【秋田市 ブレード落下事故を徹底検証】落雷による損傷を把握できないまま運転を継続したのが原因
2026/04/22
昨年5月、秋田市の風力発電所でブレードが落下した事故で、発電事業者が1月21日、最終報告書を公表した。過去の落雷によって、ブレード内部が損傷した状態で運転を継続したことなどが原因と推定されるとしている。
メイン画像:ブレードが落下した新屋浜風力発電所。(秋田市)
1.風車ブレードが落下 倒れていた男性が死亡
2.経済産業省の審議会で最終報告書を公表
3.メーカーが放電痕を確認 重大ではないと判断
4.地形性乱流も複合的な要因の可能性
5.地形性乱流の影響を 多角的に分析
6.秋田県男鹿市の事故と 地理的な条件が酷似
風車ブレードが落下
倒れていた男性が死亡
「容易に見ることがができない場所が事故の起点になったので、そのようなところをどのような手法で対策すればいいのかというところを業界全体で考えなければいけない問題だと思っております」
発電事業者 さくら風力の盛高健太郎社長が1月26日、秋田県や秋田市の担当者と面会し、国の審議会に報告した内容を説明した。この事故は、昨年5月2日午前、秋田市新屋町の海岸近くに設置されている新屋浜風力発電所からブレード1枚が落下し、その近くで倒れていた81歳の男性が死亡した。ブレードはつけ根の部分が折れて、数十メートル離れた休憩所付近に落下し、その近くで男性が頭にけがをして倒れていたという。
事故が起きた秋田市の新屋浜風力発電所は、2009年に運転を開始した。出力1990kWの風車が1基の発電所だ。風車はドイツのエネルコン社が製造した。この発電所では、運転開始の翌年の10年にもブレードが落下する事故が発生している。

経済産業省の審議会で
最終報告書を公表
さくら風力は、事故の10日後に事故調査委員会を設置して原因究明を進めてきた。最終報告書では、事故原因としてブレード内部において、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製スパーキャップ部と、ダウンコンダクター、それに接続されたC形金属が、電気的に接続されていない構造であったことから、被雷時にそれらの間で大きな電位差が生じて放電が発生し、損傷が生じたと推定されるとしている。
ブレードには落雷によって放電した痕が5ヶ所で見つかった。ブレードが折れた部分の近くの2ヶ所を含む4ヶ所に避雷針の役割を果たす「中間レセプタ」が設置されていたが、その2ヶ所の「中間レセプタ」とC形金属に近接するスパーキャップやバルサ材が過去の落雷によって局所的な損傷を受けていたと推定されるとしている。その放電の痕は確認されていたものの、局所的な損傷は認識されないまま、風車の運転を継続したことで損傷が進展しブレード強度が低下して、ブレードが折れたと推定されると結論づけている。
メーカーが放電痕を確認
重大ではないと判断
風車のメンテナンス会社は、法律に基づく保安規定や自主指針に従って定期的に点検を行っていたが、損傷があった箇所は点検の範囲外だったため、発見することができなかったという。一方、風車メーカーのエネルコンは、落雷によってブレードが破損した海外の事例を受けて、17年に事故があった風車を点検し、その際にブレードの内部で落雷による放電痕を確認していた。しかし、エネルコンは重大な損傷ではないと判断し、メンテナンス会社に報告しなかった。そして、その3年後に「中間レセプタ」を取り外した際にも、認識していた放電痕のことをメンテナンス会社に報告していなかったという。さくら風力は、事故が発生した新屋浜風力発電所について、早期に撤去し事業を廃止する方針を明らかにした。
経済産業省電力安全課は、最終報告書を受けて、既存の風力発電所について、事故機と同様のダウンコンダクターとCFRPが電気的に接続されていない構造のブレードの使用の有無を確認するため、風車の設置者やほかのメーカーへの聞き取りを行うこと、ブレード内部の点検においてアクセス困難な箇所では、ダウンコンダクターのみではなく、ブレードの内部全体を検査範囲とすることを検討すること、外観からは必ずしもわかり得ないブレードの複合材内部の損傷を点検する最適な技術的方法を検討することなど5点の対応案を示した。
地形性乱流も
複合的な要因の可能性

雄物川の河口近くにある新屋浜風力発電所 南側に小高い山がある。
九州大学応用力学研究所附属再生可能流体エネルギー研究センターで、風工学が専門の内田孝紀教授は、今回の最終報告書について「限られた期間のなかで丁寧に調査をしていると思いますが、落雷による損傷だけがクローズアップされるのはどうなのでしょうか」と疑問をなげかける。内田氏は落雷だけではなく、複雑な地形に起因する「地形性乱流」が要因のひとつとなった可能性を指摘する。
気象会社のウェザーニューズは昨年5月、現場付近で事故当日に乱流(不規則な風)が発生していたという検証報告を公表した。同社の独自モデルによる解析の結果、事故当日に、地表付近と風力発電の風車部分の高さとなる90m付近、さらに上空の160m付近で風速の差が大きくなっていたことがわかった。新屋浜風力発電所が設置されている場所は、海岸が近く、秋田県で最大の河川である雄物川の河口にもほど近い。南側に標高124mの大森山がある。
秋田県の沿岸部には、秋から春にかけて、シベリア方面から北西の季節風が吹きつける。そこに雄物川の上流から河口に向かって反対方向からの強い南東風が吹くことによって、風力発電設備に悪影響を与える乱流が発生する可能性があるとウェザーニューズは指摘する。現場付近では、過去5年間で2年に1回程度の頻度で吹いていた10分間平均風速10m/s以上の強い南東風が、今年は4月13日に続いて事故当日にも確認され、1ヶ月間に2回も発生している。
地形性乱流の影響を
多角的に分析

地形性乱流の影響。(出典 内田研究室)
九州大学の内田氏は、地形性の日常的な乱流による風車の不具合を多角的に分析している。地球温暖化による気候変動は、世界規模で風況(風の強さ、向き、頻度、季節変動)に大きな変化をもたらしている。そうしたなか、乱流による風車の不具合は日本国内でも数多く報告されているという。
「不規則な風(乱流)が吹くと、ヨーモーターやヨーブレーキなど、風車のナセルを回転させる箇所にかなりの負荷がかかります。私たちの身体と同じで、何かが起きて不具合が生じた時に気づくのではなく、だんだんと進行しているわけです。特に乱流による金属疲労は目に見えない形で進みます」(内田氏)。
地形性乱流は、風が急峻な地形を過ぎる際に渦(剥離流)をつくり、この乱流は一旦発生すると長距離にわたって消えずに持続するという。巨大な山だけでなく、風車直近にある標高100m程度の砂山や起伏、植生の変化さえも、重大な乱流の起点となり得ると内田氏は説明する。
京都府の太鼓山風力発電所で、13年に風車上部が折れてナセルと風車ブレードが丸ごと地面に落下する事故が起きた。この事故は、地形由来の乱流が風車にボディブローのような金属疲労を蓄積させ、最終的に損壊を招いたことが原因とみられている。
秋田県男鹿市の事故と
地理的な条件が酷似

秋田県男鹿市の船越水道 河口近くの現場、右端の風車のブレードが折れている
秋田県男鹿市で2026年4月12日、海沿いに設置されている陸上風力発電所のブレードが根元近くから折れているのが発見された。昨年5月に秋田市でブレードが落下した風車と同機種で、同じ会社が保守管理を請け負っていた。男鹿市の現場は、八郎湖と日本海を結ぶ「船越水道」左岸の河口近くで、秋田市の現場と地理的な条件が酷似している。
風力発電設備の事故防止対策について、内田氏は「私は国にあまり厳しく規制してほしくないという立場です。画一的なルールを決めてしまうと、真面目に取り組んできた事業者まで縛ることになるからです。今後は風車の管理をメンテナンス業者に任せっきりにせずに、発電事業者が自ら、最新の気象状況などを定期的に確認して、それに応じた適切な対策を講じていくことが求められていると思います」と強調する。

取材・文/ウインドジャーナル編集部
WIND JOURNAL vol.10(2026年春号)より転載







