「脱請負」一気通貫で三方よしの再エネ事業を ~ インフロニアHDが日本風力開発を買収 ~
2024/03/29
前田建設工業を傘下にもつインフロニア・ホールディングスが今年1月、日本風力開発の全株式を取得して子会社化した。買収の目的や今後の事業展開について、岐部一誠社長に聞いた。
メイン画像:日本風力開発と共同開発した秋田県の八峰風力発電所(出典 前田建設工業)
コンプライアンス問題を
時間をかけて慎重に調査
インフロニア・ホールディングス代表執行役社長兼CEO 岐部一誠氏
日本風力開発の買収について、岐部社長は記者会見や各種説明会などで「コンプライアンス(法令遵守)の問題は、会社ぐるみではないと判断した」と繰り返し説明している。「当社は指名委員会等設置会社であり、ガバナンスの強化を図っているので、日本風力開発のガバナンス強化に一緒に取り組んでいくことも可能と考えている」と岐部社長は強調する。
ー今回の買収について、社内に反対意見はありませんでしたか
会社の事業自体の話とコンプライアンスの話を混同していると思う時がよくあります。私は、今回のケースは分けて考えるべきと思っています。会社の事業自体とコンプライアンスの問題が一体的なものなのか否かは、今回も重要なポイントでしたので、法律の専門家にも入ってもらい、時間をかけて慎重に調査しました。
結果として、会社ぐるみのものではないと判断しました。今回のコンプライアンスの問題と、日本風力開発の事業における能力やポテンシャル、開発案件は、別の問題で、分けて考えて良いと判断をしたということです。社内においてもこの点を説明していますので、反対はなかったです。
「脱請負」で
新たなビジネスモデルを
前田建設工業は、2010年前後から本格的に「脱請負」をキャッチフレーズに、発注を受けてモノをつくるだけの会社からの脱却を目指してきた。いまでは、再生可能エネルギー事業や公共施設の運営を中心とする官民連携事業(PPP/PFI事業)が収益の柱の1つに成長しつつある。
ー「脱請負」とは、どのようなビジネスモデルなのでしょうか
少子高齢化で市場が縮小していく未来を考えたときに、これまでのお客さまからの発注を受けて、モノをつくるという請負型のビジネスモデルだけでは、企業としての成長はおろか維持することも難しいだろうな、ということをずっと考えてきました。
そのため、インフラのより上流のビジネスから、事業主として取り組み、極端に言うと、自社がモノをつくることだけを目的とはしないということです。そして、事業主として取り組むことで地球規模であったり、日本の大きな課題解決のソリューションとなったりしていくようなビジネスモデルに進化していけばいいな、ということを20年くらい前から模索していました。
「三方よし」の
再エネ事業を推進
日本風力開発の買収価格は約2030億円。インフロニア・ホールディングスは、日本風力開発が開発を進めている発電事業プロジェクトの総容量約3800MWのうち、約35%にあたる1350MWを評価の対象にしたと説明している。
内訳は、FITまたはFIPを取得済みの案件が約950MW、今後、入札予定でFITやFIPではない開発中の案件が約400MWとしている。
ー再エネ事業にどのように取り組んでいきますか
ホールディングスとして、社会課題の解決に向けて、大きく2つの脱請負事業に取り組んでいます。1つが再エネ事業、もう1つが官民連携事業です。どちらもインフラをつくるという目的以上に、事業の開発から投資・運営・維持管理までを行います。
その中で、われわれが工事までやった方が事業性が良ければ工事もやりますが、他社が工事をした方が事業全体として良ければ、そうすればよいと考えています。その全体の流れが、地球にとっても、国民にとっても、われわれにとっても、「三方よし」、ほかの国でやれば「四方よし」みたいな、そのようなビジネスモデルをつくっていきたいと考えています。
日本風力開発とは、秋田県八峰町の陸上風力発電事業の開発を一緒に取り組んで、開発能力や、住民との接し方など、日本一といっていい能力があると感じていました。だから、あれだけの事業を展開してきたと思っています。
ホールディングス全体で、2030年度に営業利益1000億円以上という目標を掲げていますが、そのうち、従来の請負的な事業が500億円くらい、残りの400から500億円は脱請負というところで稼ごうと思っています。日本風力開発には、脱請負のなかの半分くらいを期待しています。
いまの洋上風力は
リターンの期待値が低い
ー洋上風力発電事業にどのように取り組んでいきますか
いまの洋上風力の選定スキームは、あまり魅力がないと思っています。いまのスキームである限り、一般海域の入札に参加する考えは、いまのところ当社にはないです。リスクが大きい割に、リターンの期待値が低い。風力発電を洋上でやるのは、相当難易度とコストが高いですよね。自然条件の難易度が高いので、そのリスクや系統連携、環境アセスメント、漁業組合との交渉など、これらをすべて民間でやるというのは、なかなか難しいと思います。
O&Mについては、日本風力開発の2つのメンテナンス会社を高く評価しています。風車が回ってエネルギーを供給できるうちは、メンテナンスがとても大事だと思いますので、ここはチカラを入れていく大きなポイントの1つだと考えています。ほかの会社がつくった風車も、安く品質が良いメンテナンスができる体制をつくるというのも、重要なことだと思います。
ーどのような事業展開を目指していきますか
再エネ事業を進めることで、防災の観点など、地元に貢献できることがあると思います。そのような中で大切していきたいのは、「三方よし」です。再エネの推進は地球規模の大きな社会課題であり、国民全体の社会課題でもあるので、このことに寄与し、地元の利益にも貢献しながら、われわれの事業を成長させていくということに尽きると思います。
洋上風力は一般海域以外の案件もありますので、洋上とか陸上とかって区別は、あまりする必要はないと思っています。ビジネスとして、地球や日本の国の課題解決になりながら、投資へのリターンも可能だという案件であれば、日本風力開発に風力発電以外のことをやってもらってもいいのかなとも思っています。再生可能エネルギーの推進に資する範囲の事業ではあるとは思いますけどね。
自立した経営を模索しながら、社会貢献を目指す強い思いが「三方よし」という言葉に込められていると感じました。風力発電業界に新しい風を吹き込んでほしいと思います。(ウインドジャーナル編集部)
PROFILE
インフロニア・ホールディングス
代表執行役社長兼CEO
岐部一誠氏
写真:渡邊眞朗
取材:廣町公則
WIND JOURNAL vol.6(2024年春号)より転載