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富山県入善町沖 3基の風車が9月中に運転開始へ

富山県入善町沖の洋上風力発電事業は、9月中の運転開始を目指して機器の最終調整を進めている。この事業は、秋田市の再エネ事業会社が孤軍奮闘する形で実現にこぎつけ、国内外の最先端テクノロジーが施工面でサポートした。

(アイキャッチ画像 撮影:山下幸恵)

秋田市の再エネ事業会社が
孤軍奮闘して事業化

富山県入善町沖

設置が完了した3基の洋上風車(撮影 山下幸恵)

「SEP船の写真が撮りたくて金沢市からやってきました」「1枚1枚の羽根が大きくてびっくりしました」。富山県北東部の入善町。海上の工事が最終段階を迎えた6月1日には、現場近くの海岸に大勢の見物客がつめかけた。風車は海面からの高さが152m、回転直径は133mにおよぶ。大型クレーンで3枚のブレードが持ち上げられると、見物していた人達から大きな歓声があがっていた。

この事業は、入善町沖の水深約10~12mに3000kW級の風車を3基設置する。最大出力は約7500kWで、一般家庭3600世帯分の電力使用量に相当する。総事業費は約61億円。民間企業が100%出資して港湾などを除く一般海域に洋上風力発電所を設置するのは国内初となる。

当初は2020年に着工して2021年3月に稼働する計画だったが、事業主体の変更や設計見直しなどの影響で着工が遅れていた。その後、ウェンティ・ジャパン(秋田市)の単独事業として計画を見直し、新たな施工業者として清水建設とEPC契約(設計、調達、施工)を締結した。ウェンティ・ジャパンは、2012年に羽後設備(秋田市)、市民風力発電(札幌市)と、北都銀行(秋田市)をはじめとするフィデアグループなどが企画・設立した再エネ事業会社。入善町沖の事業主体となる「入善マリンウィンド合同会社」には今年3月、JFEエンジニアリングと北陸電力が出資参画している。JFEエンジニアリングは、入善町沖で風力発電のO&Mを初めて担当する。

新建造の大型SEP船が
洋上風車を設置

入善町沖8

富山県沖で初稼働したSEP船「BLUE WIND」(出典 ウェンティジャパン)

入善町沖の事業では、清水建設が約500億円をかけて発注した国内最大の自航式SEP船「BLUEWIND」が初めて本格稼働した。建造したのは、広島県のジャパン マリンユナイテッド(JMU)呉事業所。「BLUE WIND」は全長142mで、タグボートが不要な自航式。クレーンの最大揚重能力は2500トンで、8000kW級の風車なら7基、1万2000kW級なら3基分の全部材を一度に搭載できる。

「BLUE WIND」は作業能力も高く、予備日をみても8000kW級の場合は7基を10日、1万2000kW級の場合は3基を5日で据え付けられる。船体のジャッキアップ・ダウンが可能で、既存のSEP船に比べ5割程度高い稼働率を発揮できるように設計された。

「BLUE WIND」は、昨年10月の完成・引き渡し以降、広島県沖の瀬戸内海で習熟訓練をしたあと、富山県入善町沖で4月3日から風車の基礎を海底に打設する工事を開始した。洋上風車の設置開始の4日前に、石川県能登地方で最大震度6強の地震が発生したたが、その後も順調に工事が進み、6月4日に3基目の風車の設置が完了した。

清水建設は1804年、越中富山の大工だった初代清水喜助が江戸・神田鍛冶町で開業した。初代喜助が目指したのは、「誠心誠意、心を込めて仕事に取り組み、良いものをつくって信頼されること」。今年2月の記者会見で、清水建設の関口猛専務執行役員は「創業者のふるさとで、社運をかけた船の第1号の工事をすることに大きな縁を感じる」と感慨深げに語った。

地方銀行を主体に
67億円を事業融資

地方銀行を中心に洋上風力発電向けの事業融資を組成するのは初めて(出典 ウェンティジャパン)

入善町沖の事業では、秋田、富山、新潟の地方銀行などが総額67億円を融資した。特定の事業から生み出される利益を返済の原資とし、債権保全のための担保も対象事業の資産に限定する「プロジェクトファイナンス(事業融資)」の手法を採用している。北都銀行が主幹事を務め、北陸銀行(富山市)と商工中金、第四北越銀行(新潟市)、富山銀行(富山県高岡市)、富山第一銀行(富山市)の6つの金融機関が参加する。

地方銀行が中心となって洋上風力発電向けの事業融資を組成するのは今回が初めて。北都銀行地方創生室は「プロジェクトファイナンスのアレンジ業務を通じて蓄積したノウハウを、今後も再エネ事業などに活用し、脱炭素社会の実現に貢献していきたい」としている。

ウェンティ・ジャパン経営企画部の矢守悠さんは「国内外の関連企業のみなさまから最新技術を提供していただいたことに感謝している。今後の日本の洋上風力発電事業のモデルになるように取り組んでいきたい。それに加えて、地元の多くの金融機関に支援していただいたことに大きな意味を感じている」と話している。


取材・文/高橋健一

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