周辺などのように、風況が良く洋上風力に適した海域が少なくない。連携する5社は、横浜市を中心に洋上風力関連産業の地域共創についても検討していく。

改正再生可能エネルギー海域利用法案が、開会中の通常国会に再提出される。浮体式洋上風力の設置海域として期待されている排他的経済水域(EEZ)の開発について、法的な環境を整備するのが目的だ。与野党が逆転している衆議院でどのような議論が交わされるのか、審議の行方に注目していきたい。

PROFILE

松崎茂雄

エネルギー問題を20年以上にわたって取材。独自の視点で国の政策に斬り込む経済ジャーナリスト。趣味は座禅とランニング。


WIND JOURNAL vol.8(2025年春号)より転載

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