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海洋アカデミーを主催! 長崎で洋上風力の技術開発・人材育成をサポート

五島市沖が再エネ海域利用法に基づく「促進区域」とされ、風力業界の注目を集める長崎。同地に、洋上風力をはじめとした海洋産業の発展をサポートするNPO法人がある。長崎海洋産業クラスター形成推進協議会の松尾博志氏に話を聞いた。

潮流発電の実証実験が成功
風力発電関連の技術開発も担う

――NPO法人設立の経緯から、取り組みの内容まで聞かせください。

私自身、長崎市出身で、東京大学で船舶工学を専攻したのですが、卒業後に就職した野村総研では、自動車やコピー機など、海とは関係のない分野を取り扱いました。長崎に帰ろうと思ったのは、2011年の東日本大震災がきっかけです。 今年で、海洋再エネを始めてちょうど10年目になりますね。

長崎海洋産業クラスター形成推進協議会が設立されたのは、私がUターンしてから3年目の2014年のことです。地元の企業15社ほどが集まり、「今後必ず成長する海洋産業を共に盛り上げよう」という趣旨でスタートしました。

勉強会を開催したり、長崎の企業から有志を募って欧州へ視察に行ったり、という活動を続ける中で徐々に会員も増え、2021年11月現在、会員は95社となりました。2016年からは、九電みらいエナジーさんと潮流発電の実証実験に取り組んでおり、2021年1月にようやく海底に設置し、5月には経済産業省の使用前検査に合格することができました。

風力発電に関しては、NEDOの事業の一環で、青森県で風況観測装置「フローティングライダー」の信頼性試験が実施されています。欧州メーカーのものを2つ、当協議会と長崎の地場企業で共同開発したもの(愛称MIA)を1つ、合計3つです。

日本国内では、鉄塔を建て、その上で測った風が正しい数値であるとされており、フローティングライダーによる数値は正式に認証されていません。そのため、銀行などに提出する事業計画書に使用できず、風況調査の期間とコストがかかってしまいます。そこで、国が実証試験を通じた検証をしているというわけです。

陸上と洋上は作業環境が異なる
安全確保の訓練など人材育成が必須

今後、日本で洋上風力発電を普及させていくにあたり、このままでは洋上で作業する方たちが圧倒的に足りなくなると思います。というのも、仮に陸上でビルを建てていた人であっても、洋上で作業をするには訓練が必要だからです。

事実、欧州では訓練のガイドラインが決まっていて、北海沿岸国、すなわちオランダ・デンマーク・ドイツ・フランス・イギリス・スペイン・ノルウェーなどは、GWO(Globel Wind Organization) が定める「BSD(Basic Safety Training)」という一週間ほどかかる訓練を行っています。

高所作業時の安全を確保する方法や、火災時の適切な消火方法、怪我をしてしまった際の応急処置など、5つの分野で構成されています。たとえば冬の時期、誤って海に転落してしまったら、凍死する危険性があります。万が一落ちてしまった時にどうやって救命を待つのが最善か、死なないための訓練もカリキュラムには含まれています。

そこで我々は、洋上作業の訓練施設を日本財団さんとともに設置し、日本においても同様の訓練を実施できるようにしようと検討を進めています。

洋上風力発電ビジネスの総論や、保険・ファイナンス、洋上施工、プロジェクト・マネジメントなど、幅広いコースをご用意している「長崎海洋アカデミー」では、第一線で活躍中の専門家を招聘し、海洋開発技術者を育成するプログラムをご提供しています。

その他、海中機器の実験を簡易な手続きでできるよう、長崎県のアクセスしやすい海域で漁協さんと同意書を交わし、募集を開始して既に2件の実海域実験を行いました。

洋上風力をはじめとした海洋産業の発展には、コスト削減と人材育成が欠かせません。当法人は、先行する欧州の成果を取り入れつつ、日本の事業環境の向上に貢献していきます。

話を聞いた人

NPO法人 長崎海洋産業クラスター形成推進協議会
エグゼクティブ コーディネーター 兼 長崎海洋アカデミー講師
松尾博志氏

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