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シリーズ「再エネの未来」市場規模5兆円! 風車O&Mの人材育成に必要な基礎知識とは? 【福島県の風力メンテナンス基礎講座・後編】

O&Mには6000人の技術者が必要
GWOトレーニングが必須条件に

この先、急拡大が予想される風力発電産業において、風車O&Mの人材不足は喫緊の課題だ。「国が掲げる2030年の導入目標を4MW基の風車に換算すると、国内の風車は約8,600基に増えます。1チーム5名、点検に適した年間約30週間で定期点検を実施する場合、定期点検だけでも1,433名が必要になると考えています。これにトラブル対応や運用の人員を加えると、2030年までに約5,000〜6,000名のO&M人材が必要になると予想されます」と菅野氏は話す。

しかし、O&M人材のニーズが急増すれば、中には十分なトレーニングを受けずに従事する作業員も増えると予想されることから、労働災害が発生する恐れもあると菅野氏は警鐘を鳴らす。実際に、風車の導入が進む海外では、O&M技術者の人材不足だけでなく労働災害などが問題になっているという。

そこで、世界の風車メーカーが共同で設立したGWO(Global Wind Organisation)という非営利組織では、風車O&Mを安全に行うのに必要なトレーニング基準を定めている。GWOは、各風車メーカーの安全トレーニングや事故事例などから最低限必要な安全教育基準を設定し、トレーニングプロバイダーの認証などを行っている。

「シーメンスガメサ、GE、ベスタス、エネルコンといった風車メーカーの多くが、O&MにあたってGWOのトレーニングを受講することを義務化、もしくは推奨しています」と菅野氏は強調する。

FOMアカデミーでBSTを提供
風車O&M技術者の“専門学校”に

(廃校を活用したFOMアカデミーのグラウンドには、風車のさまざまな部品が並べられている。筆者撮影)

GWOの認証を受けたトレーニング機関は世界全体で500ヶ所以上あり、国内には、FOMが運営する風力発電専門トレーニング施設「FOMアカデミー」を含む4ヶ所がある。FOMアカデミーでは、2022年8月から一般の受講者向けにトレーニングを提供している。

現在、FOMアカデミーで提供している基礎安全トレーニング(BST、Basic Safety Training)の内容は次の4つだ。

(1)ファーストエイド(初期応急処置):
心肺蘇生やAEDを使った訓練のほか、限られた人数で迅速に仲間を助けるための訓練を何度も繰り返して身につける。
(2)マニュアルハンドリング:
狭いタワーの中で重い部品や工具を安全に運ぶための体の使い方などを学ぶ。ケガはO&M技術者が離職するもっとも大きな原因であるため、長く働き続けることができるノウハウを習得する。
(3)ファイヤー・アウェアネス(火災予防と消火):
CO2消火器の使い方や煙で視界が限られた状態での逃げ方など、風車内で火災が起きた場合の対処の方法を学ぶ。
(4)ワーキング・アット・ハイト(高所作業):
作業仲間がハシゴの途中で意識を失ってしまったケースなど、限られた人数の中でどうやって人命を救助するのかという観点から非常時を想定した訓練を行う。‬

FOMアカデミーは、東アジア最大のGWO認証トレーニングセンターTIWTC(台湾)とパートナー提携を結び、協力してトレーニングインストラクターの養成にも取り組んでいる。また、油圧工具メーカーのITH(ドイツ)ともパートナー提携し、事故リスクの低減やO&Mの省力化など向けた取り組みも行っている。また、GWOトレーニングのみならず、O&M技術者の育成に必要なさまざまなトレーニングを提供することも計画しているという。

(FOMアカデミーの展示室には風車O&Mに使用する工具やハーネスなどさまざまなものが展示されている。筆者撮影)

「FOMでは『2040年までに県内エネルギー需要量の100%以上に相当する量のエネルギーを再生可能エネルギーで生み出す』という福島県の目標のもと、地域に新たな産業を根付かせようと活動しています。福島市内のFOMアカデミーでは、風車や工具などO&Mに関するさまざまな展示を行うなど情報を開示し、O&M技術者の“専門学校”としての役割を果たしたいと考えています。風車O&M事業への参入を目指す多くの方に訪れてもらいたい」と意気込みを見せる。

話を聞いた人

一般社団法人ふくしま風力O&Mアソシエーション
事務局長 菅野辰典氏

福島県・エネルギー・エージェンシーふくしま
「令和4年度風力メンテナンス基礎講座(社会人向け)」より


取材・文:山下幸恵(office SOTO)

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