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岩手県久慈市沖「より精緻化したゾーニングマップ作成」

大規模な浮体式の先行事例として注目を集める岩手県久慈市沖の洋上風力発電計画について、遠藤譲一市長は3月8日の市議会で、これまでの漁業関係者との議論をふまえ、より精緻化したゾーニングマップを作成する意向を示した。早期の運転開始を目指す方針に変わりはないとしている。

2021年9月
準備段階に進んだ区域に


岩手県久慈市沖のゾーニングマップ(出典 久慈市役所)

岩手県北部の久慈市は、同市沖の水深70メートル以上の海域で大規模な浮体式洋上風力発電の導入を検討している。2018~20年度に現地調査などを実施し、2021年2月にゾーニングマップを公表していた。このマップでは、沿岸から約22.2キロまでの領海内を「漁業活動を優先するエリア」と「漁業との協調を検討するエリア」に区分けしている。地元の漁業者・発電事業者への意向調査と、主に漁業者を中心としたワークショップの議論をふまえてとりまとめた。沖合15~20キロの水深110メートル以上の海域と、北部にある水深70~90メートルの海域を洋上風力発電の導入の可能性がある「漁業との協調を検討するエリア」に設定している。

これをうけて、国は2021年9月、再エネ海域利用法に基づき、洋上風力の導入が将来的に有望視される「一定の準備段階に進んだ区域」に久慈市沖を選定した。2022年5月には、東北電力がフランスの発電事業者「BWイデオル」ととともに、同市沖での浮体式洋上風力発電の可能性調査を開始している。2022年度末まで、机上調査を中心に事業規模などを検討するほか、現地の風の状況が発電に向くのかを確認する。東北電力が、浮体式洋上風力発電の事業化を検討するのは今回が初めて。

フランスの「BWイデオル」は、浮体式洋上風力発電の土台部分を製造するグローバル企業。フランスをはじめとする欧州の発電所に製品を導入するほか、発電所の運営にも携わる。久慈市沖には、浮体の中央をドーナツ型に空洞にすることで浮体の揺れを抑制する「ダンピングプール技術」の採用を想定している、小型でシンプルな形状のため、施工がしやすく低コストなのが特徴だ。

漁業者に配慮
精緻化したマップ作製


ダンピングプール技術の浮体式洋上風車(出典 BWイデオル)

久慈市は、浮体式洋上風力発電を地域の発展に生かすため、関係団体や学識経験者などで構成する検討委員会で議論を重ねている。これまでの議論では、出席者から「海外の洋上風力発電事業において,イカ類の水中音に対する反応が問題視されているが、学識者へのヒアリングで情報は得られたか」「夜間に漁業を行う漁業者もいるため、航行安全調査の時間帯が重要になる。航行の安全性を時間帯別に解析するとともに、係留系や送電線についても検討をお願いしたい」「漁業協調策として漁礁提案があったが、漁業者に対しては風車の建設が魚群に悪影響を及ぼさないことなどについて理解を得るよう取り組むこと。魚礁設置事業などは行政が公共事業として行うこと。発電事業者が漁業者に対して何らかのサービスを行うことの3 つの対応が考えられる。どの主体が何をするのかを整理して検討する必要がある」といった意見が出されている。

久慈市の遠藤市長は、8日の市議会一般質問に対する答弁のなかで、これまでの漁業関係者との議論をふまえ、周辺海域でより詳細な操業状況を確認し、精緻化したゾーニングマップを作成する意向を示した。そのうえで、早期の運転開始を目指す方針に変わりはないことを強調した。今後は岩手県と連携し、久慈市以外の漁業関係者とも調整を進める方針。

「あまちゃんの街」として知られる久慈市の沖合は水産資源が豊富なことから、市では環境省の事業を活用して、港湾区域・漁港区域・一般海域での先行利用者を含めた関係者による協議会を設立し、3年間にわたってゾーニングを実施するなどの取り組みを進めてきた。実現すれば、日本における大規模な浮体式洋上風力発電のモデルとなるだけに、これからも久慈市沖の動向を注視していきたい。

DATA

東北電力 プレスリリース


取材・文/高橋健一

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