浮体式洋上風力の過酷環境実証が始動、国が海域公募を開始
2026/07/16
経済産業省は7月15日、水深500m以上の大水深や硬い岩盤などの過酷な環境に対応する浮体式洋上風力発電の実証候補区域を選定するため、都道府県からの公募を開始した。アジア太平洋市場などへの展開を視野に、低コスト化・量産化の技術確立を目指す。
アジア太平洋市場を視野に
より厳しい自然環境で実証
過酷環境下における浮体式洋上風力実証(出典 経済産業省)
政府は2040年までに浮体式を含む30GWから45GWの洋上風力発電の案件形成を目指している。これまで秋田県南部沖と愛知県田原市・豊橋市沖の2海域で浮体式の実証事業が進められてきたが、目標達成に向けてはさらなる導入海域の拡大が不可欠である。特に、日本の広大な排他的経済水域(EEZ)や、2050年までに最大の洋上風力市場になると予測されるアジア地域への展開を視野に入れた場合、厳しい気象や海象に対応できる技術が必要となる。
日本のポテンシャルが大きい海域には、高波高や急勾配、大水深、海底が硬い岩盤といった厳しい条件が多く含まれている。こうした背景から、既存の実証海域とは異なる、より厳しい自然環境下における浮体式洋上風力の実証が求められていた。世界的に見ても先例のない過酷な環境での実証を通じて、日本が先行して低コスト化や量産化の技術を確立し、グローバル市場をリードしていくことが今回の事業の主な目的である。
大水深や硬い岩盤に挑む
実証の条件と公募プロセス

公募参加を検討している東京都大島町沖
今回の事業(過酷海域における浮体式洋上風力実証、および大水深における浮体システムの施工等実証事業)は、既存の2海域実証とは異なる極めて厳しい自然条件を備えた海域を対象とする。国が候補区域を選定するにあたっては、以下の「必須事項」に完全に合致していることを確認したうえで、「期待事項」および「考慮事項」の状況を総合的に勘案する。
1.選定における必須事項
都道府県からの情報提供にあたり、以下のすべての基準を満たす必要がある。
・地元関係者・漁業者との合意: 候補区域での実施にあたり、操業上の調整が必要となる利害関係者(漁業者、船舶運航事業者など)から事業実施への理解が得られていること。
・風車の設置可能規模: 風車5基以上の設置が可能である面積を有すること。
・大水深の存在: 候補区域内に水深500m以上の区域(風車2基程度の設置が可能である面積)が存在すること。その他の区域は水深100m〜500mであることが望ましい。
・風況: 候補区域の大半が年平均風速8.5m/s以上であること。
・海底地質: 候補区域の海底地質の一部または全部が岩盤であること。
・長期占用の許可: 十分な運転期間が確保できるよう、数年間にとどまらない長期的な占用許可(条例等に基づく許可)が都道府県からなされること。
・テストセンターとしての長期利用: 候補区域の一部が、恒久的な技術検証を行うテストセンターとして長期的に利用できること。
・将来の規模拡張性(240MW・50k㎡): 規模の拡張を見据え、隣接する240MW程度のウインドファームが設置可能である区域(50k㎡程度)が数年以内に確保される見込みがあり、地元利害関係者等からの理解が得られる見込みであること。
・将来の促進区域化: 将来、拡張後の区域に隣接する区域の促進区域化を想定すること。
・都道府県の主体的な関与: 漁業者や船舶運航事業者等との地元調整について、都道府県の水産部局・船舶関係部局・環境関係部局が責任を持って主体的に対応することに同意できること。
2.期待事項
必須条件に加え、以下の海象・地形条件を備えていることがさらに期待される。
・候補区域の一部または全部の有義波高が1.5m〜2.0m以上、かつ有義波周期が9s以上である時期が存在すること。
・候補区域の海底に急峻な勾配が存在すること。
3.技術検証要素と公募手順
実証内容としては、平均風速10m/sに近い環境における風車本体の荷重・疲労試験や発電性能検証、有義波高1.5m以上の高波高下における施工や維持管理(O&M)の効率化検証、さらには10度以上の急勾配や岩地盤における杭式アンカーなどの安全設計と施工の検証などを行う。また、FLOWRA(浮体式洋上風力技術研究組合)が共通基盤開発で進めてきた大水深向けの係留システムや、ダイナミックケーブル、浮体式洋上変換所の設計成果を実海域で検証する。
経済産業省は7月15日から10月30日まで都道府県からの実証海域の情報提供(公募)を受け付け、関係者の同意が得られた海域を選定する。その後、発電事業者の公募を実施し、グリーンイノベーション(GI)基金を活用して事業費の3分の2を補助する計画である。
採択された実証海域の
長期的な活用を検討
経済産業省は、浮体式洋上風力の本格的な商用化へのマイルストーンとして、新たに30万kW(300MW)規模の中規模実証事業の組成を検討する方針を打ち出した。この方針は、国内で進める大水深・過酷海域実証(2027〜2032年)やテストセンターとしての長期的な活用、および英国をはじめとする海外実証への参画成果(2026〜2030年代)から得られる知見の蓄積、今後の市場環境を総合的に勘案して進められる。
従来の1〜2基規模の実証段階から、30万kW規模へと開発フェーズを一気に引き上げることで、量産化プロセスの確立や劇的なコスト低減を促し、国内サプライチェーンの強靭化を一気に牽引する狙いがある。国主導でこの中規模実証の案件形成に向けた検討を進めることで、確実な技術検証を行い、将来的な国内商用案件の本格形成への確かな橋渡しを目指す。
今後の重要な課題の一つは、実証機会の増加と迅速化を支えるための恒久的な技術検証環境(実証サイト・テストセンター)の整備である。欧州では迅速な実証が可能なサイトが複数存在し技術検証が急速に進展しているが、日本では現状、実証事業ごとに海域調整を行う必要があり時間を要している。多様な浮体形式の検証ニーズに応えるため、アジア地域の拠点となるようなテストセンターを先行的に整備し、長期的に活用できる制度設計や体制づくりを進めることが求められる。政府は、今回の実証終了後に新しい技術を試すテストセンターとして長期的な活用を検討する方針だ。
また、技術的な面では、水深500mを超えるような超大水深下での係留システムや、世界でも未実装の浮体式洋上変換所の施工および運用、長期耐久性の実証が極めて難易度の高い課題となる。これらを克服し、コストや施工のリスクを軽減するためのガイドライン、基準、国際規格の策定を急がなければならない。さらに、過酷な海上環境での複雑な工事やメンテナンスを担う特殊工事船の確保や、高度な施工・運用ノウハウを備えた専門人材の育成、国内サプライチェーンの強靭化を一体的に推進することが、浮体式の社会実装におけるカギとなる。
DATA
浮体式洋上⾵⼒発電に係る⼤⽔深等の過酷環境下に対応するための技術開発・実証事業に関する候補区域の選定に向けた都道府県からの情報提供の受付について
取材・文/ウインドジャーナル編集部











