北海道松前町 再エネの”地発地消”で3割前後安い電気の供給を
2023/08/23
北海道松前町は、地元の再生可能エネルギー100%で発電した電気を町内の全世帯、全事業所で消費する「RE100まつまえ構想」をとりまとめた。災害時のレジリエンスを強化するとともに、いまより3割前後安い再エネ電気を供給する目標を掲げている。
(アイキャッチ画像 リエネ松前風力発電所 出典:東急不動産)
町の中長期目標
脱炭素ロードマップを策定
松前町の脱炭素ロードマップ(出典 松前町)
松前町は、北海道の最南端に位置する道内唯一の城下町。桜の名所として知られている。今年3月に2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロの実現を目指す「ゼロカーボンシティ」を宣言した。これと合わせて、脱炭素の中長期目標と実現までの道筋を示した「松前町脱炭素ロードマップ」を策定している。
町では、2030年に温室効果ガス排出量を2013年に比べて80%削減し、2050年には実質0%の脱炭素化を目指す。そのため、2030年にはエネルギー消費量を2018年よりも60%削減するとともに、再エネ電力の使用率を現在の0%から70%に引き上げるほか、再エネ発電電力量を現在の5倍の500GWhに増やす目標を掲げている。
漁獲量が激減
再エネ導入で地域振興
風況の良さを生かして風力発電の導入を推進
松前町の特産はスルメイカ。乾燥したスルメや松前漬の製造が盛んだが、近年は漁獲量が大幅に落ち込んでいる。北海道のまとめによると、2021年のスルメイカ漁獲高は39トンと、10年前の2%に激減している。10年前に比べてホッケは8割%以上、単価が高いマグロも6割以上減った。漁獲高全体では、10年前の3分の1にとどまっている。
漁業への不安が高まるなか、松前町では日本海から安定的に吹く西風を活用して風力発電の導入を進めている。松前沖は、年間平均風速が8mを超える風力発電の適地。すでに陸上風力発電は東急不動産が2019年に事業化し、定格出力3400kWの風車12基が稼働している。この施設には、道内で初めて出力18MW、容量約130MWhという大型蓄電池が併設された。このほか、松前町には今年8月1日現在、出力50kW未満の小型風車が179基、合計出力4033kW。太陽光発電設備も合計出力4165kWがすでに導入されている。
松前町は、災害時に備えて「地域マイクログリッド」の構築を目指している。2018年の胆振東部地震では、北海道全域におよぶ大規模停電「ブラックアウト」が発生し、松前町では約2日間電気がストップした。地域マイクログリッドは、限られたコミュニティのなかで、再エネで電気をつくって、蓄電池などで電⼒量をコントロールし、当該コミュニティ内の電⼒供給を賄うことのできるシステム。松前町のマイクログリッド計画では、停電時に陸上風車と大型蓄電池を電源に、町内全域に電気を供給することを想定している。
松前町の沖合の海域は今年5月、再エネ海域利用法に基づく「有望な区域」に整理され、事業化に向けて大きく前進した。松前沖の風車設置検討範囲は折戸浜沖から原口沖までの約23㎢。海岸から2㎞以内の水深10m~50mのエリアを設置可能な海域としている。最大出力は31万5000kW。1万kWの風車が25基、1万5000kWの風車であれば21基を設置することが想定されている。
3割前後安い
再エネ電気の供給を
松前町が目指す脱炭素化したまちの姿(出典 松前町)
松前町は今年6月、化石燃料からのエネルギーシフトや再エネの導入拡大と並行して、地元で発電する再エネ100%電力を町内全体で消費する「RE100まつまえ構想」をとりまとめた。「地発地消」は、松前町がつくった言葉だ。今年8月には「RE100まつまえ構想」を環境省に提出し、脱炭素先行地域への選定を目指す。選定されると、構想実現のために交付率の有利な交付金が活用できる。松前町政策財政課の川内隆靖脱炭素再エネ推進係長は「国の制度を有効に活用して、いまより3割前後安い再エネ電気の供給を実現するのが目標。安価で安定したクリーンな電力を町内全域に供給し、その経済効果を町内で循環させて雇用の確保や所得の向上に結びつけ、人口減少に歯止めをかけるきっかけにしたい」と話している。
DATA
取材・文/高橋健一