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東芝 秋田で部品供給網を早期構築へ【動き出す第1ラウンド事業①】

三菱商事を中心とするコンソーシアムが秋田、千葉の計3海域で進める洋上風力発電事業は、22年12月に公募占用計画が認定され、これから建設事業が動き出す。東芝子会社の東芝エネルギーシステムズは、秋田県内で関連部品のサプライチェーンの早期構築を目指している。洋上風力発電の第1ラウンド事業に参画する注目の企業を3回シリーズで特集する。


第1ラウンド事業の3海域の業務実施体制

秋田県と再エネ導入に関する
連携協定を締結


東芝ESSと秋田県が連携協定を締結=22年9月(出典 東芝ESS)

「関連部品のサプライチェーン(供給網)構築に向け、可能な限り秋田のリソースを活用したい」。東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)は22年9月、秋田県と再生可能エネルギーの導入推進や人材育成に関する連携協定を締結した。秋田県では、三菱商事を中心とするコンソーシアム(三菱商事系コンソ)が「能代市、三種町、男鹿市沖」と「由利本荘市沖」の2海域で洋上風力発電事業を進めている。さらに同じく秋田県の「八峰町、能代市沖」と「男鹿市、潟上市、秋田市沖」の2海域が促進区域に指定され、22年12月に事業者の公募を開始している。

秋田県との協定は、風力や地熱、太陽光、水力などの再エネ全般の導入支援、洋上風力の部品製造・調達におけるサプライチェーンの構築、再エネ関連産業に関わる人材育成、再エネの地産地消、電気をムダなく使う仮想発電所(バーチャルパワープラント=VPP)の活用、水素の製造・活用の6項目で連携する内容。

再エネ事業の売り上げを
10年間で3倍以上に


25~26年をめどに秋田県で部品供給網を構築(出典 東芝ESS)

東芝は、再エネ関連事業を新たな収益の柱と位置付けている。20年11月に発表した中期経営計画「東芝Nextプラン」進捗報告で、再エネ関連事業の売り上げを19年度の1900億円から、25年度に3500億円、30年度には6500億円と、10年間で3倍以上に拡大する目標を掲げている。

経済産業省などが入る官民協議会がまとめた「洋上風力産業ビジョン」では、40年までに洋上風力発電の機器、部品の国内調達比率を60%まで引き上げることを目指している。東芝ESSはこれに対応して、国産化する機器、部品を増やす方針。同社の四柳 端社長は「秋田で部品調達を進め、洋上風車の組み立てが始まる25~26年をめどにサプライチェーンの構築を目指す」と述べた。秋田県の佐竹敬久知事は「協定の締結をうれしく思う。県内企業の設備投資への支援や技術指導に全力で取り組んでいく」と部品供給網の構築に官民一体で取り組む考えを強調した。

今後1~2年で
秋田県内のサプライヤーを確定


GE製の超大型風車が設置される「秋田県能代市、三種町、男鹿市沖」

三菱商事系コンソが事業を進める秋田、千葉の計3海域では、GE製の超大型風車「Haliade-X」が採用される。「Haliade-X」は発電出力が1万3000キロワット。高さが最大で248メートル、ローター径は220メートルに達する。

「GEと東芝は長年にわたって発電分野で協力関係を維持してきた。日本の大型台風に耐えうる技術を持つGEと連携し、洋上風力発電事業を拡大していく」。東芝ESSは21年5月、GEリニューアブルエナジーと洋上風力発電システムに関する戦略的提携契約を締結し、「Haliade-X」の主要部分の製造を国内で進める方針を明らかにした。同社が「Haliade-X」のナセルに関する組み立て、倉庫、輸送、予防保全サービスを提供し、日本市場における販売と商取引に関する責任を担う。


東芝とGEの最新設備を導入した西名古屋火力発電所(出典 東芝ESS)

東芝とGEは、1982年から複数の設備を組み合わせた「コンバインドサイクル発電システム」の分野で協力関係を維持してきた。13年には効率よく発電できる最新鋭の火力発電設備を共同で開発・販売する合弁会社を設立している。18年には、中部電力西名古屋発電所(愛知県飛鳥村)の発電設備が世界最高の発電効率を達成し、ギネス世界記録の認定を受けた。

風力発電メーカーの世界シェアでトップクラスを誇るGEの強みは、風速60メートルの強風にも耐えられる安全性能。主力モデルの「Haliade-X」は、国際認証機関DNVから安全性能の最高クラスとなる「T1」の認証を取得している。「Haliade-X」は、英国の沖合130キロの北海に建設中の世界最大の洋上風力発電所、ドッガーバンクに採用された。米国初の大規模洋上風力発電所、マサチューセッツ州ヴィンヤードでも導入が決まっている。

風車部品の国産化について東芝ESSは、部品の量産を23年度半ばに始め、ナセルの組み立ては横浜市鶴見区にある京浜事業所で24年初頭に開始する計画。溶接部材や治工具、架台などの部品も国内調達を推進するという。同社は、22年10月から秋田市に担当社員を駐在させ、今後1~2年のあいだに秋田県内のサプライヤーを確定する考えだ。

「部品製造を1社だけで担うのは簡単なことではない」「複数の会社が共同で取り組んでいくことはできるのか」。秋田県は、22年10月に地元メーカーとの意見交換会を開催した。秋田県内の企業関係者約30人が参加し、東芝ESSの担当者が必要となる部品や技術要件について説明した。秋田県と東芝ESSは、今後も地元企業とのマッチングの機会を増やし、内蔵機器の地元調達を増やしていく方針。

洋上風力発電
国産技術を培う第一歩へ


秋田県の再エネ工業団地が整備される旧能代西高跡地(秋田県能代市)

「米国製の最新風車を採用すると聞いて、地元企業の出番はないだろうとあきらめていた。世界レベルの仕事に関わる絶好の機会なので、積極的に技術の習得に励みたい」。秋田県沿岸部の金属加工メーカーの幹部は目を輝かせる。

「ナセルの部品は1~2万点あり、当初は横浜市の京浜事業所で組み立てる。技術的に安定している部品から、GE側と調整して段階的に国内産に切り替えていく」。東芝ESSとGEの技術提携は、当面はナセルの組み立てのみ。ブレードやタワーは海外のGEの工場から調達する。

15年に不正会計が発覚して以来、東芝は経営危機を乗り越えるため「収益の柱」だった事業をいくつも手放してきた。東京の青山霊園には、東芝の創業者、田中久重の墓がある。そこにある記念碑には「東洋のエジソン」と呼ばれた田中が遺した言葉が記されている。「万般の機械、考案の依頼に応ず」。世の中に役立つ、どんなものでもつくるという意味だ。22年3月に就任した島田太郎代表取締役社長兼CEOのもと、東芝は量子暗号通信や再エネ事業などの新しい分野を創造し、混迷からの脱却を目指す。

政府は、総発電量に占める再エネの比率を30年度に36~38%まで拡大する目標を掲げる。しかし、いまの日本には洋上風力発電設備の製造を手がけるメーカーが1社もない。三菱重工や日立とともに国のエネルギー事業を牽引してきた東芝は、世界的な風力発電メーカーのGEと提携して、秋田を舞台に国産技術を培う第一歩を踏み出した。

DATA

東芝エネルギーシステムズ ニュースリリース
秋田県と再生可能エネルギー導入推進に関する連携協定書締結
https://www.global.toshiba/jp/news/energy/2022/09/news-20220930-01.html
GEと東芝が洋上風力発電システム分野において戦略的提携契約を締結
https://www.global.toshiba/jp/news/energy/2021/05/news-20210511-02.html


取材・文/高橋健一

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