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シリーズ「再エネの未来」風車O&Mに異業種から新規参入するには? 【福島県の風力メンテナンス基礎講座・前編】

風車O&Mのニーズが高まる一方で、技術者の不足が懸念されている。O&M技術者の育成や獲得に力を入れる福島県が2月に開催した「風力メンテナンス基礎講座」では、人材不足の現状や異業種からの参入などについて、風力発電事業のコンサルタントであるECOJの山本朋也氏が解説した。

(アイキャッチ画像:南相馬市の万葉の里風力発電所。筆者撮影)

風力発電産業の人材不足
建設やO&M関連業務で顕在化

福島県の再生可能エネルギー関連産業育成・集積のための中核機関「エネルギー・エージェンシーふくしま」が、2月16日に開催した風力メンテナンス基礎講座を3回にわたってレポートする。第1回目の今回は、風車O&Mの人材不足や新規参入の可能性について、風力発電事業に関するコンサルティングを行うECOJ代表取締役の山本朋也氏の講演内容をお届けする。

風力発電産業における人材不足は、いったいどれほど深刻なのか。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、2021年における全世界の再生可能エネルギー関連産業全体の就業者数は約1,270万人。そのうち、風力発電産業の就業者数は全体の1割を超える約130万人にのぼった。中長期的にみると、再エネ関連産業に必要な人員はますます増えると山本氏は指摘する。


(再生可能エネルギー関連産業における雇用者数の予想(右)。『PES』は政府のシナリオ。『1.5-S』は1.5℃目標の実現を踏まえたIRENAのシナリオ。出典:国際再生可能エネルギー機関)

日本も例外ではない。IRENAは、日本で1.5℃目標を実現するのに必要な再エネ関連産業の就業者数は、2019年の33万人から、2030年には95.7万人に増えると予測する。2019年のデータであることを考慮しても、再エネ関連産業で現在の3倍近くの人員が必要になるということだ。

また、日本風力発電協会(JWPA)は、2022年末時点の国内の風力発電導入量は約480.2万kWだが、再生可能エネルギーを主力電源化するには、2050年までに合計1億3,000万kWに増やさなければならないとしている。「この先、風力発電が急速に導入されるのに伴って、さまざまな業務の必要性が飛躍的に高まるでしょう。中でも、建設工事とO&M関連業務の人材不足はすでに顕在化してきています」と山本氏は話す。

異業種から参入するなら定期点検
事前に安全面などの訓練は必須

講座では、風車O&M事業への新規参入を検討する事業者に向けて、保守業務の基礎的な知識についても解説された。まず、保守業務を行う主体には発電事業者、風車メーカー、独立系サービス会社がある。O&M事業に新規参入する事業者にとっては、これらの主体が営業アプローチの対象になりうる。


(O&M内容と風車メーカーのノウハウ領域。出典:経済産業省)

次に、O&Mの関連業務は定期点検からトラブルシューティングまで幅広い。その中でもっとも難易度が低いのが定期点検で、異業種から参入するには、定期点検から始めるのが好ましいという。また、定期点検は年間の実施回数が決まっているため売り上げなどの見通しを立てやすく、事業運営の面からも利点があると山本氏は強調する。

定期点検の項目には、ボルト締めといった簡易な作業もある。風車のタワー同士をつなぐフランジ箇所などには何百本というボルトが使われており、安全に稼働するにはボルトに緩みがないか一本一本確認し、増し締めする作業が欠かせない。しかし、風車に使われるボルトは一般的なものよりはるかに大きくて重く、ボルト1本あたり10数キログラムにのぼることもある。そのため、事前に専門の訓練を受け、安全に作業できる体制を整えることが重要だという。


(実際に風車に使われるボルト。500円玉と比べるとその大きさがわかる。筆者撮影)

高所作業だけではない風車O&M
地方企業で新規参入に成功事例も

風力発電機の保守業務は、高所作業やロープワークなど特殊な作業のイメージが先行しているが、実際は発電事業、製造、建築・土木といった職種と親和性の高い作業も多いという。JWPAの「洋上風力スキルガイド」では、風力発電機の保守業務などと親和性の高い職種を下表の通りまとめている。


(風力発電の保守業務と親和性の高い業種。出典:日本風力発電協会『洋上風力スキルガイド 第1版』)

地方の企業の中にも、異業種から風車O&M事業に新規参入して成功した事例があるという。例えば、建設業を営んでいたイー・ウィンド(長崎県五島市)は、地元の風車O&Mを請け負ったことをきっかけに、風車O&M事業に業態を転換した。現在は従業員が3名から50名超に増え、全国5ヶ所に事業所を展開している。また、クリーニング業から風車O&M事業に参入した北拓(北海道旭川市)は、国内に多数のメンテナンスサービス拠点をもち、積極的に事業を展開している。両社とも独立系サービス会社だ。

「風車O&M事業は、風力発電の導入拡大とともにニーズが高まり、事業として大きく発展する可能性もあるでしょう。風車O&Mはハードルが高いと考えず、多くの企業に新規参入を検討してほしい」と山本氏は力を込める。

2月2日(水)の再エネビジネス塾では、FOMアカデミー 事務局長の菅野辰典 氏が、「風力発電O&M 新規参入の基礎知識」実践編 ~人材育成と地域振興~ というテーマで講演します。

新規事業として再エネビジネスを検討しているみなさまにおススメのオンライン勉強会。今回のテーマは「風力発電O&Mへの新規参入」の実践編です。O&M事業会社のまわりにはビジネスチャンスがたくさんあります。部品修理工場、船舶、宿泊、商社、ヘリコプター、通訳、ガイド、トレーニングセンターなどが必要になります。陸上だけでなく、特に洋上はサイドビジネスがいっぱいあります。今回のセミナーでは、人材育成と地域振興をテーマに、風力発電O&Mを地域の産業として育てるには何が必要なのか、人材育成のポイントなどについて実例を交えて詳しく解説します。

話を聞いた人

株式会社ECOJ
代表取締役 山本朋也氏

福島県・エネルギー・エージェンシーふくしま
「令和4年度風力メンテナンス基礎講座(社会人向け)」より


取材・文:山下幸恵(office SOTO)

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