着床式洋上風力の案件形成、30円/kWh程度までの海域を優先的に開発
2026/07/21
国は7月14日、着床式洋上風力の当面の案件形成においては、30円/kWh程度までを優先的に開発を進めていく海域の目安とすることが適当であるとの考え方を示した。
洋上風力第1ラウンド「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」
1.インフレと円安で 建設費用がさらに上昇
2.コスト効率性を重視し 30円程度を目安に案件形成
3.他電源の水準を勘案して 公募のたびに精査
4.第1ラウンドの再公募 具体的な時期を慎重に判断
5.導入拡大と負担抑制を両立する 今後の展望と課題
インフレと円安で
建設費用がさらに上昇
物価変動率(出典 経済産業省)
国の交通政策審議会洋上風力促進小委員会による第44回合同会議と、第115回調達価格等算定委員会が、7月14日にそれぞれ開催された。昨年8月に洋上風力第1ラウンドの秋田・千葉計3海域について、三菱商事を中心とする企業連合が開発中止を決定したことを受けて協議を進めてきた。三菱商事は選定後のインフレや円安、金利上昇などによる開発コストの増大に直面し、事業継続を断念せざるを得なかったと説明している。
足元の事業環境は依然として厳しく、第3ラウンド公募が開始された2024年1月の直近1年間の平均値から今年3月までの期間において、風車や基礎、施工、ケーブルなど洋上風力の資本費に直結する加重平均物価変動率は約19%上昇している。為替相場についても2024年1月から今年5月までの期間に米ドル対円で約9%、ユーロ対円で約16%の大幅な円安が進行しており、大型風車や主要構成機器を海外からの輸入に依存している日本において、建設費用をさらに押し上げる要因となっている。
20年国債の金利推移(出典 経済産業省)
加えて、多額の資金調達を必要とする洋上風力事業において、同期間における20年国債の金利が約150%上昇したことは、調達コストの甚大な増加を招いている。陸上工事に関しても、電力インフレの老朽化更新やデジタル化に伴う需要増により、送変電設備の世界的な需要逼迫が続いており、特に原材料である銅価格の上昇を背景に送電ケーブルの国内価格は同期間で約67%も急騰している。
こうした日本国内の厳しいコスト構造とは対照的に、海外、特に欧州では洋上風力の大量導入に向けた動きが再加速している。今年1月には欧州10ヶ国が大規模共同プロジェクトを通じて2050年までに100GWの容量実現を目指すハンブルグ宣言に合意し、同月には英国が計8.4GWのプロジェクトへの支援を決定した。同年6月にはフランスでも約10GWの公募が開始されている。日本政府も、今年6月の日英首脳会談において、エネルギー安全保障の強化とコスト低減を目指す政府間協力枠組みである日英洋上風力産業コンパクトを立ち上げており、日本企業の英国プロジェクト参画や共同サプライチェーン構築の具体化を進める方針である。

コスト効率性を重視し
30円程度を目安に案件形成
着床式洋上風力における当面の案件形成の考え方(出典 経済産業省)
7月15日に開催された合同会議と調達価格等算定委員会では、国側から今後の案件形成の考え方が示された。そのなかでは、洋上風力発電の導入拡大を推進するにあたっては、エネルギー安定供給と脱炭素の両立を図りつつ、産業基盤の迅速かつ効率的な構築と、国民負担の抑制を両立させることが不可欠であることを強調した。そのうえで国は、四方を海に囲まれた地理的ポテンシャルを活かして国産エネルギーの自給率向上に貢献する切り札として洋上風力を位置づけているが、黎明期における過度な国民負担は避けなければならないとして、基本的には発電事業としての条件に優れ、コスト効率的に事業を実施できる海域から優先的に案件形成を進めるべきであるという方針を示した。
この方針に基づき、国は当面の案件形成を進めるうえでの具体的な発電コストの目安を提示した。昨年2月に公表された第5回発電コスト検証ワーキンググループの試算において、2023年に新規建設した着床式洋上風力の発電コストは30.9円/kWhと算出されている。また、今年1月の調達価格等算定委員会において、日本風力発電協会は一般海域の着床式モノパイルを想定した事業コストは、割引率3%、プロジェクトIRRを6%に設定した利潤を含めて平均30円/kWh台半ばであるとの試算を公表している。
一方で、同じ発電コスト検証ワーキンググループの試算によるLNG火力や原子力、太陽光といった他の電源の発電コストは10円/kWh台にとどまっている。さらに、日本卸電力取引所のスポット取引における約定価格の足元の実態を見ても、10円から15円/kWh程度で推移している状況である。国は、これらの他電源のコスト水準や市場価格の実態、洋上風力固有のコスト構造を総合的に勘案した結果、当面の案件形成においては「30円/kWh程度」までを、優先的に開発を進めていく海域の目安とすることが適当であるとの考え方を示した。
この目安の設定は、条件が著しく悪く、コストが極端に高くなる海域での案件形成を黎明期において抑制し、国民負担とのバランスを慎重に見極めることを意図している。国は今後、着実に案件形成を積み重ねるなかでサプライチェーンの確立や事業者によるノウハウの蓄積を促し、習熟効果による段階的なコスト低減を目指す。また、この「30円/kWh程度」という目安は固定されたものではなく、黎明期におけるコストの推移を継続的にモニタリングし、その結果や他電源とのバランス、さらには産業基盤の構築状況を考慮しながら、必要に応じて案件形成の目安のあり方や公募の進め方そのものを柔軟に見直していく方針を明らかにしている。
他電源の水準を勘案して
公募のたびに精査
第1ラウンドの供給価格・保証金(出典 経済産業省)
調達価格等算定委員会では、洋上風力発電の当面の案件形成の考え方を踏まえ、公募占用指針に定める価格調整スキームの具体的な運用方法について審議が行われた。価格調整スキームは、事業者選定から実際の洋上工事開始までの長いリードタイムの間に生じる資材価格や施工費の変動リスクについて、民間事業者のみでは取り切れない分を制度側が引き受けることで事業撤退を防ぐ仕組みである。具体的には、事業費の大半を占める資本費部分に相当する割合として、基準価格の7割を対象に物価変動率を乗じて落札後に一度だけ価格調整を行う。
過大な国民負担を抑制する観点から、この価格調整スキームには考慮する物価変動率の上限が設定されている。2025年度の同委員会では、ウクライナ危機による激しい物価上昇や急激な円安の影響を考慮し、十分なリスクを織り込んだ水準として「40%」を基本とすることで合意している。これは2018年度と2023年度の物価水準を比較した際の変動実績に基づいている。しかし、委員から調整前の当初の供給価格自体が高い場合に一律40%の上限を適用すると、物価高騰時に乗算される調整額が巨額になり、結果として過度な国民負担を招く懸念があるとの指摘がなされていた。
今回提示された案件形成の目安である30円/kWh程度という水準は、価格調整スキームの導入が議論された当時の第1ラウンドから第3ラウンドの公募における供給価格上限額の最高値である29円/kWhとおおむね同等である。仮に、この目安と同水準の30円/kWhが今後の公募で供給価格上限額として設定された場合、そこに40%の物価調整がそのまま適用されると、調整後の価格は過去の公募上限をはるかに超過することになる。このため委員会では、一律に40%を基本とするのではなく、他電源のコスト水準も勘案しながら、公募のたびに上限価格の審議と合わせて価格調整の上限割合についても精査することを確認した。審議の結果、過度な国民負担が生じると判断された場合には、40%未満のより低い上限割合を採用し、各海域の公募占用指針に個別に明記する方針が示された。
同日の会議で示された新しい公募制度と価格調整スキームは、第1ラウンド3海域の再公募を含む、今後のすべての一般海域における公募案件に適用される。なお、2024年4月から導入された発電側課金に関しては、再エネの導入拡大を妨げないよう、第2ラウンドや第3ラウンドの事業を含む既認定のFITおよびFIP案件、あるいは導入前年度までに公募が開始された案件については、調達期間または交付期間が終了するまで課金対象外とする現行の特例措置を維持することを確認した。これにより、すでに公募手続きを終えた事業者の投資予見可能性を担保しつつ、今後の新たな公募や再公募においては、国民負担に中立的な形で物価変動リスクを管理していく方針である。
第1ラウンドの再公募
具体的な時期を慎重に判断
合同会議と調達価格等算定委員会に出席した委員からは、「黎明期における事業完遂を果たすためにも、総合的な判断として30円/kWh程度の目安を設定することは適切である」「事業者選定時に供給価格を一律に固定する現行の公募制度にとらわれず、情報がより精緻化された段階で事後的に入札が可能な長期脱炭素電源オークションの仕組みを公募制度へ組み込むなど、中長期的な支援のあり方を柔軟に議論していく必要があるのではないか」「物価連動の上限を40%とする基準に関し、当初の供給価格の絶対値を踏まえた適正水準の検討や、過度な国民負担を避けるための厳格な設定が必要だ」「領海内における2段階入札の導入や、国が主体となる日本版セントラル方式の強化を中長期的に検討してほしい」といった意見や要望が出されたが、国が示した方針に対して特に異論はなかった。
合同会議では、第1ラウンド3海域の再公募の時期について経済産業省の担当者が、「足元の事業環境変化によってコストの見通しがつきづらく、既存事業者も含めて新たな投資判断をするハードルが高まっているいまの状況も踏まえる必要がある。国としては可能な限り早期の再公募を目指すという基本的な考え方に変わりはないが、実際の実施時期については市場の動向や実態をよく見極める必要がある」と述べ、具体的な時期については慎重に判断する姿勢を示した。
導入拡大と負担抑制を両立する
今後の展望と課題
国が示した洋上風力発電における当面の案件形成の目安と新しい公募制度の方向性は、日本のエネルギー転換期における重要な試金石となる。30円/kWh程度というコストの目安は、足元の歴史的な物価高騰や急激な円安、金利上昇に直面する関連事業者に対して、現実的な事業実現性を見据えるための一定の指針を提供した。同時に、他電源との相対的な価格差や市場価格との乖離を厳格に見極めることで、過度な国民負担の発生を未然に防ぐという国の強い姿勢が示された形である。
しかし、日本の洋上風力発電が真の主力電源として自立を果たすためには、今後克服すべき多面的かつ本質的な課題が数多く残されている。最大の課題は、黎明期における手厚い政策的支援が、将来的なコスト低減へと確実に結びつくかという点である。風況や海底地盤などの自然条件が欧州よりも過酷な日本において、欧州と同等のコスト低減曲線を描けるかは不確実性が高く、事業者が個々の海域で得た技術的知見や施工ノウハウを業界全体で広く共有し、コスト抑制へと昇華させる仕組みづくりが求められる。また、2040年までに国内調達比率65%を掲げる産業界の目標を達成するためには、海外製機器の輸入に依存する構造から脱却し、電機設備や鉄鋼、造船などの国内産業基盤の再興と着実なサプライチェーン形成を同時並行で進めなければならない。国産比率の引き上げと早期のコスト低減という、相反しかねない二つの要素の調和をいかに保つかが、今後の産業政策の要諦となる。
浮体式洋上風力における当面の案件形成の考え方(出典 経済産業省)
さらに中長期的な展望を見据えると、着床式に適した海域に制約がある日本にとって、広大なEEZ(排他的経済水域)を生かせる浮体式洋上風力への期待は極めて大きい。合同会議において国が新たに打ち出した30万kW規模の浮体式中規模実証事業の組成は、これまでの小規模な実証段階から商用化へと進むための画期的な取り組みであるが、量産化技術の早期確立や大水深に対応した次世代電力ネットワークの構築など、技術的・財務的なハードルは依然として高い。価格調整スキームの弾力的な運用や長期脱炭素電源オークションとの連携、さらには領海内における入札制度の柔軟なシミュレーションといった制度的イノベーションを不断に継続することが、事業者の投資予見可能性を高め、確実な電源開発を完遂させる原動力となる。国が市場の実態を注視しつつ適切なリーダーシップを発揮し、官民が緊密に連携して産業基盤の確立と国民負担の抑制を両立させていくことが、日本の洋上風力開発を真の好循環へと導くことにつながると筆者は考えている。

DATA
交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会 合同会議(第44回)
第115回調達価格等算定委員会
取材・文:ウインドジャーナル編集部









