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【洋上風力第4ラウンド】第1ラウンド事業へのFIP適用に厳しい意見が相次ぐ 事業者ヒアリングを実施

洋上風力発電の第1ラウンド事業に、FIP制度を適用可能にする公募占用指針の改定案に異論が噴出している。今月3日に実施された事業者からのヒアリングでは、一部から賛成する意見が出されたが、第2、第3ラウンドの選定事業者などから厳しい意見が相次いだ。

<目次>
1.パブコメの6割以上がFIP適用への意見
2.公募時のパブコメでFIP転換を否定
3.CPPA市場にも影響 FIT入札再開を求める声も

 

パブコメの6割以上が
FIP適用への意見

洋上風力促進に関する経済産業省と国土交通省の小委員会合同会議が6月3日に開催された。この会議では、今年3月に示された公募占用指針改定案に関する事業者からのヒアリングが行われた。改定案は公表後にパブリックコメント(意見公募)を実施しており、その結果が3日の合同会議で初めて示された。

今回の改定案では、電源投資の完遂に向けた新たな保証金制度や価格調整スキームの適用のほか、海域占用期間を現状の30年からさらに延長可能とすることで事業の採算性を向上させることなどが盛り込まれている。そのなかでも特に注目されているのが第1ラウンド事業についてFITからFIPへ条件変更を可能とする案だ。

固定価格買取制度(FIT)を適用した第1ラウンドの公募において、三菱商事を中心とする企業連合は2021年12月に圧倒的な低価格を提示して、秋田・千葉の計3海域の事業者に選定された。その一方で、第2、第3ラウンドの公募ではFIP制度が適用され、ゼロプレミアムでの落札が相次いでいる。つまり第1ラウンドと第2、第3ラウンドでは公募の前提条件が大きく異なっており、第2ラウンド以降は固定価格にとらわれず、相対取引での自由な価格での事業形態へと大きく変貌した。

しかし、その後勃発したロシアのウクライナ侵攻に伴い、資材価格の高騰などの影響で採算性の確保が難しくなり、三菱商事はゼロベースでの事業見直しを行っている。そうしたなか国は今年3月、第1ラウンド事業にFIP制度の適用を可能とする公募占用指針の改定案を示し、パブリックコメントを実施した。

改定案へのパブリックコメントは166件寄せられ、そのうち6割以上を占める109件がFIP制度の適用に関するものであった。その主な内容は「事後的な変更であり、法的な安定性と公平性を著しく損なう。特定企業の救済との疑念を招く」、「FITを前提にして事業者選定を行った案件へのFIP転換を認めるべきではない。再公募するのが公平だ」、「事業途中の制度変更は事業者にとって不安材料にもなる」といった反対意見が多数を占めた。

公募時のパブコメで
FIP転換を否定


整理すべき論点案(出典 経済産業省)

経済産業省は「再エネ全体の政策としてFIT認定された電源のFIPへの移行を国として推進している。22年4月のFIP制度の導入後、FIPへの移行は制度上認められているが、今回の改訂に合わせて明確化するために条件変更を行うことにした」と今年3月の洋上風力ワーキンググループで説明している。太陽光発電などでは再エネ賦課金の国民負担軽減の観点から、以前からFIPへの転換を進めており、洋上風力もその一つと位置づけている訳だ。

それなのになぜ、これほどの反発が出ているのか。3日に行われた事業者ヒアリングの内容を見ると良くわかる。まず公平性の観点から「FIPへの事後転換は、第1ラウンドで想定していなかった。FITとFIPでは収支計画の考え方が全く異なるので、再公募が適切だ。再公募の前に次点以下の応札者に意向を問うべきだ」(グリーンパワーインベストメント)。「第1ラウンド公募の際にFIPへの転換が可能という理解であれば価格入札の結果が変わっていたと考えられる」(ユーラスエナジーHD)。「第1ラウンドはFIPが前提の再公募を検討すべき。公募ルールの事後変更は原則認めず、やむを得ない場合でも透明性を担保すべきだ」(レノバ)。


第1ラウンド公募のパブリックコメントへの回答(出典 経済産業省)

第1ラウンドの公募の際、パブリックコメントの意見に対して国は、「FIT認定を受けて事業を実施することを前提にしており、途中からFIP制度へ移行することは想定しておりません」と明確に回答している。

CPPA市場にも影響
FIT入札再開を求める声も


コーポレートPPA市場の現状(出典 三井不動産)

また、第1ラウンド事業をFIPとすることで、第2、第3ラウンド事業への影響も懸念されている。3日の事業者ヒアリングで注目されたのが住友商事の意見だ。「第2、第3ラウンド事業の総容量は2.8GW。そこに第1ラウンド事業からのFIPへの移行で新たに1.7GWが市場に参入することになる。しかしある試算によると、24年のコーポレートPPA(CPPA)電力は900MW台。その多くが安価な太陽光発電によるものだ。洋上風力発電事業者のコントロールを超えるコスト増が発生した場合に、それを支えるユーザーを確保できる市場ではない」。

第1ラウンド事業のFIPへの移行によって、第2、第3ラウンド事業者のオフテイカー確保が難しくなる。こうした意見は、ほかの事業者からも多く出されている。「(洋上風力の)PPA単価は太陽光や陸上風力に比べてかなり高い。市場価格と乖離したCPPA価格を長期契約することは難しい」(三井不動産)。「第1ラウンド事業がPPA市場に入ることになるが、原材料費・輸送費・⼈件費などの⾼騰により売電価格を高くせざるを得ない。オフテイカーも高値のため再エネを選択できずに交渉が難航している」(東京電力リニューアブルパワー)。事業環境の厳しさから「FIT入札の再開」を望む声も出てきた。

事業者ヒアリングでは、一部の事業者からFIP制度への移行に賛成する意見も出された。「第1ラウンド事業者に認められることになったFIP移⾏については、過去の国からの説明や業界とのコミュニケーションが不⾜していたことに起因する混乱があったと認識しておりますが、政府としてすべての洋上⾵⼒事業の完遂をサポートしようとする姿勢は歓迎するものであり、その⼀環として第1ラウンド事業のFIP転を認めることについても理解できるものと考えています」(村上胎内洋上⾵⼒発電)。

業界団体からは、「公募制度は全ての事業者が公平な競争条件下で評価される仕組みであるべき、市場からの信頼性(公平性、透明性)確保、後続事業者の投資回収の予見性確保、電源投資を完遂するための確実性の担保が重要。業界団体を含む全事業者に意見聴取する機会を設けることが望ましく、今後は、継続的かつ定期的な意見交換をお願いしたい」(日本風力発電協会)。「すべての電源においてFIP転を推進することには違和感はないが、第1ラウンド洋上プロジェクトが含まれるという認識を業界としても共有していなかった。今後、認識の齟齬が⽣じないよう事業者団体との情報共有を徹底していただきたい」(再⽣可能エネルギー⻑期安定電源推進協会洋上⾵⼒委員会)。今後の検討は、より慎重に透明性を確保しつつ進めていく必要がある。

お詫びと訂正

本記事のなかで、「第1ラウンドはFIPが前提の再公募を検討すべき。公募ルールの事後変更は原則認めず、やむを得ない場合でも透明性を担保すべきだ」というコメントの発言者を、当初「丸紅」と記載しておりましたが、正しくは「レノバ」の発言でした。

誤:「第1ラウンドはFIPが前提の再公募を検討すべき。公募ルールの事後変更は原則認めず、やむを得ない場合でも透明性を担保すべきだ」(丸紅)。

正:「第1ラウンドはFIPが前提の再公募を検討すべき。公募ルールの事後変更は原則認めず、やむを得ない場合でも透明性を担保すべきだ」(レノバ)。

読者のみなさま、丸紅株式会社さま、並びに関係各位のみなさまにご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。

2025年6月16日
株式会社アクセスインターナショナル
WIND JOURNAL編集部

DATA

総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会洋上風力促進ワーキンググループ 交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会 合同会議(第32回)


取材・文/ウインドジャーナル編集部

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