「洋上風力産業ビジョン」の目標設定は歓迎[京大特任教授・安田陽氏インタビュー]
2022/02/25
日本政府の「2050年カーボンニュートラル(脱炭素)」宣言や30年度の新たな温室効果ガス削減目標の「13年度比46%削減」、「洋上風力産業ビジョン」などについて、研究者はどう分析しているのか。京都大学の安田陽特任教授に聞いた。
規制改革や
「欧州版セントラル方式」採用を
風車工場の日本誘致できれば
雇用生まれる
――「洋上風力産業ビジョン」に「30年までに10GW、40年までに浮体式も含む30GW~45GWの案件形成」が明記されました。「30年10GW」は第5次エネルギー基本計画の「30年までの0.82GW」の10倍以上です。「洋上風力産業ビジョン」が打ち出した「30年10GW、40年までに浮体式を含め30GW~45GW」への見解は?
数値目標が示されたことはとても良いことですが、控えめな数値だと思います。もちろん、今まで通りの規制や政策の延長線上に線を引いているのなら、これ以上は「難しい」という意見も出てくるかもしれませんが、バックキャスティングの考え方で、あるべき姿から逆算することが重要です。バックキャスティングは実現可能性が低いものをギャンブル的に当てにすることではなく、規制や政策を時代に合わせ変えていき、実現可能性が高い技術(すなわち再生可能エネルギー)をさらに確実にすることを意味します。
――洋上風力発電の設置前に行う基礎調査や系統確保などを政府主導で進める「セントラル方式」に関する見解は?
日本政府が考える「日本版セントラル方式」は、お手本にしたはずのオランダのセントラル方式とだいぶ異なります。わざわざ「日本版」とせず、国がきちんと系統連系を保証し、国ないし自治体が漁業者との協議を行うなど、ヨーロッパのセントラル方式をそのまま採用することが望ましいと思います。
海域を指定するのは第一歩ですが、それだけでは、本来の「セントラル方式」とは言えません。日本では現在、個々の事業者が多くのことをそれぞれ個別に対応せざるを得ず、これは無駄にコストが上がる要因になっています。「ヨーロッパ版セントラル方式」を学んで、きちんとそのまま導入するのが合理的かと思います。
――日本には自前の風車メーカーがないことが、「洋上風力産業ビジョン」の目標達成への足かせになりませんか?
世界で一番洋上風車を導入している国はイギリスですが、イギリスに風車メーカーは存在していません。ではなぜ、イギリスはあれだけの洋上風車を建てることができたのでしょうか。
確かに個人的には日本の風車メーカーがあった方がいいと思います。ただ、ないからできないという理由にはなりません。むしろ、規制や政策の問題です。イギリスには世界的な工業製品のメーカーはあまり多くありませんが、それでも脱炭素化が進み、再エネ導入が進んでいます。しかも、海外のメーカーを誘致し、イギリス国内の工場で風車を造っているのです。例えばヨーク近郊のハルやスコットランド北東部のアバディーンの港湾で造船業が斜陽になってしまったところに洋上風車の一大港湾基地ができて、新たな雇用が生まれているのです。イノベーションも進み、研究センターなどもできています。
このように、国産風車メーカーがあればそれに越したことはありませんが、もし日本になくても、工場を誘致することはできますし、誘致できれば雇用も生まれるのです。
――今後、日本での陸上風力、洋上風力の導入割合の見通しは?
40年、50年ごろには洋上風力のコストがかなり下がってくる可能性もありますが、世界中の多くの先行事例を見ると、やはり陸上風力が圧倒的に主流です。
将来、洋上風力の建設コストが下がるとしても、陸上風力の方が安いです。日本風力発電協会(JWPA)のビジョンでも、40年までは陸上風力の建設が先行し、50年でもまだ陸上の方が多いのです。洋上風車はもちろん着実に建てていくべきなのですが、「洋上風車ブーム」に踊らされず、その前に、陸上風力で地道に足元を固めないといけません。
風力発電導入ロードマップ:ビジョン
出典:日本風力発電協会(JWPA)