三菱商事チームの3海域総取りで激震! 「洋上風力第1ラウンド」とは何だったのか?
2022/04/06
洋上風力「促進区域」をめぐる実質的な第1戦(第1ラウンド)の入札結果発表から、3ヶ月が過ぎた。三菱商事チームによる超低価格での3海域総取りの衝撃は収まる気配を見せず、早くもルール見直しへの声が高まっている。第1ラウンドとは、何だったのか?
三菱商事“総取り”の衝撃
価格は他の1/2~2/3
一般海域での洋上風力発電事業は、再エネ海域利用法(※1)に基づいて国が定める「促進区域」でのみ実施される。促進区域では、最大30年間の海域占用が認められるなどメリットが多い一方、それ以外の場所では様々な制約があり事業計画が立てづらいためだ。
促進区域の指定は順次進んでおり、昨年、そのうちの3海域(「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖」、「千葉県銚子市沖」)について、公募・入札による事業者(コンソーシアム)の選定が行われた。実質的に初のコンペとなるもので、界隈では第1ラウンドと称され、その結果に注目が集まっていた。
昨年末に発表されたその結果は、驚愕の内容だった。3海域すべてで、三菱商事を中心とするコンソーシアムが事業者に選ばれたのだ。しかも、価格は競合したコンソーシアムの1/2から2/3程度と圧倒的に安い金額だった。「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」が13.26円/kWh、「秋田県由利本荘市沖」が11.99円/kWh、「千葉県銚子市沖」が16.49円/kWhというものだ。
※1 海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律
三菱商事チームが圧倒的な低価格で
全3海域を落札!
秋田県能代市・三種町・男鹿市沖
発電単価 13.26円
●事業者名:秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド
●構成員:三菱商事、三菱商事エナジーソリューションズ、シーテック
【事業計画概要】
発電設備:着床式洋上風力発電
発電設備出力:47.88万kW(1.26万kW×38基、GE製)
運転開始予定時期:2028年12月
秋田県由利本荘市沖
発電単価 11.99円
●事業者名:秋田由利本荘オフショアウィンド
●構成員:三菱商事、三菱商事エナジーソリューションズ、シーテック、ウェンティ・ジャパン
【事業計画概要】
発電設備:着床式洋上風力発電
発電設備出力:81.9万kW(1.26万kW×65基、GE製)
運転開始予定時期:2030年12月
千葉県銚子市沖
発電単価 16.49円
●事業者名:千葉銚子オフショアウィンド
●構成員:三菱商事、三菱商事エナジーソリューションズ、シーテック
【事業計画概要】
発電設備:着床式洋上風力発電
発電設備出力:39.06万kW(1.26万kW×31基、GE製)
運転開始予定時期:2028年9月
東京電力RP+住友商事など
強豪チームが相手だった
もとより三菱商事は国内有数の総合商社だ。コンソーシアムには、系列の三菱商事エナジーソリューションズと中部電力子会社のシーテックが加わる(由利本荘市沖ではウェンティ・ジャパンも)。さらに、協力企業として、Amazon、NTTアノードエナジー、キリンが名を連ねるという強力な布陣が組まれている。
とはいえ、各海域のコンペに参加した競合も、並々ならぬ事業者だっただけに、3海域“総取り”を予見できた人は少なかった。競合の顔ぶれは、東京電力や東北電力など大手電力会社、ユーラスエナジーや電源開発、日本風力開発など大手開発事業者、レノバやコスモエコパワーなど再エネ事業者、オーステッド(デンマーク)やエクイノール(ノルウェー)など海外のエネルギー企業、そのほか住友商事、大林組、JR東日本系列企業など。それぞれが強みを活かして、いずれ劣らぬコンソーシアムを組んでいた。
第1ラウンドに参加した主な事業者(コンソーシアム)
秋田県能代市・三種町・男鹿市沖
①三菱商事、三菱商事エナジーソリューションズ、シーテック
②JERA(※2)、電源開発、Equinor(ノルウェー)
③住友商事、東京電力リニューアブルパワー、JR東日本エネルギー開発 他
④日本風力開発、ユーラスエナジーホールディングス、Orsted(デンマーク)
⑤大林組、東北電力、Norhtland Power(カナダ)
秋田県由利本荘市沖
①三菱商事、三菱商事エナジーソリューションズ、シーテック、ウェンティ・ジャパン
②JERA(※2)、電源開発、Equinor(ノルウェー)
③レノバ、コスモエコパワー、東北電力、JR東日本エネルギー開発
④九電みらいエナジー、REW(ドイツ)
⑤日本風力開発、ユーラスエナジーホールディングス、Orsted(デンマーク)
千葉県銚子市沖
①三菱商事、三菱商事エナジーソリューションズ、シーテック
②東京電力リニューアブルパワー、Orsted(デンマーク)
※2 JERAは、東京電力フュエル&パワーと中部電力が出資する発電会社
求められる情報公開
第2ラウンド入札は6月締め切り
第1ラウンドの結果は、これから行われる第2ラウンド、第3ラウンドの試金石となるだけに、驚きとともに様々な懸念・疑問も聞こえてくる。
先に挙げた価格は、当該風力発電所から供給される電力の単価に直結するものだ。それが超低価格だったという事実は、国民負担を抑えるという観点から歓迎されるべきことに違いない。しかし、一方で、「最初からこの価格レベルとなると、日本には基盤が整っていない関連産業の採用・育成やサプライチェーン構築に支障を来たすことが懸念される」などの声も少なくない。
また、「そもそも、なぜこの価格が成り立ったのか」「価格以外の要素は適正に評価されたのか」などの疑義も指摘されている(P12~15参照)。まずは、第1ラウンドの評価内容について、詳細な情報公開が求められるところだ。
公募・入札の第2ラウンドは、「秋田県八峰町・能代市沖」が対象となる。2021年12月から公募占用指針の配布が開始されており、2022年6月10日に受付が締め切られる。約半年間の審査を経て、12月頃に選定結果が発表される予定だ(※3)。
再エネ海域利用法に基づく
手続きの流れ
取材・文:廣町公則
WIND JOURNAL vol.2(2022年春号)より転載