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年間200名超の風車メンテ技術者を育成! リアルな実践で即戦力磨く「FOMアカデミー」

風力発電専門のトレーニング施設・FOMアカデミー(福島県)は、国際機関GWOの認証を得たトレーニングを2022年6月から提供している。1年間で200名超の風車メンテナンス技術者を輩出し、人材育成の側面から日本の風力発電事業を支えている。

風車メンテナンスの人材育成
風力発電の拡大と表裏一体


(FOMアカデミーで行っている高さ8メートルからの降下訓練では、青いバッグに入ったレスキュー装置のロープを自分で操作して降下する)

「今からレスキュー装置を使った降下訓練を行います。高さは8メートル。実際の風車の高さはこの10倍です」。トレーニング3日目の午後、高所作業の訓練だ。レスキュー装置のロープ一本を頼りに8メートルの高さの訓練設備から降下するトレーニング。装着したハーネスの背中に命綱がついていることはわかっていても、ぽっかりと開いたハッチから両足を踏み出すには勇気がいる。

カーボンニュートラルの実現に向けて、第6次エネルギー基本計画では、2030年度までに陸上風力発電17.9ギガワット、洋上風力発電5.7ギガワットの導入を目指すとしている。これを4メガワット基の風車に換算すると約8,600基。メンテナンスやトラブル対応、運用に必要な人員は約5,000〜6,000人にのぼると推測される。風力発電の導入拡大とメンテナンス人材の育成は表裏一体の課題だ。

 

風車専門のトレーニング施設
年間200名超える技術者を輩出


(『専門知識と実践的技能を有する人づくり』『ジェンダーフリーで役立つ学びの提供』『カーボンニュートラル実現に必要な人財ネットワーク構築』がFOMアカデミーのミッション)

一般社団法人ふくしま風力O&MアソシエーションのFOMアカデミー(福島県福島市)は、GWOの認証を得て風車メンテナンスに不可欠なトレーニングを2022年6月から提供している。廃校になった小学校をそのまま再利用して、風力発電のトレーニングに特化した環境を整備した。受講者数は、1年間でのべ200人超。国内外からの視察や見学も受け入れ、最近は企業や自治体、学生などが毎週のように視察に訪れるという。


(廃校を再利用したFOMアカデミー。子どもの学び舎が大人の学び舎へと生まれ変わった)

GWO(Global Wind Organisation)とは、GE、ベスタス、シーメンスガメサといった風車メーカーなどが立ち上げた国際的な非営利組織。風力発電産業に関する安全訓練や緊急事態への対処法などのトレーニングの国際基準を定めている。メーカーによっては、GWOトレーニングを受講しなければ風車に立ち入ることを認めておらず、風車メンテナンスにあたっての事実上のライセンスのような位置付けとなっている。

 

トレーニングはリアリティ重視
高所作業や応急処置を幾度も実践


(トレーニング3日目、実物のハーネスやレスキュー装置を使った高所作業トレーニングの様子)

「FOMアカデミーのトレーニングは、徹底的にリアリティを追求しています。はじめに座学で必要な知識をインプットし、次に、シナリオに基づいたトレーニングで実践する。これを繰り返し行うことで、現場でとっさのときに体が動くようになる。だからこそリアリティが重要なのです」と、ふくしま風力O&Mアソシエーションの事務局長・菅野辰典氏はリアリティの重要性を語る。

「もっとも重要なのは、自分の命は自分で守ること。自分の安全を守れなければ仲間を助けられないどころか、逆に迷惑をかけてしまう」。FOMアカデミーが提供するGWOの「Basic Safety Training(BST)」では、実際に使われているハーネスやレスキュー装置、医療器具などを用いて、マニュアルハンドリング・高所作業・初期応急処置・火災予防と消火という4種類の訓練を行う。


(実際の包帯を使った応急処置のトレーニングの様子。撮影:FOMアカデミー)

山あいや沿岸部などの僻地に設置されることが多い風車では、万が一ケガ人が出ても、救急車が到着するまでに時間がかかる場合もある。そのため、チームのメンバー自ら速やかに応急処置を施さなければならない。トレーニングでは、医療器具が充実していなくても身近なモノで止血する方法、骨折部位の固定の仕方、症状に応じた包帯の巻き方などを実践を通じて学ぶ。
 

メンテ作業のハードルを下げたい
治具の軽量化や開発にも取り組む


(元家庭科室の展示室には、風車メンテナンスに使用する治具やボルト、ハーネスなどを展示している)

FOMアカデミーはインストラクター自身のティーチングスキルのブラッシュアップにも取り組み、2022年7月には、台湾でGWOトレーニングを提供するTIWTCと協力関係を結んだ。また、今後さまざまなトレーニングを提供するため、設備も改良していく予定だという。


(数十キログラムにのぼる治具。軽量化に取り組むことで、風車メンテナンスに従事できる人材を増やしたいとしている。筆者撮影)

「風力発電産業を拡大するには、メンテナンス作業そのものを誰でも取り組めるように変えていかなければなりません。そのため、治具の軽量化や開発なども行っています」と菅野氏。日本の風力発電事業を人材育成の側面から支えるFOMアカデミーは、これからも進化を続ける。

DATA

FOMアカデミー/一般社団法人ふくしま風力O&Mアソシエーション


写真:都築大輔/取材・文:山下幸恵(office SOTO)

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