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五島発! 洋上風力のO&M事業が地域にもたらした雇用という経済循環【特集:長崎県五島市】

長崎県五島市を拠点に、風力発電設備のO&M事業を全国展開するイー・ウィンド。技術者の育成に力を入れるほか、島内の企業とも風力メンテナンスチームを構築したという。洋上風力が地域にもたらしたインパクトについて、代表取締役の橋本武敏氏に話を聞いた。

14年前に風車O&M専業にシフト
旧富江町の陸上風車がきっかけに

1990年に建設業として創業したイー・ウィンド(長崎県五島市)は、2008年に業態を転換し、現在は風力発電設備のメンテナンス専業だ。約14年も前に風力発電設備のメンテナンス業に舵を切ったのには、どのような経緯があったのだろうか。

「当社が本社を置く富江町には(市町村合併前の)旧富江町の設置した陸上風車が2基ありました。このメンテナンスをメーカーが行っていたのですが、島内でできないかという相談を受け、当社が手を挙げたのです。メンテナンスのノウハウを蓄積するうちにほかの地域の風車も手伝ってほしいとメーカーから依頼を受け、これが全国に事業を拡大するきっかけになりました」とイー・ウィンド代表取締役の橋本武敏氏は振り返る。

離島である五島は、島外から技術者を呼び寄せると交通費や宿泊費、人件費などのコストが膨らみやすい。そこで、島内でO&Mを“内製化”しコストを抑えるのが当初の目的だったという。

数少ない実機での訓練が可能
自社開発のシステムによる教育も

(イー・ウィンド本社内の情報管理センターの様子。風車や気象情報をリアルタイムで監視している。筆者撮影)

同社は今、北海道から鹿児島まで全国5ヶ所の事業所を拠点に、陸上・洋上風力発電設備のO&Mを行っている。本社内にある情報管理センターの壁一面に並んだモニターには、風車の様子、雷や風などの気象情報がリアルタイムに映し出されている。全国で作業に勤しむ従業員の作業時間や安全管理もここで行っているという。夜間はブラジルの拠点と連携しながら24時間体制で風車を監視する。

また、技術者の育成にも力を入れる。同社は旧富江町の風車1基を所有し、教育用として活用している。全国でも実機の風車でO&M訓練をできる施設はまだ少ないため、技術者を受け入れてほしいという要請も多い。受け入れた技術者は1年間、同社スタッフに同行しながら全国の風力発電設備で実地訓練を積むことができる。

さらに、経験の少ない技術者でもベテラン同様の作業ができるように「教育、訓練用タブレットシステム」「定期点検用システム」を自社開発したという。画面に従って作業を進めれば漏れなどを防ぐことができる。「風力発電のO&M業界は人材不足です。当社は、実践を通じた教育とシステムの両輪で技術者の育成を図っています。特に、今後の洋上風力では遠隔でのO&Mが求められるため、AIの活用なども検討しながらO&Mを進化させていきたいと考えています」と橋本氏は強調する。

風車メンテナンスチームを設立
島内企業の新規参入を後押し

風力発電O&M事業の積極的な展開によって、同社の従業員は3名から51名に増えた。中には島外からの移住者もいるという。雇用の面でも五島に経済循環をもたらす同社は近年、島内の企業が風力発電O&M事業に新規参入するサポートも始めた。

2018年に設立した「長崎ウィンドサービスグループ」では、イー・ウィンドと島内の企業がネットワークを構築、協力して全国の風力発電のO&M事業を行う。同グループにはすでに2社が参加し、五島市も支援しているという。「当社は地域に密着した企業として、地域全体が潤うことを重視しています。今後も、こうしたネットワークを広げながら地域に貢献していきます」と語る橋本氏は、五島の未来を見据えている。

話を聞いた人

有限会社イー・ウィンド 代表取締役 橋本武敏氏

有限会社イー・ウィンド
長崎ウィンドサービスグループ


取材・文:山下幸恵(office SOTO)

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