パワーエックス、苫小牧港の脱炭素化へ連携協定 電気運搬船を活用
2024/01/19
自然エネルギーの普及と蓄電事業を展開するパワーエックスが昨年12月、北海道苫小牧市の苫小牧港管理組合と、港の脱炭素化に関する包括連携協定を結んだ。同社が建造する電気運搬船や蓄電池を活用して、臨海部の工場などへの電力供給を目指す。
(アイキャッチ画像 苫小牧港管理組合と包括連携協定 出典:パワーエックス)
蓄電池を利活用した
陸上電力供給設備を導入
蓄電池を利活用した港の脱炭素化(出典 パワーエックス)
パワーエックスは、2021年3月に設立されたスタートアップ。三井物産や日本郵船、電源開発などが出資し、大型蓄電池の製造・販売、EVチャージステーションのサービス展開などに取り組む。昨年5月に電気運搬船の初号船「X」の詳細設計を発表した。苫小牧港管理組合は、苫小牧市の岩倉博文市長が管理者を務める。
昨年12月26日に包括連携協定の締結式が行われ、パワーエックスの伊藤正裕CEOと苫小牧港管理組合の佐々木秀郎専任副管理者が協定書に署名した。協定の主な内容は、(1)港湾脱炭素化推進のための、港湾内における車両EV化、臨海部における蓄電池を利活用した陸上電力供給設備の導入などを検討する。(2)パワーエックスは電気運搬船で運ばれた再生可能エネルギーを、苫小牧港臨海部に立地する企業やふ頭などで利活用することを検討する。(3)苫小牧港管理組合は、電気運搬船事業の実現にむけて、苫小牧港における港湾施設の利用調整及び港湾施設の占用などについて協力を行う。(4)パワーエックスと苫小牧港管理組合は協力して、苫小牧港立地企業などとも連携を図りながら、苫小牧港臨海部における再生可能エネルギーの貯蔵・供給・利用の促進について検討し、港湾脱炭素化推進、新しい産業の創出及び災害時の電力確保による地域のレジリエンス向上に取り組むとしている。
蓄電池による陸上電力供給設備(出典 パワーエックス)
苫小牧港への設置を検討する蓄電池は、20フィートコンテナほどの大きさで、一般家庭250世帯が1日に消費する電力をためられる。今後、道内の風力発電や太陽光発電でつくった電気をためて、同港周辺で利用が見込まれるEVの充電や、ふ頭の荷役作業の電源として、複数の蓄電池を設置する計画だ。
電気運搬船
2025年の完成を目指す
電気運搬船のイメージ図(出典 パワーエックス)
パワーエックスが建造する電気運搬船の初号船「X」は船長140m、全幅18.6m。デッキに96個のコンテナ型船舶用電池を搭載し、電気容量は240MWh。左舷側にある8ヶ所のコネクタにケーブルを接続すると、3時間で充放電できる。蓄電池は独自設計のモジュールで、安全性の高いリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池セルを使用。6000サイクル以上の長寿命をもつ。同社によると、電気輸送が目的の船は世界初で、2025年の完成を目指す。
船に搭載するすべての蓄電池は、DNV や Class NK などのさまざまな国際船級認証や 適用規格に準拠する製品を、岡山県内で自社生産し、2024 年中に出荷する計画だ。初号船「X」は2025年の完成を目指す。2026年からは、横浜市や九州電力(福岡市)などと実証試験開始を目指す。
休廃止の火力発電所の再利用(出典 パワーエックス)
パワーエックスは、電気運搬船の活用方法として、今後、休廃止する計画の火力発電所が増加するなか、既存の系統設備を活用して電気運搬船の充電、放電地点として再利用することを検討している。電気運搬船は、海の底に設置する海底ケーブルと比べ、地震や津波などの影響を受けにくいとしている。船で送電することで、送電システムの破損リスクを低減することもできる。大規模な災害時には、電気運搬船が停電などに見舞われた被災地へ向かい、国内外問わずに電力供給支援を行うことも期待される。
室蘭港を
北海道の拠点港に
北海道室蘭市と包括連携協定(出典 パワーエックス)
パワーエックスは昨年7月、北海道室蘭市と「電気運搬船及び蓄電池の開発及びその利活用による室蘭港のカーボンニュートラル形成及び地域の振興に向けた包括連携協定」を締結した。同社の電気運搬船について、室蘭港を北海道の拠点として利用することについて協議を進める。
北海道では、今後洋上風力発電などの再エネの導入が加速すると予想されているが、本州とのあいだの系統容量の不足が大きな課題となっている。パワーエックスは、系統容量の不足を電気運搬船で補完する計画。浮体式洋上風力発電の送電にも活用することで、海底ケーブルの敷設による事業費の増大や故障リスク、洋上変電設備での変圧といった課題の解決にも貢献できるとしている。
DATA
苫小牧港での電気運搬船と蓄電池の利活用に向けた包括連携協定を締結
取材・文/高橋健一