【動き出した第1ラウンド事業①】 千葉県銚子市 官民一体で地域共生策スタート
2023/08/16
洋上風力発電の第1ラウンド事業が動き出した。千葉県銚子市では、三菱商事が昨年11月に支店を開設し、三菱商事洋上風力とともに市や漁協などと連携して地域活性化につながる共生策を進める方針。施策のひとつとして、市内のローソンで、銚子発の地域産品の販売がスタートした。
(アイキャッチ画像 ローソンで販売している「銚子ビール」 出典:三菱商事洋上風力)
餃子と地ビールを
ローソンで販売
ローソンで販売している「アフロきゃべつ餃子」(出典 三菱商事洋上風力)
「特産のキャベツを使った餃子(ぎょうざ)の販売促進を手厚くサポートしていただきました」。千葉県銚子市のローソンでは、地元で開発された2つの商品が人気を集めている。2021年12月に発売した「銚子ビール」と、2022年2月に販売を開始した「アフロきゃべつ餃子」だ。10月から翌年6月にかけて出荷される、銚子市の春キャベツの生産量は日本一。葉の巻きがゆるくて柔らかいのが特徴だ。アフロきゃべつ餃子は、「規格外」とされて市場に出せず廃棄してしまうキャベツを使って製造したアイデア商品。銚子ビールは、銚子の魚に合うご当地ビールとして2017年に発売された。銚子電鉄を貸し切りにした「銚子ビール列車」を運行するなど、地元の人達に愛されるクラフトビールを目指している。
千葉県銚子市沖の促進区域
コンビニエンスストアのローソンは、三菱商事のグループ企業。三菱商事を中心とする企業連合(三菱商事系企業連合)は、洋上風力発電の第1ラウンドで千葉県銚子市沖と秋田県の2海域の計3海域を落札した。計画では、銚子市沖の約4000ヘクタールの海域に着床式の風車31基を設置する。発電出力は約40万kW。2025年から送電ケーブルなどの陸上工事が始まり、2027年に洋上工事に着手。2028年9月からの運転開始を目指す。2052年1月まで約24年間の操業を予定している。
自律的で持続的な
まちづくりを目指す
関東地方の東端にある犬吠埼(千葉県銚子市)
「洋上風力により、再生可能エネルギーのまちという新たな特色が生まれます。人間が生きるうえで欠かせない食料とエネルギーを生産し供給する。地産地消ができる。これほど豊かな価値と魅力を持つまちはありません。洋上風力を新たなまちづくりのエネルギーに変え、銚子創生に挑んでまいります」。千葉県銚子市は関東地方の東端にあり、日本列島で最も早く初日の出を見ることができることで知られている。近年は人口減少が進み、市の財政も厳しい。銚子漁港は日本一の水揚げを誇るが、漁業者の高齢化と後継者不足が深刻化している。銚子市の越川信一市長は、洋上風力発電を通じて、再エネと地域産業が共生する、自律的で持続的なまちづくりを目指している。
地域活性化につながる共生策(出典 千葉銚子オフショアウィンド合同会社)
昨年4月に銚子市で開催された住民説明会。三菱商事洋上風力の伊原弘雅プロジェクトダイレクターは「30年の長期にわたって、みなさまとともに持続可能な地域共生策を進めたい」と決意を述べた。三菱商事系企業連合は昨年12月、国に認可された洋上風力発電の事業計画と合わせて、地域活性化につながる共生策を正式に公表した。共生策は、「持続可能な漁業支援体制の構築」「地域産業の振興と雇用の創出」「住民生活の支援」の3本柱。三菱商事系企業連合は、地域住民全体のメリットにつながるような施策が実施できるよう、政府・自治体の助成制度や、グループ企業・協力企業のリソースを最大限活用していく方針。グループ企業のローソンや協力企業と連携して、地域産品の販路開拓を進めることにしている。
地元の教育機関との産学連携を検討(出典 千葉科学大学)
さらに銚子市は、豊かな漁場の形成や漁業・産業へのICT活用を進めるほか、次世代リーダーの育成支援、地元の教育機関との産学連携を検討することにしている。洋上風力発電の建設や運転・メンテナンスに際しては、地元企業や、市・漁協などが設立した銚子協同事業オフショアウインドサービス(C-COWS)を最大限活用する方針。
風車の部品供給網
早期構築を目指す
「部品製造の委託先を決めるまでに、どのような手順を踏んでいくのか」「参入を検討するにあたって、より詳細な仕様を知りたい」。今年1月に地元企業を対象に開かれた説明会。千葉県は、県内企業に風車の部品製造への参入を呼びかけている。現在、地元での部品調達を検討しているのは、風車のナセルのリアフレームとキャビネット。今年1月の説明会で風車メーカー側は「委託先を決めるにあたっては、技術・品質やコストなどを同時並行で総合的に評価していくとともに、地元企業がこのプロセスをクリアできるようサポートしていく」「仕様については、今後商談が進んでいけば秘密保持契約を締結したうえで開示する」と述べ、参入を目指す企業を支援する考えを強調した。
今年4月に開催した商談会には、千葉県内の機械製造や電気設備製造、金属加工メーカーなど24社が参加した。千葉県エネルギー産業振興室の兼子直史室長は「千葉県には大手の素材メーカーがあるので、そのメリットを生かして1社でも多く契約にこぎつけることができるように支援していきたい」と語る。三菱商事系企業連合も、千葉県と連携してナセルのリアフレームとキャビネット以外の部品を含めた、サプライチェーンの早期構築を目指す方針。
観光・地域振興へ
エリアビジョンを策定
メンテナンス港として活用する名洗港(出典 千葉銚子オフショアウィンド合同会社)
銚子市内では、今年5月から洋上風車からの送電ケーブルを敷設するための試掘工事が始まった。銚子市沖の事業では、洋上風車の建設拠点は鹿島港(茨城県鹿嶋市)、操業・保守の拠点は銚子市東南部の名洗港を活用する。鹿島港は、洋上風力発電設備の設置などの基地港湾として国土交通省が整備を進める。名洗港は、千葉県が今年度から5年間で整備する方針。防波堤の建設や海底のしゅんせつ、岸壁の補修などに総額約48億円がかかる見通し。
1970年代まで同市には、名洗港を国の重要港湾として、火力発電所の誘致や首都圏と北海道などを結ぶフェリーの拠点港にする構想があった。しかし、いずれも夢物語に終わった。市民のあいだでは、名洗港を活用できなかったことが地域経済の低迷につながったとの思いが強く、洋上風力発電に官民一体で取り組む姿勢につながっている。
景勝地として知られる屛風ヶ浦(千葉県銚子市)
銚子市は、三菱商事系企業連合に参加を求めて、今年度から観光振興と地域振興を目的としたエリアビジョンを策定する方針。メンテナンス港として活用する名洗港や、周辺の外川漁港、銚子マリーナ、銚子マリーナ海水浴場、景勝地の屏風ケ浦を対象に、一体化のあり方や整備の手法などを幅広く検討することにしている。銚子市の越川市長は、「千葉県は、『風車景観とジオパークが調和したエコツーリズム拠点の形成』と『海洋性レクリエーション活性化に資する銚子マリーナの拠点化』を進める方針を示している。マリーナ、海水浴場、屏風ケ浦、ジオパーク、千葉科学大学、名洗港、外川漁港、外川の街並みといった地域資源に、洋上風力の活用を加えたエリアビジョンを策定し、観光振興と地域振興につなげていきたい」と話している。
DATA
取材・文/高橋健一