陸上風力の事業権取引で2億円詐取、事件の背景を徹底解説
2026/10/02
再生可能エネルギー関連会社「新電源」の元経営者など3人が、北海道で計画中の風力発電事業の権利を譲渡すると偽って事業買収を計画する2社から手付金名目で2億円をだまし取ったとして警視庁に逮捕された。事件の背景を探ってみた。
メイン画像:詐欺事件を摘発した警視庁
1.架空の事業譲渡で 2億円を詐取した疑い
2.事業権取引で 開発段階のリスクを低下
3.事業権取引の投機目的化で 系統接続を阻害するケースも
4.投資家が安心して 事業権取引ができる制度の構築を
架空の事業譲渡で
2億円を詐取した疑い

事業権取引は再エネの導入拡大には必要な手法
陸上風力発電の事業権取引をめぐる詐欺事件が発覚した。この事件は、2022年4月から5月にかけて、再生可能エネルギー関連会社「新電源」の元経営者など3人が、すでに売却していた北海道石狩市と当別町の2ヶ所の風力発電事業について、東京都港区の再エネ関連会社2社から、架空の事業譲渡の手付金名目で2億円を詐取した疑い。「新電源」の元代表取締役が関与している農業生産法人「水杜の郷(みもりのさと)」が実際の譲渡先から渉外業務を委託されていた。このため、事業譲渡後も計画地に立ち入ることが可能だったことから、容易に相手を信用させることができたという。
再生可能エネルギーの事業権取引はこれまで合法的に行われており、再エネの導入拡大には必要な手法でもある。その一方で、投機目的化することで案件の質の低下を招くという懸念もあった。

事業権取引で
開発段階のリスクを低下

FIT初期に開発された再エネは高値で取引(画像:©dongfang/Shutterstock.com)
再エネの事業権取引は多くの事例がある。特に固定価格買い取り制度(FIT)の初期に開発された再エネは、高い売電価格が保証されているため、事業権価格が高くなっており、投資家にとっては魅力的だ。しかし、再エネ開発には用地の取得や地元合意、環境影響評価手続き、系統接続などが必要で、これらを揃えるために陸上風力で5~10年、あるいはそれ以上の時間がかかる。このため、投資家にとっては、開発段階のリスクを避けて、運転開始直前の案件を買収することが低リスクで高リターンが期待できる。
一方で開発会社は、開発案件の稼働収益で投資回収するよりも、途中で売却した方が資金の回転率が高くなる。つまり、完成案件を早期に売却することで利益を確定し、次の案件へと資金を回すことができるため、再エネの追加性には大きく貢献している。
事実、90年代には日本の商社が米国で陸上風力発電所を開発し、安定操業後に売却するスキームを行っていたこともあった。こうしたことから日本国内のみならず、世界の国々でも発電資産の売買は一般的に行われている。国内でも徳島県のユーラスよんでん上勝神山ウインドファームが今年4月にユーラスエナジーHDから四国電力へ持分の50%を譲渡している。このように事業権益の売買そのものは決して悪いことではなく、事業継続が出来さえすれば問題はない。
事業権取引の投機目的化で
系統接続を阻害するケースも
| 時期 | 制度改正・運用見直し | 主な内容 | 具体的な対策 |
|---|---|---|---|
| 2016年5月 | 改正FIT法成立 | 「設備認定」から「事業計画認定」へ変更 | 実際に事業を行う意思・能力を重視 |
| 2017年4月 | 改正FIT法施行 | 接続契約を締結していない既認定案件は原則失効。事業計画認定制度を導入 | 投機目的の認定取得を抑制 |
| 2017年 | 運転開始期限を導入 | 太陽光を中心に運転開始期限を設定し、期限超過時は買取期間短縮などの措置を導入 | 「認定だけ取得して寝かせる」行為を抑制 |
| 2018〜2020年 | 未稼働案件対策 | 運転開始期限が設定されていなかった旧FIT案件について、一定期限までに事業が進まない場合は高いFIT価格を適用しないなどの措置を導入 | 高価格FITを維持したまま転売するメリットを縮小 |
| 2020年6月 | エネルギー供給強靭化法成立 | FIT制度を抜本改正し、FIP制度創設や認定失効制度を法制化 | 未稼働案件の整理を法的に強化 |
| 2022年4月 | 改正再エネ特措法施行 | 一定期間進捗がない案件はFIT/FIP認定を失効させる制度を開始 | 「権利だけ保有して転売」の抑止効果を強化 |
経済産業省による制度見直しの推移(筆者作成)
その一方でデメリットも少なくない。冒頭の事例は、転売を装って多額の手付金をだまし取ったもので、これによって事業権取引の問題点が明らかになったわけではない。しかし、事業権取引が投機目的化すると、そこに詐欺グループが入り込む余地が出ている。
特にFIT制度初期には、高い単価でFIT認定を受けたものの、実際には発電所をつくらずに権利を保持し続ける事業者が続出した。これにより健全な事業者が系統に接続できないという問題が出ていた。
また再エネ発電所の地元住民にとっては、地域との協議が全く行われていないのに突然、計画が進められたり、当初の開発会社と協議していたのに突然、別会社に経営権が移ったりすることで、それまでの協議内容が白紙に戻ることで事業への信頼性が失われることもあり、最悪の場合、事業を実施できなくなるケースも出てくる。
こうしたことから経済産業省は、投機的な案件の増加を抑えるため、認定制度や事業計画の審査を厳格化し、一定期間進捗のない案件への対応強化や、認定承継手続きの厳格化などを進めている。
投資家が安心して
事業権取引ができる制度の構築を
前述のようなデメリットは再エネ全体に悪い影響を及ぼすことになるが、事業権取引のメリットは大きいため、今後も権益転売は継続されると見られる。ただ今回の詐欺事件や国の規制強化を受けて、付加価値をより高めて権益を譲渡するという形に変化していくと見られる。
今後、国に対しては環境影響評価手続きや地域との合意形成、系統接続の確実性などを高めることで、事業実施の確実性が担保された案件、コーポレートPPA契約を交わしていることで事業予見性を高めた案件、地域への利益還元や生物多様性への十分な配慮がなされている案件などのように、投資家が安心して事業権取引をできるような制度の構築が求められている。

DATA
取材・文/宗 敦司










