福島県沖のEEZを含む洋上風力発電調査事業 三菱総研が委託契約候補者に
2024/04/17
福島県沖のEEZを含む洋上風力発電事業に関する調査事業業務委託の公募型企画プロポーザルについて、福島県は3月27日、委託契約候補者に三菱総合研究所を選定したと発表した。
洋上風力の導入ポテンシャルと
産業基盤創出の可能性を調査
福島県沖で浮体式実証研究事業=2016年7月(出典 経済産業省)
この事業は、排他的経済水域(EEZ)を含む福島県沖全域を対象として洋上風力発電設備の導入ポテンシャルを探るとともに、洋上風力に関連する新たな産業基盤創出の可能性について検討を深めることを目的に、洋上風力発電事業に関する調査を実施する。
委託費の上限額は5000万円(消費税及び地方消費税を含む)で、委託期間は、(消費契約締結日から2025年3 月14 日まで。公募型企画プロポーザルには2社が企画提案書を提出し、審査の結果、委託契約候補者に三菱総合研究所を選定した。
2040 年頃をめどに
再エネでエネルギー自給を
福島県は、2021年12 月に改定した「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン2021」にいて、2040 年頃をめどに、県内のエネルギー需要量の 100%以上に相当する量のエネルギーを、再生可能エネルギーから生み出すという目標を掲げている。そのなかでは、海沿いにある浜通り地方の産業基盤の創出を目指す原動力として再エネを重要な柱に位置付ける「イノベーション・コースト構想」を推進していて、さらに2016年9 月には、国、県、関連企業などが一丸となってエネルギー分野からの福島復興の後押しを一層強化していくためのプラン「福島新エネ社会構想」を策定し、2023年 7 月には「福島新エネ社会構想加速化プラン」を公表している。
福島県では、2040年の再エネ導入目標を達成するためには、陸上での再エネ導入に加え、洋上での再エネ導入についても検討していく必要があるとしている。洋上風力発電事業に関する調査事業業務委託の事業内容は下記のとおり。
(1)本県沖全域を対象とした自然条件に関する文献等調査
洋上風力発電事業の検討にあたり必要となる自然条件(風況、水深、波高、地盤等)や海洋生物、鳥類等について、文献・データベース等により調査し、本県沖での洋上風力導入ポテンシャルを分析・整理する。なお、導入ポテンシャルの分析・整理にあたっては洋上風力発電設備の技術開発動向等を踏まえて行うこと。
(2)利害関係者の特定、海域利用状況等に係る文献・ヒアリング等調査
文献・ヒアリング・アンケート等により、漁業者をはじめとする利害関係
者を特定するとともに、本県沖(EEZ含む)における利害関係者の海域利
用、航路等としての利用状況を整理する。なお、利害関係者へのヒアリング等にあたっては、本県(他県)関係課、関係団体(水産庁、福島県漁業協同組合連合会等)とも連携し、ヒアリング等の方法を検討するとともに、ヒアリング等の対象者選定においては偏りが生じないように留意すること。
(3)電力系統の確保に関する検討
洋上風力発電事業を実施するために必要となる電力系統の確保、連系先について整理する。なお、検討にあたっては電力系統利用状況、電力系統に関する各種制度の整備状況、電力広域的運営推進機関が策定するマスタープラン、一般送配電事業者の整備計画等の内容を踏まえるとともに、電力系統確保に関する課題がある場合には解決策についても併せて検討すること。
(4)地域貢献、発電した電気の地産地消等に関する検討
洋上風力発電事業による地域貢献、漁業との共生策、洋上風力発電所において発電した電気の地産地消等(水素生成等含む)に関して検討する。なお、検討にあたっては、課題を整理し、課題の解決策についても併せて整理すること。
(5)洋上風力関連産業集積に向けた検討
洋上風力関連産業の種類について整理するとともに、県内企業の関連産業参入可能性、県内への産業集積可能性について検討する。なお、検討にあたっては県関係課や関係機関(エネルギー・エージェンシーふくしま等)とも連携するとともに、沿岸部の自治体における洋上風力の受け止め、産業集積への期待についてもヒアリング等を行うこと。
(6)発電事業者に対するヒアリング等調査
本県沖での洋上風力発電事業の検討状況及び検討可能性についてヒアリング・アンケート等により調査する。なお、ヒアリング等の対象者は主たる事業者として洋上風力発電事業を開発する能力を有する事業者を複数選定すること。併せて、主たる事業者にはなり得ないが部分的な協力が可能な能力を有する県内事業者に対してもヒアリング等を実施し、県内事業者の事業参画可能性、事業参画スキームについても検討すること。
(7)洋上風力発電事業に係る法整備状況に関する調査
EEZでの洋上風力実施、日本版セントラル方式等の洋上風力発電事業に係る法整備の状況及び今後の方向性について整理する。
(8)事業実施の可能性を有する地点の特定
(1)~(7)の結果を踏まえ、洋上風力発電事業を行うための自然条件が適しており、利害関係者からの理解が得られやすいと考えられる地点(以下、「有望地点」という。)を特定する。なお、有望地点の特定にあたっては、導入可能量、設備導入コスト、工期、法定手続き、O&Mコスト等も踏まえ、事業実現可能性と費用対効果が高い複数地点を特定すること。
(9)県内港湾の拠点港としての利用可能性に関する調査
洋上風力拠点港(建設拠点港、O&M拠点港等)として求められる要件について整理するとともに、県内港湾の拠点港としての利用可能性について検討する。なお、検討にあたっては、拠点港の整備に必要となる工事費、工事期間、本県沖以外の洋上風力発電事業での利用可能性等も踏まえること。
(10)経済波及効果の分析
(8)及び(9)の結果に基づき、事業の開発、施工、運転・保守及び撤去等まで含め、県内産業等への経済波及効果、雇用創出効果、洋上風力発電立地による効果(建設時の宿泊者増加、観光客数増加等)、地方自治体の収入(法人事業税、港湾使用料、固定資産税等)を算出すること。なお、経済波及効果を増大させるための方策や課題、対応策についても併せて検討すること。
(11)洋上風力に関する検討会の実施
本業務委託の実施に当たっては、適宜、関係者との打合せを行い、業務進捗の報告や洋上風力発電事業実施に関する諸課題の共有と解決策、調査結果の活用に向けた検討等を実施すること。上記達成のため、検討会を実施し、関係者間の情報共有及び必要に応じて合意形成を図ることとする。検討会の構成員は、国、県、漁業者、市町村、地元関係者及び有識者等を想定し、県との協議により決定すること。なお、開催方法及び開催頻度については、調査事業の進捗を踏まえて決定するものとし、受託者においては検討会資料の作成と当日説明、開催にあたって必要となる会場手配、有識者等に対する謝金・旅費の支払い、構成員の日程調整等の業務を行うものとする。
震災後に経産省が
浮体式実証研究事業
福島県沖では、経済産業省が2011~2021年度に浮体式洋上風力発電の実証研究事業を行った。同事業は、丸紅(プロジェクトインテグレータ)、東京大学(テクニカルアドバイザー)、三菱重工業、ジャパンマリンユナイテッド、三井造船、新日鐵住金、日立製作所、古河電気工業、清水建設、みずほ情報総研からなる「福島洋上風力コンソーシアム」が経産省からの委託を受けて実施した。楢葉町の沖合約20キロに3基の風車を設置したが、2020年12月に民間への引き継ぎを断念し、風車や洋上変電所、海底ケーブルなどのすべての設備が撤去された。経産省は、設備の不具合が原因で利用率が低迷したとして、適切な設備を使えば事業化の可能性はあるとの認識を示していた。
DATA
【審査結果公表】「福島県沖における洋上風力発電事業に関する調査事業業務委託」に係る公募型企画プロポーザルの実施について
取材・文/高橋健一