【風力発電の安全対策】冬季雷区域は年1回の検査義務化、事業運用への影響は
2026/10/15
経済産業省は8月6日、冬季雷区域などで風車停止中の被雷把握や点検周期の短縮を義務付ける制度改正を施行した。専門家の声を交えて、今後の課題を探った。
メイン画像:秋田市の新屋浜風力発電所跡地、昨年5月にブレードが落下し設備全体が撤去された。
冬季雷区域では
点検周期を1年に
今回の見直しは、雷撃からの風車保護措置の明確化と定期自主検査における検査方法・周期の適正化を目的としている。「発電用風力設備の技術基準の解釈」の改正では、別図1のA線地域(冬季雷区域)において、ブレードに炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの導電性材料を使用する場合、引き下げ導体などと適切に電気的接続を行うことを義務付けた。また、風車への雷撃の有無を停止中も含めて「常に把握」できるよう落雷検出装置や監視カメラの施設、気象情報の利用といった措置を新設し、把握できなかった場合には内視鏡を用いたブレード内部点検などにより損傷を確認することを求めている。
「定期自主検査の方法の解釈」の改正では、ブレードの内部点検方法として視認およびアクセス不可能な範囲に対する「内視鏡による点検、非破壊検査その他これらに類する方法」が明記された。点検周期に関しては、A線地域に設置する設備は点検周期を「1年」とし、B線地域(夏季雷区域)の設備は点検周期を「2年」とすることが定められた。
中部大学工学部の山本和男教授は、20年以上にわたって風力発電の雷対策や落雷検出技術を研究し、国の審議会の委員をつとめている。山本氏は「冬季雷区域の点検は、これまでの2年に1回の方が不自然でした」と述べ、今回の制度見直しを前向きに評価する。そのうえで、発電事業者の責任の重さを強調する。
落雷発生時の閾値(しきいち)設定について、山本氏は事業者の自主的な管理運用を重視する見解を示している。落雷発生時の閾値とは、風車に一定以上の雷撃が加わった際、安全確保のため運転を直ちに自動停止させて緊急点検へ移行するかどうかを判断するための、電流値や電荷量などの基準値のことである。パブリックコメントでは、公平性の観点から、雷撃による風車停止の閾値を具体的に文面に記載することを求める意見が出されていたが、山本氏は「多くの風力発電設備にはその耐雷性能に弱点が存在します。そのような弱点を把握し、風力発電設備に適合した最適な閾値を自分たちで見つけて、それに基づいて運用していくことが発電事業者の責務ではないでしょうか。事業者は電気事業法の責任をしっかりと全うし、電源は安全であるべきという意識を持って運用してほしいと考えています」と語る。

ブレード点検周期の
厳格化に戸惑いの声
今回の改正に伴い、落雷条件が厳しい「冬季雷区域」においては、ダウンコンダクタの機能確認やブレード内部全体に対する内視鏡などの点検周期が「1年」と定められたため、定期自主検査における作業頻度が増加する。さらに、運転中のみならず停止中も含めて雷撃の有無を「常に把握」することが求められるため、停電時であっても作動するバックアップ電源などを備えた落雷検出装置の設置や常時モニタリング体制の構築が必要となる。停電や装置故障などにより雷撃の有無が把握できなかった期間が生じた場合には、稼働前にブレード内部の内視鏡点検などを実施しなければならず、これに伴う点検費用や風車停止による売電機会の変動が事業運用に影響を与える。
パブリックコメントにおいても、事業者やメーカーから技術的限界や補修費用の増大、ダウンタイムの増加に対する懸念が寄せられた。発電用風力設備に関する技術基準が適用される風車に一律に非破壊検査などを求めることへの反対意見に対し、経産省は「十分な保安水準が達成できる技術的根拠があれば特定の手法に限定するものではない」と回答している。
ブレード点検の
技能者養成が緊急の課題
大手風車メーカーの元エンジニアで株式会社風凛の吉田敏光氏は、現場における点検手法の実効性について、「最新機種は風車が大型化してブレードが長くなり、内視鏡を使って本当に先端部分の狭い隙間まで見ることができるのか疑問を感じています」と話す。さらに各種の非破壊検査についても、「さまざまな検査手法が存在しますが、日本国内で技術が十分に確立・浸透しているとは言い難く、結局はブレードを削ってみなければ落雷による焦げなどの内部被害を判別できないのが実情です」と打ち明ける。
ブレード点検の厳格化に伴い、事業者側からは費用のかかり増や人手不足を懸念する声が上がっている。人手不足をさらに深刻化させているのが、作業適期が限定されるという季節的な制約である。ブレードの精密な点検や補修作業は、強風や降雪を避け、一定以上の気温が確保できる春から晩秋までの期間に実施するのが一般的となっている。激しい暴風雪が吹き荒れる頻度が高い真冬に、日本海沿岸の風車を止めてブレード内部の調査を行うのは現実的ではない。結果として、限られた春から秋の期間に全国の事業者が検査・修繕業者へ発注を集中させることになり、特に資本力が乏しい中小規模の事業者にとっては、検査を依頼したくても引き受けてくれる業者が確保できない状況に陥るリスクが懸念されている。
そもそも、日本国内にはブレードの高度な点検や修繕技術の訓練に関して、公的に体系化されたライセンス制度が整備されていない。「高度な検査を求める改正規定が施行されても、点検作業員の育成はOJT(職場内訓練)に頼っているのが現状です」と吉田氏は体系的な訓練体制の不備を指摘する。吉田氏は、福島市にある風力発電専門のトレーニング施設でトップインストラクターをつとめている。福島市の施設でも、ブレード点検・修繕のトレーニングを開始しようと考えたが、現状では受講者の確保が見込めないという。
8月6日に改正規定が施行されたことを受けて、経産省は風力発電所の安全確保に向けた取り組みを継続する。今後は法令順守と事業促進の両立を目指し、ドローンや画像診断、データ分析技術を活用した検査の効率化と精度向上が求められる。一方で、落雷対策の根本的な解決に向けては設備そのものの信頼性向上や事業者の安全意識の向上が不可欠となる。落雷による事故を防止し、風力発電が地域社会の理解を得て健全に定着するためには、適切な維持管理計画の策定と技術検証の継続が欠かせない。こうしたなか、日本特有の過酷な雷環境に対応した設備開発を求める声が高まっている。
中部大学の山本教授は、「海外製の風車に頼るのではなく、日本の気象条件や自然条件に適合した国産風車の開発を急ぐべきと考えています。そのためには私自身も落雷対策の研究をもっと進めて、雷による事故をなくすためにしっかりと活動していかなければならないと強く感じています」と表情を引き締める。

DATA
発電用風力設備の技術基準の解釈及び電気事業法施行規則第94条の3第1号及び第2号に定める定期自主検査の方法の解釈の一部改正について
取材・文/ウインドジャーナル編集部
WIND JOURNAL vol.11(2026年秋号)より転載









