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英国政府、中国・明陽智能製風車を排除 供給不足やコスト上昇を懸念する声も

英国政府は今年3月、中国風車メーカーの明陽智能がスコットランドで計画していた風車工場の建設計画を承認しない方針を決めた。さらに同政府は、明陽智能製の風力タービンを英国の洋上風力プロジェクトで使用することを禁止するなど、中国企業の排除を進めている。

メイン画像:中国・明陽智能製の洋上風力タービン(出典 明陽智能)

<目次>
1.安全保障リスクを理由に 中国企業の排除へ方針転換
2.北海沿岸の洋上風力 100GWの整備計画も
3.メーカーの供給能力が課題 コスト上昇の懸念

安全保障リスクを理由に
中国企業の排除へ方針転換

昨年10月、明陽智能は英国スコットランドに最大3000億円を投じて大規模風力タービンの製造拠点を建設する計画を発表していた。スコットランド政府はこの巨額投資と約1500人の雇用創出に大きな期待を寄せていたが、英国政府はこの計画を承認しなかった。その理由は国家安全保障上の問題としている。

英国政府は洋上風力発電を重要インフラとして位置付けており、それに中国製風車を採用することで、データ通信や遠隔制御機能を通じた監視・サイバーリスク、電力システムへのアクセスによるエネルギー安全保障リスクを指摘している。「国家安全保障を守るため支持できない」として同計画を承認せず、加えて同社製風車を英国の洋上風力プロジェクトで採用することを禁止した。

昨年3月に英国は中国とクリーンエネルギーパートナーシップに関する覚書を締結し、その中で洋上風力発電を協力の主要分野に掲げていた。英国政府はこの覚書を反故にして今回の方針を決めたことになる。しかも、英国政府が手のひら返しで中国企業を排除するのはこれが初めてではない。例えばサイズウェルC原発計画では、仏EDFとともに中国広核集団(CGN)が資本参加していたが、保守党政権下で中国への警戒感が強まり、2022年に英国政府がCGNの保有株式を約1100億円で買い取り、CGNを排除した。それまで英国は中国と良好な関係を築いていたが、一転して中国排除に姿勢を転換した。

また米国の影響も大きい。2024年には米国の港湾に設置された中国製クレーンで、用途が把握できない通信装置が見つかったという調査結果が大きく報道された。これにより中国製品から情報が漏洩するという懸念が世界に広まった。

これに対して中国側は「妄想だ」と一蹴した。ZMPC社のクレーンは、世界で70%以上のシェアがあるが、他国で同様の「調査結果」は報告されていない。また具体的な情報漏洩の事例も報告されていない。しかし米国は欧州各国に対して中国製品に安全保障リスクがあると喧伝してきた。英国はEUからの離脱後に安全保障面で米国との結びつきを強めていることもあり、こうしたことが今回の判断に影響したと見られている。
 

 

北海沿岸の洋上風力
100GWの整備計画も


AR7における洋上風力落札結果(出典 自然エネルギー財団)

今年1月に実施された英国の第7次差額決済制度(AR7)で、洋上風力は募集要件を大幅に緩和したことで過去最大となる8.4GWの容量を確保した。過去2回の入札では落札案件がない、あるいは落札案件がキャンセルされるという厳しい状況であったのに対して、今回は着床式で10件、浮体式で2件の計12件が落札されるほどの活況となった。これらは2028~30年にかけて運転開始が予定されている。


北海サミットで洋上風力100GWを目指す「ハンブルグ宣言」が署名された(出典 ドイツ政府)

さらに英国を含めた欧州の北海沿岸諸国は今年1月の「北海サミット」でクリーンエネルギー協定に署名し、洋上風力発電の大規模共同プロジェクトを通じて100GWの案件を開発することで合意した。また英国のナショナル・グリッドとドイツのテネットは、北海における両国の洋上風力発電施設を結ぶ送電網を共同開発し、電力を供給すると発表するなど、北海沿岸での洋上風力の需要は大きく伸びる見通しである。

メーカーの供給能力が課題
コスト上昇の懸念も


ベスタスの15MW風車への期待が高まる(出典 ベスタス・ジャパン)

しかし、英国と欧州が中国製風車を排除しつつあることで、洋上の大型風車の調達先は欧州メーカー2社、シーメンスガメサとベスタスに事実上限定されることになる。しかし、このうちシーメンスガメサは2023年の品質不良問題で数千億円の対応費用が発生し、経営状況が厳しい。陸上用風車で問題が発生したため、今後は洋上風力に注力していくとしているが、経営と品質の両面で不安を抱えている。

一方、ベスタスはいまのところ経営面で不安はなさそうだが、この2社だけで欧州の洋上風力タービンの需要に対応できるかどうか、不安が残る。また中国製風車を排除することで洋上風力発電のコストはさらに上がる可能性が高く、国民負担の増加を懸念する声もある。

スコットランド政府は雇用創出の機会を失ったことで、今回の決定に不満を抱えているという。英国政府の決定は欧州メーカーを保護する目的もあるが、今後多くのプロジェクトが北海沿岸地域で計画されるなか、風車の供給がボトルネックとなる可能性もありそうだ。
 

 

DATA

英国のCfD第7回入札(AR7)洋上風力事業分野の結果の考察(自然エネルギー財団)


取材・文/宗 敦司

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