【動き出した第1ラウンド事業②】 千葉県銚子市沖 1本の風車が夢をつなぐ
2023/08/18
千葉県銚子沖に10年前、洋上風力発電の実証機が設置された。2017年に撤去される予定だったが、地元からの要望で存続することになり、2019年に商業運転に移行した。1本の洋上風車は、地域振興のシンボルのような存在になっている。
(アイキャッチ画像 銚子市沖の洋上風車 出典:東京電力リニューアブルパワー)
1本の洋上風車が
思わぬ効果
銚子市沖の洋上風車(右)と風況観測タワー(左) 出典:東京電力リニューアブルパワー
「数年前からこのあたりではヒラメがたくさん釣れるようになったんですよ」
JR銚子駅から車で10分ほどの名洗港。沖合に巨大な風車と風況観測タワーが並んで立っている。海面からの高さは126メートル。最大出力2400キロワットの大型風車だ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の公募事業として東京電力グループが2009年に研究を始め、洋上の風況や、塩害に対する耐久性、漁業や環境への影響などを検証しながら風車を開発・建設し、2013年に実証運転が始まった。
洋上風車の潜水調査報告(出典 東京電力リニューアブルパワー)
この実証機は、国内初の「着床式」の洋上風車として設置され、平均風速7.3m/s、設備利用率32.1%(陸上風車の1.6倍)、大型台風が接近時の安全性の確認、塩害に対する耐久性の確認といった成果をあげたが、それに加えて思わぬ効果をもたらした。潜水調査の結果、海中の基礎部分に藻類が付着し、魚介類がすみ着いていることがわかった。基礎の壁面にイセエビやマダコがすみ着き、その近くではイシダイやカンパチ、メジナの群れが確認されたのだ。
銚子市漁協が
漁場実態調査
銚子港の水揚げ量は12年連続日本一
「漁業が洋上風力と共生していくためのさまざまな施策、調査を行い、当該調査に基づいて新しい共生策を作り、その共生策に基づいてさまざまなことに出捐金を活用しようと考えています」。銚子市漁業協同組合は昨年5月から長崎県の潜水会社に依頼して、周辺海域の漁場実態調査や海底地盤の調査を始めた。専門のスタッフが地元の漁業者とともに漁獲調査に取り組み、洋上風車を生かして海を豊かにするための方策を探る方針。
銚子漁港の水揚げ量は12年連続日本一。銚子市沖は、水深200mの大陸棚が広がり、北上する黒潮と南下する親潮、そして利根川の流入による交錯で日本有数の好漁場となっている。サバ、マイワシ、サンマといった多獲性魚のほかに、カツオ、マグロなどの回遊魚、キンメダイやヒラメ、カレイなどの底魚など約200種類におよぶ近海の魚介類が水揚げされる。しかし、ほかの地域と同様に漁業者の高齢化が進んで、後継者不足が深刻化している。
市や漁協などが
新会社を設立
千葉県銚子市沖の促進区域
銚子市では2020年9月、市と市漁業協同組合、銚子商工会議所が稼働後の設備保守などを担う新会社「銚子協同事業オフショアウインドサービス(C-COWS)」が設立された。市漁協が60%、銚子商議所が30%、市が10%を出資している。三菱商事系企業連合は、洋上風車の操業・保守においてはC-COWSとの連携を念頭においた体制整備を検討している。
三菱商事系企業連合は、漁業との共生や振興のための基金として総額118億円を拠出する予定。118億円の内訳は、銚子、旭両市の基金に計100億円、県漁業振興基金に15億円、漁場実態調査のための銚子市の基金に3億円となっている。
地域活性化につながる共生策(出典 千葉銚子オフショアウィンド合同会社)
昨年5月から実施している漁場実態調査は、事業者側が拠出する基金を活用したものだ。銚子市漁協では、実態調査の結果をふまえて人工魚礁を設置し、新たな漁場の創出を目指す方針。銚子市漁協の坂本雅信組合長は、「総額118億円におよぶ基金は漁業に対する補償ではなく、漁業を中心とした水産都市銚子として共生していくためのものと思っている。洋上風車の実証試験の経験と実績を踏まえて、銚子が洋上風力発電の開発と漁業の共存共栄のモデル的な地域になれればとの思いで、この事業を三菱商事系企業連合と一緒にやっていきたい」としている。
DATA
取材・文/高橋健一