三菱商事の撤退要因を分析「低価格の提案を誘導した価格重視の評価制度が反省点」
2026/02/16
経済産業省と国土交通省の合同会議は昨年12月、三菱商事が洋上風力第1ラウンドの3海域から撤退した要因分析の報告書を公表した。報告書では、低価格の提案を誘導した「価格重視」の評価制度が反省点だと指摘した。
メイン画像:洋上風力第1ラウンド「千葉県銚子市沖」
低価格の提案を誘導した
「価格重視」の評価制度が反省点
秋田県能代市・三種町・男鹿市沖
供給価格 13.26円
●事業者名:秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド
●構成員:三菱商事、三菱商事洋上風力、シーテック
【事業計画概要】
発電設備:着床式洋上風力発電
発電設備出力:47.88万kW(1.26万kW×38基、GE製)
運転開始予定時期:2028年12月
秋田県由利本荘市沖
供給価格 11.99円
●事業者名:秋田由利本荘オフショアウィンド
●構成員:三菱商事、三菱商事洋上風力、シーテック、ウェンティ・ジャパン
【事業計画概要】
発電設備:着床式洋上風力発電
発電設備出力:81.9万kW(1.26万kW×65基、GE製)
運転開始予定時期:2030年12月
千葉県銚子市沖
供給価格 16.49円
●事業者名:千葉銚子オフショアウィンド
●構成員:三菱商事、三菱商事洋上風力、シーテック
【事業計画概要】
発電設備:着床式洋上風力発電
発電設備出力:39.06万kW(1.26万kW×31基、GE製)
運転開始予定時期:2028年9月
洋上風力第1ラウンドは、2021年11月に公募占用指針を示して事業者の公募を開始した。21年5月に公募締め切り、同年12月に三菱商事が「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖」、「千葉県銚子市沖」の3海域の事業者に選定された。公募の上限価格は29円/kWh。これに対して三菱商事は11.99円から16.49円の破格の低価格を提示して、公募対象となった3海域を全て落札する、いわゆる「総取り」の形となった。

洋上風力第1ラウンドの評価結果(出典 経済産業省)
第1ラウンドの評価点は、「供給価格 120点」と「事業実現性 120点」の計240点。このうち「事業実現性」では、事業実施能力と地域との調整などの配点は、2:1(80点:40点)だった。
公募の結果、価格点では三菱商事が3海域で満点の120点を獲得し、ほかの事業者を大きく引き離した。事業実現性では三菱商事が、「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」で1位、「秋田県由利本荘市沖」と「千葉県銚子沖」では2位となったが、価格点で大きくリードした三菱商事が3海域でトップとなった。
これについて報告書では、「事業実現性」では高評価を獲得しにくく、点差が付きにくい評価方式となっていたこと、運転開始時期やサプライチェーン形成計画の評価が見えにくい形になっていたことから、低価格の提案に誘導しやすい評価方式となっていたことを反省点として挙げている。
一方で、三菱商事の供給価格が低すぎたという指摘は当初から現在に至るまで続いている。報告書でも「公募参加時の安価な供給価格も事業撤退を招く一因となった側面は否定できない」としており、低価格入札が撤退要因の一つであることを排除していない。ヒアリングのなかで三菱商事は、「(買収した蘭エネルギー事業会社)Enecoの知見も活用してリスクを可視化できたことで競争力のある価格を提案するに至った」と説明し、公募時点では実現性がある価格だったという認識を示した。だが、その後の新型コロナウイルス感染拡大、ウクライナ危機による資材価格の高騰という「想定外の事象」により、急速に事業実現性が失われていったとしている。
撤退の要因分析では、「海底地盤の調査データ」の問題にもふれている。三菱商事は、国から提供されたデータに加えて、独自の追加調査・分析を実施して事業計画を作成した。ところが、事業者に選定されたあとに可能となった全数ボーリング調査などで、海底の地形や地層が当初の想定よりも複雑な構造になっていることが判明したとして、風車基礎の設計を一部変更した。ただ、その変更の影響は軽微であったとしている。
資本費は約57%上昇
円安がさらに押し上げ

国内の物価指数変動率(出典 経済産業省)
資材価格の高騰の影響については、より深堀りして分析している。公募開始から事業撤退までの期間に、洋上風力発電設備の資本費は約57%上昇した。特に、国内企業物価指数(鉄鋼)は約100%、国内企業物価指数(電力・通信用メタルケーブル)は約72%と、顕著に上昇している。

対ドル・対ユーロの為替変動(出典 経済産業省)
また、公募開始から事業撤退までの期間に、為替は対ドルで約40%、対ユーロで約30%上昇した。風車製造をはじめとして、ケーブル敷設船などの特殊船舶も海外に依存しなければならないため、円安の進行が調達コストを上昇させる大きな要因となった。さらに金利の上昇も、建設資金の借り入れコストを押し上げた。

世界的な風車調達費用の変動(出典 経済産業省)
ヒアリングのなかで、三菱商事は「風車調達費用」が公募参加時から2倍以上に増加したと説明した。資材価格の高騰に加えて、世界的な需要急増で風車製造能力が限界に達し、風車調達費用が大幅に上昇したという。
また、洋上と陸上の工事費用も増加した。基礎部材や設置費用、送電ケーブルの製造・施工、変電所建設費などが軒並み上昇し、当初見込みから2倍以上に膨れ上がった。こうした各費目でのコスト上昇は、事業採算性を著しく圧迫した。
国の合同会議で議論されていたFIP制度への移行や価格調整スキームの導入、海域占用期間の予見可能性確保などが仮に実現しても、大幅なコスト上昇を賄うだけの収益を確保できる見込みが立たなくなった。三菱商事の中西勝也社長は昨年8月の記者会見で、「FIP転して(売電価格を)2倍以上にしても総収入より総支出の方が大きく、事業継続ができないと判断した」と撤退を決断した理由を述べた。
9つの課題を指摘
制度見直しを進めていく
報告書では、公募制度の課題として(1)インフレなどによる資材価格変動リスクへの対応が不十分な供給価格の設定、(2)公募実施前に提供される促進区域の地盤などのデータ提供の方法、(3)再エネ価値を高く評価する需要家の不足、(4)風車メーカーやサプライヤーなどとの価格交渉力の弱さ、(5)海外サプライチェーンへの依存、(6)事業実現性が相対的に過小評価される価格点の評価制度、(7)撤退時のルールの不明瞭さ、(8)基地港湾の柔軟な利用のあり方、(9)供給価格の決定からファイナンスクローズまでの期間の長さの9点を挙げた。
課題の解決に向けて、これまでに国の合同会議などで具体策が示されているが、今後、詳細な検討が必要な課題もある。例えば、低価格の提案を回避するため、事業者が現実的な創意工夫を講じることで想定される価格と、供給価格上限額に基づく価格点設計の必要性を指摘している。またファイナンスクローズまでの期間の長さについては、事業者選定と供給価格決定の2段階入札の導入について、中長期的に検討していく必要があるとしている。
三菱商事の撤退は、黎明期にある日本の洋上風力発電の現状と課題を浮きぼりにした。洋上風力発電は再生可能エネルギーの主力電源化に向けた「切り札」であり、事業撤退の要因やその影響、現状の洋上風力発電に関する制度的な課題を踏まえて、今後も引き続き、必要な制度の見直しにつなげていくこととしたいと報告書は結んでいる。
DATA
取材・文/宗 敦司








