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国は撤退ドミノを全力で食い止めよ。リスク回避できる魅力ある制度設計を

三菱商事の3海域全面撤退は風力発電業界、沿岸自治体、地元企業などの関係者に大きな衝撃を与えた。国は「撤退ドミノ」を全力で阻止しなければならない。

メイン画像:第1ラウンド「秋田県由利本荘市沖」。

 

<目次>
1.3海域の全面撤退は関係者に大きな衝撃
2.多くの事業体が応札する魅力ある制度設計を

 

3海域の全面撤退は
関係者に大きな衝撃

「事業環境が一変して建設コストが当初想定の2倍以上に膨らみ、事業期間における総売電収入よりも、保守・運転費用を含めた総支出が上回るという試算となった」と、三菱商事の中西勝也社長は会見で第1ラウンド3海域からの撤退理由を語った。

業界関係者からは、千葉県銚子沖は撤退するとしても、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖か由利本荘市沖のどちらかは規模を縮小したとしても事業を続けるのではとの楽観論が出ていた。それだけに、3海域すべての撤退は衝撃だった。

撤退の影響は地方経済にもおよぶ。土木工事や部品調達などを地元企業と協力し、さらに売電収入の一部を地元の漁業協同組合に還元するなど、地域活性化が期待されていたからだ。政府は、再公募を速やかに検討する方針だが、地元住民、企業、自治体の信頼を失ったうえに、いまからゼロベースで立ち上げるのはハードルが高い。

秋田県の鈴木健太知事は「まずは極めて残念かつ極めて遺憾であると思っている。よもや撤退ということはないだろうと思っていたので、たいへんな衝撃をもって受け止めている。知事として経済波及効果を県内にもたらしましょうと挑戦を促してきた立場であることから、その影響は極めて大きい」とショックを隠さない。

千葉県の熊谷俊人知事は「地域経済の活性化のためにも大きな期待を寄せていたので事業者の撤退はたいへん遺憾だ。地元に多大な影響がおよぶことになるので、事業者にはしっかり説明責任を果たしてもらいたい」と訴える。

 

 

多くの事業体が応札する
魅力ある制度設計を

三菱商事の全面撤退で最も懸念されているのは、「撤退ドミノ」が発生することだ。再エネ海域利用法に基づく事業者公募はすでに第2、第3ラウンドが実施済みで、JERAや東北電力、関西電力、東京ガス、三井物産、住友商事、丸紅などの7つの企業連合が落札して、事業開発に着手している。

第2ラウンド以降は、事業スキームがFIP制度に変更されている。選定事業者は、環境価値のある電力として高価格で買い取ってくれる販売先の企業をいかにみつけるかが、事業遂行のカギとなる。

しかしウクライナ侵攻以降、7つの企業連合も風車など資機材や建設コストの高騰に直面している。ある選定事業者は「当初想定した総事業費よりもすでに1000億円以上、上振れしている」と打ち明ける。

そもそも国の公募による入札制度の設計が甘かったのではとの指摘がある。インフレ対応条項は、公共事業などの工事契約に盛り込まれているが、当初の洋上風力公募制度に含まれていなかった。着工段階の見積価格からインフレ率が上乗せされるのは容易に想像がつくにもかかわらず、当初から想定していなかったのだ。

国は公募ですでに落札した案件と、これから公募を実施する第4ラウンド以降の案件を完遂させるため、入札制度の見直しを進めている。すでに落札された案件にもインフレ対応を適用するほか、海域占用期間を延長するなどの支援策を講じる方針だが、残念ながら後手後手の印象のうえ、まだまだ不十分だ。

経済産業省と国土交通省は8月26日に合同会議を開催し、海域占用期間の延長に合意した。しかし、発電事業者から要望が出ていた長期脱炭素電源オークションへの参加容認については、国側が慎重な姿勢を示している。

ちなみに政府は、第1ラウンドの三菱商事には、FITからFIP制度への移行を認める方針を示していた。第2、第3ラウンドで落札した企業連合と同じ条件にリセットして、しかもインフレ対応などの支援策も適用する方向だった。それでも、三菱商事は3海域から全面撤退した

国は7月30日、「北海道松前沖」と「北海道檜山沖」の2海域を促進区域に指定した。入札制度の見直しが決まり次第、第4ラウンド2海域の公募が始まる見通しだ。国は撤退ドミノを回避し、これからの公募では、できるだけ多くの事業体が応札する魅力ある制度設計にしなければならない。

 

 

PROFILE

松崎茂雄

エネルギー問題を20年以上にわたって取材。独自の視点で国の政策に斬り込む経済ジャーナリスト。趣味は座禅とランニング。


WIND JOURNAL vol.9(2025年秋号)より転載

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