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シリーズ「再エネの未来」市場規模5兆円! 風車O&Mの人材育成に必要な基礎知識とは? 【福島県の風力メンテナンス基礎講座・後編】

風車O&M事業をスタートするにあたって、人材を育成するには何が求められるのか。福島県で2月に開催された「風力メンテナンス基礎講座」では、風車O&Mの人材育成に必要な考え方や基礎知識について、風車O&M事業を新たな地域産業とすることを目指すふくしま風力O&Mアソシエーションの菅野辰典氏が講演した。同講座レポートの最終回だ。

(アイキャッチ画像:FOMアカデミーの高所作業の訓練設備。廃校の体育館を利用して高さ8メートルの設備を自作したという。筆者撮影)

<風力メンテナンス基礎講座のレポート第1弾はこちら>
<風力メンテナンス基礎講座のレポート第2弾はこちら>

風力メンテナンス基礎講座第3弾
定期点検の人材を育成するには?

福島県での再生可能エネルギー関連産業の育成・集積を目指す中核機関「エネルギー・エージェンシーふくしま」が、2月16日に開催した風力メンテナンス基礎講座のレポート第3弾だ。

同講座ではまず、風力発電のコンサルタントであるECOJの山本朋也代表取締役が、風車O&Mの中でも異業種からの新規参入に適しているのは定期点検だと述べた。続いて、風車O&Mの人材育成に取り組む風凛の吉田敏光ゼネラルマネージャーが、定期点検の具体的な作業内容を解説した。

最終回の今回は、風車O&M事業を新たな地域産業とすることを目指す地元企業の集合体・ふくしま風力O&Mアソシエーション(FOM)の菅野辰典事務局長の講演についてだ。FOMは、風力発電に関心のある地元の中小企業や個人が風車O&M事業などに新規参入するサポートを行う非営利組織であり、菅野氏はFOMを設立した企業の一社である誠電社の開発営業部長だ。

O&M関連コストは全体の3分の1
2030年には5兆円超の市場規模に

菅野氏ははじめに、風車O&Mのコストが風力発電のライフサイクル全体でどれくらいのインパクトを持つのかについて解説した。経済産業省は、洋上風力の場合のO&Mにかかるコストをライフサイクル全体の約36%と試算している。「陸上風力の場合も同様に、O&Mのコストはライフサイクル全体の約3分の1にのぼると考えています」と菅野氏は話す。


(洋上風力産業の全体像とコスト構造。出典:経済産業省)

陸上の風車1基あたりのライフサイクルコストは、規模によって異なるが15〜20億円。その3分の1にあたる5〜7億円が風車1基のO&Mに充てられるということだ。

また、カーボンニュートラルに向けた動きが加速することから、風力発電の市場規模は今後、大きく成長すると見られている。2021年の市場規模が約4,000億円であるのに対し、経済波及効果を含めた2030年の市場規模は約15兆円に拡大するという。「単純に計算すると、風車O&Mの市場は2030年には5兆円を超えると考えられます。風車O&Mに携わる事業者が少ない今、この成長市場へ積極的に飛び込んでほしい」と菅野氏は力を込める。

ファイナンス面でもO&Mは重要
メーカー保証はLTSAが主流

続いて菅野氏は、風力発電プロジェクトの資金調達の観点から風車O&Mの重要性を訴えた。一般的な風力発電プロジェクトでは、企業に対してではなく、特定のプロジェクトに対して融資する「プロジェクトファイナンス」の形態をとることが多い。その際の審査のポイントは、設計工事や風車メーカーの製造責任に加えて、長期にわたって発電所を維持・管理する保守能力だという。

また、風車O&M事業に参入する際の基礎知識として知っておきたいのが、風車メーカーの保証に対する考え方だ。従来のメーカー保証では、風車の納品後1〜3年間などの期間を設定し、風車メーカーが品質を保証することが一般的だった。保証期間を過ぎると有償での修理となり、修理対応の順番待ちや海外からの部品の調達待ちなどによって発電をストップする期間が長期化することもあったと菅野氏は振り返る。

しかし近年は、風車メーカーによる「長期稼働率保証(LTSA、Long Term Service Agreement)」が主流になっている。LTSAとは、風車メーカー自身が長期にわたって風車の稼働率を保証する仕組みで、風が吹けば風車が発電できる状態であることを風車メーカーが約束するものだ。一般的には93〜97%の稼働率を保証するケースが多いという。

「稼働率が保証されるということは、売電収益が上がる時間が保証されていることと同じ。これは、プロジェクトファイナンスで融資する金融機関にはプラスです。その一方で、保証された稼働率を下回った場合には、その売電収益の相当額を風車メーカーが支払うことになり、メーカーの損失になります。そのため、発電できない時間を極力短縮するためにメーカー自身の努力が求められているのです」(菅野氏)

このように風車メーカーによるLTSAが主流になった今、メーカー自身が15〜20年といった長期にわたって風車O&Mに取り組む可能性が高まっているという。「つまり、風車O&M事業者にとって、発電事業者だけでなく風車メーカーも営業アプローチの対象になりうるということです」と菅野氏は指摘する。

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