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洋上風車の電気を届ける五島市民電力、島民の電気代が安くなるという地域還元【特集:長崎県五島市】

五島市民電力は、洋上風力発電で作った電気を需要家に届ける役割を担っている。風車のメンテナンス事業を営むイー・ウィンドの代表取締役であり五島市民電力の代表取締役社長でもある橋本武敏氏に、五島市民電力に託した思いについて詳しく話を聞いた。

(アイキャッチ画像:福江港近郊の風景。筆者撮影)

出資や取次ぎを通じて賛同募る
地域の協力が支える五島市民電力

福江島沖(長崎県五島市)に浮体式洋上風力発電ができたのは2013年。洋上風車は島のシンボルとして知名度を高めていったが「洋上風車が一般の市民や企業にどのようなメリットをもたらすのか、わかりやすく伝えることに困難を感じていた」と橋本氏は言う。

そこで、洋上風力による電気を従来より安く提供することで、一般の市民や企業にメリットを感じてもらおうと設立したのが五島市民電力だ。設立にあたっては、洋上風力発電事業への理解を深めてもらうため、できるだけ多くの企業や商店などに参画してもらったという。その結果、40を超える企業・団体・個人の出資が集まった。五島市は出資していないものの、協定を締結してエネルギーの地産地消などに向けて連携している。

次に、小売電気事業の営業形態として取次ぎを選択し、地域の企業や商店に取次店になってもらった。取次ぎの形態では、取次店が需要家との契約を取り付けた場合、小売電気事業者から販売手数料が支払われ、取次店の収益になる。

出資者や取次店の協力を得る際には「勉強会を開くなどして、少しずつ理解を得ていきました。随分と時間をかけてじっくりと話をしました」という橋本氏。再生可能エネルギー事業に賛同してもらうためにも、多くの出資者を集めることを重視していたという。また、取次店という形態で地域の協力を仰いだからこそ、事業を拡大できたと振り返る。「五島市民電力は、地域のパートナーである取次店との共存共栄を目指しています」と橋本氏は話す。


(取次店の離島エネルギー研究所が販売する、五島市民電力の市民限定割引プラン『ごとうの電気』従量電灯B。九州電力の単価から5%引きだ。出典:五島市民電力)

島内の経済循環と再エネの訴求
需要家の窓口という役割果たす

五島市民電力は、洋上風力に加え、島内のFIT発電所や一般家庭の太陽光発電設備などからも電源を調達している。この12月からは、島外の電源調達や電気の需給管理も自社で行うことにしたという。これによって島内の経済循環をより高められるようになる。また、現在建設中の洋上風力から電気を調達できるようになれば、五島産の電気100%で運営できると橋本氏は展望を語る。

五島市民電力の供給先は、約半分が五島市の市有施設、次いで民間企業や商店などだ。今後は、一般家庭や島外の九州エリアの需要家にも積極的にアピールしていきたいという。同社では、同社を身近に感じてもらう取り組みの一環で、学生のクラブ活動などの遠征費の補助も行っている。

また、同社は2021年、福江商工会議所と協力して「五島版RE100」の取り組みをスタートした。これは、再エネ100%の電気で事業運営を目指す国際イニシアチブ「RE100」にならったものだ。再エネ由来の電気に付加価値を与え、多くの企業や商店などに関心を持ってもらう狙いがある。これは複数のメディアで取り上げられるなど、一定の効果をあげつつあるという。

電力価格高騰の中でも値上げせず
顧客との当初の約束の価格を維持

小売電気事業をめぐっては、資源価格の高騰や卸電力市場の高止まりなどの影響から厳しい状況が続いている。それでも五島市民電力は値上げをせず、企業努力によって顧客と当初約束した価格を維持しているという。五島の資源の1つである再生可能エネルギーの価値をより広めるため、地域の需要家との接点としての役割を果たしていきたいと橋本氏は力を込める。

話を聞いた人

五島市民電力株式会社 代表取締役社長 橋本武敏氏
五島市民電力株式会社


取材・文:山下幸恵(office SOTO)

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