環境省検討会が提言「洋上風力事業者決定前まで国がアセス代行」
2023/10/04
環境省の検討会が、洋上風力発電の新たな環境影響評価制度についての提言をとりまとめた。発電事業者が決定するまでは国がアセスの中心を担うもので、事業者側にとっては環境影響評価の4段階の手続きのうち2段階が不要になるとしている。
2022年度に
検討会で課題整理
2022年度に山形県遊佐町沖で試験的に環境調査
政府は洋上風力発電の普及を促進するため、環境影響評価の一部を国が代行して行う制度を創設する方針。公募に参加する事業者の調査が重複する現行方式のムダを解消し、運転開始の時期を早めるのが目的。国が公募海域で一定の調査を担う仕組みは「セントラル方式」と呼ばれ、欧州で広く採用されている。環境省は、セントラル方式による環境調査を、2022年度に山形県遊佐町沖で、2023年度は新潟県村上市・胎内市沖と千葉県いすみ市沖で実施する予定。
環境省は2022年度に有識者や学識経験者による検討会を立ち上げ、日本版セントラル方式を導入するにあたっての課題を整理した。このなかでは、海域の状況に応じ、調査内容や、調査結果の活用方法を整理し、取りまとめ、公表したうえで、必要な現地調査などを実施することとしてはどうか。具体的な事業諸元を含む事業計画がつまびらかになる前に調査内容などを検討する必要があるため、選定された事業者が手戻りなく環境影響評価手続を進められるよう、国においては、将来選定され得る事業者の具体的な事業諸元を含む事業計画が包含されるような事業形態の大枠を整理したうえで、環境影響評価の設計を行うこととしてはどうかなどの意見が出された。
新たな環境影響評価制度の全体的な流れ(出典 環境省)
今年度は新たに「洋上風力発電の環境影響評価制度の最適な在り方に関する検討会」を立ち上げ、これまでの議論を踏まえ国が実施する具体的な調査内容や活用方法、タイミングなどを4回にわたって議論し、8月31日に提言をとりまとめた。
そのなかでは、発電事業者が決定するまでは国がアセスの中心を担う、新たな制度の創設を求めている。現行の環境影響評価制度は、公募の参加事業者が、個別に重複した調査を実施するため、総合的なコストの増加や地域の困惑などの課題が指摘されていた。新たな制度を導入すると、事業者側にとっては、環境影響評価の4段階の手続きのうち2段階が不要になるとしている。
新たな制度や
法整備を早期に検討
日本と欧州における海域選定プロセスと環境影響評価制度(出典 環境省)
洋上風力発電の先進地であるオランダとデンマークでは、海洋空間計画(MSP)により、領海および EEZ において洋上風力発電事業を実施することができる区域を設定したうえで、その後の戦略的環境アセスメント(SEA)や環境保全措置(EIA)などの手続きを踏まえて、最終的な事業実施区域が決定される。
海洋空間計画(MSP)の策定以降のプロセスはオランダとデンマークで異なる。オランダではSEA と EIA を事業者選定のための入札の前に国が実施したうえで、事業開始後のモニタリングも国が実施する制度となっている。デンマークは、実施想定区域の特定、、SEA、陸域における事業計画の EIAを事業者選定のための入札前に国が実施したうえで、選定事業者が洋上における事業計画の EIAと事業開始後のモニタリングを実施する制度になっている。
環境省の検討会は、今後、政府においては、必要な法整備の検討を含め新たな制度の早期の実現に向けた取り組みを速やかに進めるべきである。また、並行して、新たな制度を適正かつ効果的・効率的に施行できるよう必要な技術的知見や実施体制の整備などについてより詳細な検討を行う必要があるとしている。環境省は、発電事業者の負担軽減を図るため、できるだけ早期に新たな制度や法整備を視野に入れながら検討を進める考えを示している。
DATA
「洋上風力発電の環境影響評価制度の最適な在り方に関する検討会」の取りまとめについて
取材・文/高橋健一