【洋上風力第1ラウンド】三菱商事が3海域から撤退表明 第2、第3ラウンドの事業継続は?
2025/09/04

三菱商事が 8月27日、コストの大幅な増加などを理由に、洋上風力第1ラウンド3海域からの撤退を正式に表明した。しかし、資材価格の高騰は第2、第3ラウンドの事業にも暗い影を落としている。
メイン画像:洋上風力第1ラウンド「千葉県銚子市沖」
FIP転を実施しても
収支改善につながらない
秋田県能代市・三種町・男鹿市沖
発電単価 13.26円
●事業者名:秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド
●構成員:三菱商事、三菱商事エナジーソリューションズ、シーテック
【事業計画概要】
発電設備:着床式洋上風力発電
発電設備出力:47.88万kW(1.26万kW×38基、GE製)
運転開始予定時期:2028年12月
秋田県由利本荘市沖
発電単価 11.99円
●事業者名:秋田由利本荘オフショアウィンド
●構成員:三菱商事、三菱商事エナジーソリューションズ、シーテック、ウェンティ・ジャパン
【事業計画概要】
発電設備:着床式洋上風力発電
発電設備出力:81.9万kW(1.26万kW×65基、GE製)
運転開始予定時期:2030年12月
千葉県銚子市沖
発電単価 16.49円
●事業者名:千葉銚子オフショアウィンド
●構成員:三菱商事、三菱商事エナジーソリューションズ、シーテック
【事業計画概要】
発電設備:着床式洋上風力発電
発電設備出力:39.06万kW(1.26万kW×31基、GE製)
運転開始予定時期:2028年9月
今年2月に事業性の再評価を実施する意向を表明してから、三菱商事はコスト面、収益面での評価を実施してきた。8月27日の記者会見で中西勝也社長は、「コスト面では新型コロナウイルスやウクライナ侵攻、金利上昇といった世界的な事業環境の変化により、想定をはるかに超えるコスト上昇があった。これに対応するため、コントラクターからの新しい提案や風車メーカーの変更、工法の見直しなどを行ったものの、建設コストが2倍以上に拡大し、さらに将来的なコスト上昇も見込まれる結果となった」と説明した。
一方、政府もFIT制度からFIP制度への移行(FIP転)や、公募占用期間の延長などを検討して側面支援の姿勢をみせていた。ただFIP転をめぐっては、ほかの発電事業者、それに公募で落札できなかった企業などから公平性やPPA市場の問題などを理由に反対の声があがっていた。中西社長は会見で「仮にFIP転を実施したとしても事業期間の売電収入より総支出が大きくなる」と述べ、政府が検討している公募制度の見直しが収支の改善につながらないとの認識を示した。
沿岸自治体
再公募の早期実施を
洋上風力第1ラウンド「秋田県由利本荘市沖」
三菱商事の撤退によって、洋上風力発電を地域活性化の起爆剤として期待していた沿岸自治体の落胆は大きい。秋田県の鈴木健太知事は、「極めて残念かつ極めて遺憾。よもや撤退ということはないだろうと思っていたので、大変な衝撃を持って受けとめている。地域共生についても継続するということなので、これまでとは違う取り組みを議論できればと考えている」と述べた。
また、千葉県の熊谷俊人知事は、「地域経済の活性化のためにも大きな期待を寄せていたので事業者の撤退は大変遺憾」と話した。銚子市の越川信一市長は、「非常に残念で遺憾。国には再公募の手続きを迅速かつ確実に進めてもらいたい」と述べ、再公募の早期実施を求めた。
会見で沿岸自治体への思いを問われた中西社長は、「地元に期待されていたが、裏切る形となってたいへん申し訳ない。プロジェクトを進めることができなかったのは断腸の思い」と内心を吐露したうえで「後続事業者へのデータ開示などはやっていく必要がある。その責務を全うしてこの分野をリードしていきたい」と後続事業に協力する考えを示した。
2倍の売電価格でも
事業が成立しない
会見で中西社長は、「FIP転を実施しても、事業継続は不可能。入札時の2倍の売電価格でも成り立たない」と繰り返し発言した。多くの業界関係者が、この発言に懸念を示している。FIP転を実施する場合、「基準価格は変更前の認定公募占用指針に記載された調達価格と同じ額とする」という規定があり、プレミアムを確保できることになる。その点、ゼロプレミアムで落札している第2、第3ラウンドの事業者よりも採算面で優位性を確保できるのではないかと業界関係者は指摘する。
入札時の2倍の価格ということはおおよそ24円~33円/kWh。これに対して太陽光発電のPPAによる売電価格は24年度で15〜18円/kWhが相場といわれている。現在、コーポレートPPA市場の購入先の大半が太陽光発電となっていて、洋上風力発電の電気の販売先は価格面では不利な状況が続いている。
この会見の前日、公募占用指針の見直しを議論している経済産業省の洋上風力促進WGと国土交通省洋上風力促進小委員会の合同会議が行われた。事業性が著しく低下している洋上風力発電の事業予見性を向上するため、海域占用期間を延長する方向で委員の意見がほぼまとまった。しかし、発電事業者側が要望していた長期脱炭素電源オークションへの参加容認、それにコーポレートPPAのオフテイカーに対する再エネ負担金減免はともに、関係省庁が慎重な姿勢を示している。
洋上風力第1ラウンド3海域の事業は、洋上風力発電の本格展開を切り開くというだけでなく、国内での関連産業を牽引する役割、さらには各地域での大きな経済効果が期待されていた。第2ラウンドで最大の出力規模となる村上市・胎内市沖の事業で、三井物産は陸上工事を予定通り今年10月から始める方針を明らかにした。「青森県沖日本海南側」、「秋田県八峰町・能代市沖」、「秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖」の3海域で事業に参画している東北電力は、「事業は計画通りに進ちょくしている。現時点で撤退は検討していない」とコメントしている。
DATA
取材・文 宗 敦司