ノキアが築く「プライベートワイヤレス」が洋上風力発電のDXを加速する
2021/12/29
フィンランドに本拠を置くノキアは、通信インフラの開発ベンダーとしてエネルギーや製造、運輸、物流といった幅広い分野で活躍している。陸上のような通信ネットワークのない洋上風力発電所で、信頼性の高いデータ・音声通信システムをどのように構築するのか? 欧米で先行するノキアの「プライベートワイヤレス」について、同社の岡崎氏に伺った。
洋上風力に不可欠な通信インフラ
「プライベートワイヤレス」とは
洋上風力発電の開発が進む欧州では、風力タービンは沿岸から数10kmの沖合に設置される。このような洋上には通信ネットワークが存在しない。建設時の作業者間のコミュニケーションや陸上との通信、運用後のリアルタイムでの状態確認などを行うには、通信ネットワークを新たに整備する必要がある。
ノキアは、こうした通信ネットワークのない洋上に自立的な無線通信「プライベートワイヤレス」を新しく構築する。プライベートワイヤレスにはローカル5GやプライベートLTEなどが含まれる。
岡崎氏は「電波の送受信が可能な範囲は、Wi-Fiが100m程度であるのに対し、プライベートワイヤレスは10~50kmと広いのが特徴です。グローバルに通信できる衛星通信もありますが、高額です。ノキアのプライベートワイヤレスはコスト競争力が高く、北海や米国など世界中の発電事業で採用されています」と話す。
プライベートワイヤレスの分野においては、ノキアは世界トップのシェアを誇る。米国カリフォルニア州の電力会社センプラ・エナジーの陸上風力発電にもプライベートワイヤレスの通信ネットワークを提供している。
郊外で高所にある陸上風力発電は、公衆網と呼ばれる一般的な通信ネットワーク網の圏外だ。風力タービンの機関部は地上から数100mの高所にあり、クレーンを使った修理には莫大な費用がかかる。ノキアが提供するプライベートワイヤレスによってタービンやセンサーの状況監視が可能になり、不具合の予防保全につながっている。
安全で効率よい洋上風力発電事業
プライベートワイヤレスで実現
日本の洋上風力発電は現段階では欧州よりも規模が小さく、沿岸から数kmでの設置から開始されることが予想される。そのため、今後、国内の法制度も含めてプライベートワイヤレスによる通信ネットワークの検討が進むと考えられる。
こうした通信ネットワークは、発電設備の建設段階から必要となる。洋上風力発電の導入が進む日本で、ノキアのプライベートワイヤレスの重要性が増す。「9月末に東京ビッグサイトで開催されたスマートエネルギーWeekに出展したのですが、その後、複数企業からお問合せをいただいています」と岡崎氏は言う。
日本でも今後、風力タービンの大規模化に伴って設置場所が沖合に移れば、欧米のように海底ケーブルを敷設して通信する必要性も高まってくる。また、陸上でも山間部の風力発電所などは公衆網の圏外となることもある。プライベートワイヤレスというノキアのデジタルトランスフォーメーション(DX)が、再エネ最優先の社会をより安全に、効率よく築いていくと期待される。
話を聞いた人
ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社
ノキアエンタープライズ営業本部
シニア事業開発マネージャー
岡崎真大氏
取材・文:山下幸恵(office SOTO)