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岩手県久慈市沖、浮体式検討委が最終会合 漁業協調策の具体案を公表

大規模な浮体式の先行事例として注目を集める岩手県久慈市沖の浮体式洋上風力発電検討委員会最終会合が3月12日に開かれ、漁業協調策の3つの具体例を盛り込んだ最終報告書案が公表された。

<目次>
1. 2021年9月準備段階に進んだ区域に
2. 浮体式検討委の最終報告書案を公表 
3. 風況調査で事業性が見込めると判断 
4. 漁業者と対話の継続が必要
5. 採算ラインは30~70万kWと回答 
6. 漁業協調策で3つの提案 
7. 2基の風車で久慈市の消費電力量

 

2021年9月
準備段階に進んだ区域に

2021年に公表された岩手県久慈市沖のゾーニングマップ(出典 久慈市役所)

岩手県北部の久慈市は、同市沖の水深70メートル以上の海域で大規模な浮体式洋上風力発電の導入を検討している。2018~20年度に現地調査などを実施し、2021年2月にゾーニングマップを公表した。このマップでは、沿岸から約22.2キロまでの領海内を「漁業活動を優先するエリア」と「漁業との協調を検討するエリア」に区分けしている。地元の漁業者・発電事業者への意向調査と、主に漁業者を中心としたワークショップの議論を踏まえてとりまとめた。

2021年2月に公表したゾーニングマップでは、沖合15~20キロの水深110メートル以上の海域と、北部にある水深70~90メートルの海域を洋上風力発電の導入の可能性がある「漁業との協調を検討するエリア」に設定している。これをうけて、国は2021年9月、再エネ海域利用法に基づき、洋上風力の導入が将来的に有望視される「一定の準備段階に進んだ区域」に久慈市沖を選定した。

浮体式検討委の
最終報告書案を公表

久慈市は、浮体式洋上風力発電を地域の発展に生かすため、関係団体や学識経験者などで構成する「久慈市沖浮体式洋上風力発電検討委員会」を設置し、議論を重ねている。同市の遠藤譲一市長は、昨年3月の市議会一般質問に対する答弁のなかで、これまでの漁業関係者との議論を踏まえ、周辺海域で詳細な操業状況や風況などを確認し、より精緻化したゾーニングマップを作成する意向を示している。

3月12日に開催された第9回久慈市沖浮体式洋上風力発電検討委員会では、今月中にとりまとめる予定の最終報告書案が示された。最終報告書案は、1.業務目的・背景、2.上位計画・関連計画、3.事業対象区域、4.風力発電導入の見通し、5.地産地消を目指すに当たって必要な調査、6.先進地調査、7.検討委員会の開催、8.事業性・二酸化炭素削減効果の検証、9.漁業協調の検討、10.環境影響評価に資する情報の整理、11.電力の地消の整理、12.久慈市沖への浮体式洋上風力導入の課題と対応策の検討の12項目におよんでいる。

風況調査で
事業性が見込めると判断

風況調査では、12~5月まで高風速、4月以降は下がっていく傾向であった。高い高度ほど月別の風速変動は大きい傾向がみられる。1年を通して概ね西南西~西北西の風が大半であり,西風が卓越した。高さ140mでのシミュレーション結果は,水深100m付近が年平均風速でおよそ7~8m/s、水深150m付近でおよそ8.5m/sとなった。風況に関しては、「事業性が見込める」と判断している。
調査海域周辺の海底地形区分(出典 久慈市役所)

調査海域周辺の海底地形区分(出典 久慈市役所)

海底調査では、沿岸から沖に向かってM4層(中新世)~P層(鮮新世~更新世)が分布しており、沖に出るほど新しい地層がみられる。地質は差分が卓越する「細粒分混じり砂」であった。当該海域は広く平坦な極緩斜面が分布する一方、水深100~140mに尾根・谷の発達がみられる。考慮すべき事項としては、海底底質特性から、福島沖での事などを参照するとドラッグアンカーの選択は可能と想定されるが、ドラッグアンカー以外のアンカーの適用可能性を検討する際は、さらに詳細な地質物性の把握を要する。 海底地形から,比較的に平坦な緩傾斜が卓越しており、浮体設置に適した地形と考えられる。一部の複雑地形が存在した場所を選択する際には、設計・施工の設定条件において留意が必要であるとしている。

漁業者と
対話の継続が必要

久慈市沖の漁場実態調査(出典 久慈市役所)

久慈市沖の漁業実態ヒアリング調査結果(出典 久慈市役所)

漁業実態調査では、水深80m以浅および水深100m付近は比較的多くの方が漁場として利用していた。久慈市営魚市場への水揚げ量の多い漁法は、定置網、イカ釣り、かご漁、刺し網、コウナゴ棒受け網、立て縄などであった。(まき網,底びき網は除く)主要な魚種は、マダラ、ヒラメ、マダコ、ミズダコ、スルメイカ、ヤリイカ、コウナゴなどである。

関係者の意見としては、久慈市漁協所属の漁業者については、洋上風力発電に関して,風車建設時期の見通しや設置数、配置、港湾整備などについて多くの質問があり、時期や事業内容は未定であり、漁業者の同意がない限り進むことはないことを説明した。漁場が利用できなくなることへの懸念が挙げられた。これまでの市側の説明不足が指摘された。広域漁業団体からは、「基本的に漁場に建てなければ良い」、「産卵場など漁場として大事なところは,避けるようにしてほしい」といった意見が寄せられた。

地元の商工団体からは、「建設に関わる下請けも含めた地元発注や資材などの地元調達、加えて工事関係者のもたらす経済効果、雇用関係など、地元経済への効果はかなり大きい」、「地元でO&Mに参入できるとすれば、継続した経済効果が期待できる。特に大卒者の雇用先という面においても選択肢が増える」といった声が出されていた。

考慮すべき事項としては、直接説明のできていない漁業者も多く、現時点では洋上風力発電事業の内容が具体的ではないため、漁業者の漁場の喪失の懸念への対策も十分検討されていないことから、今後も継続して対話や情報発信をする必要がある。特に沖合を漁場としている漁業者との調整は不可欠であり、広域漁業者との調整は関係者との協力を得ながら進めていく必要がある。漁業協調策として対象とする漁法・魚種について、今後、漁業者へのフィードバックなどを行い,さらに検討を進める必要があるとしている。

採算ラインは
30~70万kWと回答

最終報告書案では、事業化する場合の設置事例が示された。久慈市沖での形式は1万5000kW級風力発電機、セミサブ型浮体、カテナリー係留、合成繊維索と銅製チェーンの併用、ドラッグアンカーが想定されるとしている。

低酸素社会戦略センターの2020年のデータによると,単機出力1万kWの風車を200基、総出力にして200万kWを想定した場合の発電コストは14円程度となる。国内での大規模な浮体式洋上風力発電施設がないため十分な検証はできないが,事業者へのヒアリングでは,当該海域での採算性のある事業規模として30~70万kWとの回答があった。採算ラインとしては再エネ海域利用法の範疇となる規模が想定される。また、久慈港の基地港湾としての活用は,当該海域への浮体式洋上風力発電導入の低コスト化につながる条件の1つであるとしている。

漁業協調策で
3つの提案

漁場再設計のイメージ

漁場再設計のイメージ(出典 久慈市役所)
※風車の位置についてはイメージで設置場所を示したものではありません

漁業協調の検討では、3つの案が示された。第1案の「漁の効率化」は、水深10m以浅から水深120~150mにかけての広い範囲に新規の魚礁を設置するとともに、既存の魚礁を活用して、漁場の再設計を進める内容。魚礁メーカーによると、工事費は2億7000万円と試算されている。

第2案の「漁業者向け海況情報の提供」は、洋上風車に観測機器を設置することで,海象情報(波高,潮流,風向風速,水温,塩分など)を漁業者のスマホなどにリアルタイムで提供する内容。海況情報の蓄積により予測システムを導入することも考えられる。
漁業協調策の補助金額の試算例(出典 久慈市役所)

漁業協調策の補助金額の試算例(出典 久慈市役所)

第3案の「基金を活用した燃料代の補助」は、直近3年間で水揚げ実績のある漁業者全員を対象に30年間にわたって燃料費を補助する内容。千葉県銚子市沖の洋上風力発電事業での基金の使用状況を参考にしている。対象者数は130人、燃料1リットルあたりの補助金額を20円、1日あたりの燃料消費量を200リットルとして試算したところ、補助金の総額は約37億4400万円と試算されている。

考慮すべき事項としては、産卵礁の設置を考える場合は、産卵に適切な水温や周辺環境などの条件をクリアできるエリアを精査する必要がある。これらの漁業協調策はあくまで提案であり,実際には漁業者とのコミュニケーションを継続的に行い,より漁業者のメリットになる具体策を検討する必要があるとしている。

2基の風車で
久慈市の消費電力量

電力の地元消費については、単機定格出力1万5000kWの風車で年平均風速8m/sを仮定すると,単機年間発電電力量は46.90GWhと想定される。久慈市の消費電力量を風車2基程度でまかなえると考えられる。当該海域における浮体式洋上風力発電事業は,採算性の観点から全体像としては大規模ウィンドファームが想定され、余剰分は北岩手循環共生圏への供給がイメージできるとしている。

委員会では、第9回の最終会合の意見を踏まえて、3月中に最終報告書をとりまとめる方針。そのうえで、久慈市は関係者と協議して、より精緻化したゾーニングマップを検討する意向を示している。検討委員会の委員長をつとめる東京大学生産技術研究所の北澤大輔教授は、「自分はゾーニング事業から関わっているが、漁業者との本格的なコミュニケーションが始まり、漁業協調策を考えるきっかけになった。まだ十分ではないが、事業のスタートラインに立てたことは大きな成果と考えている。発電事業者が今後、事業内容を検討するにあたって十分なデータが得られたと感じている」と話した。


取材・文/高橋健一

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