再エネ拡大にインパクトを与えるか、動き出した地域の金融機関
2022/09/12
銀行法の改正が後押しする
地方金融の脱炭素ビジネス
ここにきて、金融機関が再エネ発電を手掛け始めたのは、昨年2021年の銀行法改正による。これまでも「銀行業高度化等会社」として、子会社が銀行以外の他の業務を行うことはできたが、デジタルなど限られた分野しか認められていなかった。
(銀行法等の改正(業務範囲規制の見直し、銀行の子会社・兄弟会社) 出典:金融庁)
しかし、改正によって、“地方創生などの持続可能な社会の構築につながる業務”を営むことができるようになった。さらに、業務内容も、「銀行の創意工夫次第で幅広い業務に取り組むことが可能」と自由度が拡大している。山陰合同銀行の子会社、ごうぎんエナジーは、改正に沿った、発電に関わる最初の例である。
銀行法の改正とは直接関係しないが、この他、地域金融機関の活動で目立つのは、取引先の脱炭素化の支援である。特に、スコープ1,2,3で求められる温暖化ガスの排出量の算定のサポートがこのところ増えている。地銀などが、算定技術の保有会社と業務提携し、取引先企業の排出量の可視化や削減提案、資料作成などを支援するが一般的である。脱炭素を進めることで取引先の企業価値を上げたり、新しい資金需要を生み出したりなどで、厳しい経営環境にある地方金融機関の生き残りを図る目的もそこにはある。
改正前から取り組む先進例
~秋田、北都銀行
長期にわたって地元の再エネ拡大に取り組んでいる地域の金融機関もある。
秋田県の北都銀行は、10年前の2012年9月に、同社グループと地元の企業などと共に、風力発電の事業会社「株式会社ウェンティ・ジャパン」を立ち上げた。日本海側の優れた風を利用して、風力発電の開発、運営、管理などを行うことが目的である。地域資源の有効利用と地域内での経済循環が、人口が急減する秋田県の地銀としての重要な役割との考え方が根底にある。
事業は順調に進み、県内36基を含む風力発電38基を稼働させ、発電能力は100MWを超えている。秋田市から潟上市にかけての風力発電プロジェクト「秋田潟上ウインドファーム」は、合計22基、66MWの発電能力を誇る。事業主体は、ウェンティ・ジャパンが51%出資、三菱商事の関連会社などとの合弁である。このほか、秋田沖の3つの洋上風力プロジェクトの開発や市民出資による風力発電も積極的に進めている。
(「秋田潟上ウインドファーム」、撮影:筆者)
地銀としての北都銀行の姿勢は一貫している。
預金等残高、貸出金残高共に県内比率が9割を超え、事業の基本は地域である。
また、北都銀行の再エネ事業へのプロジェクトファイナンスは突出していて、再エネ向けの融資残高は全体の14%以上、およそ600億円となっている。
一方、企業として自らの脱炭素にも熱心である。
2021年1月には、地方銀行で初めて、秋田県でも初となる『再エネ100宣言RE Action』に参画し、再エネ電源への転換を表明した。地域の再エネ発電所の電力を活用し、2050年までに使用電力100%の再エネ化を目指している。
ファイナンスは、プロジェクトの基本であり、ネックにもなり得る。
再エネ拡大の推進役本体に金融が参加すれば、事業展開に弾みがつく。また、それが地域の金融であれば、直接、地域の経済循環効果が期待できる。地域主導の脱炭素は政府も掲げる旗印であり、地域の金融機関はその強力な担い手になる大きな可能性を秘めている。
プロフィール
エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。
北村和也
エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ