ファイバーマックス、合成繊維製浮体係留索の国内製造に向け 秋田県、秋田市と覚書を締結 大水深を視野に製品開発
2025/10/15

オランダのケーブルメーカー「FibreMax」は、同社の日本総代理店であるアイルエンジニアリングなどの協力会社とともに、日本国内に浮体係留索の生産拠点をつくる意向を固めた。日本における生産拠点として、秋田県や秋田市と優先的に協議を行うことで合意し、10月15日に覚書を締結した。
秋田県、秋田市を
国内生産拠点の候補地に
秋田県、秋田市との覚書締結式=2025年10月15日
締結式は秋田県庁で行われ、秋田県の鈴木健太知事と秋田市の沼谷純市長、ファイバーマックスのDirector Renewable Energy サンダー・V・ファン・ヘルヴォルト氏、同社の日本におけるパートナーであるアイルエンジニアリング(本社:岡山県倉敷市)の玄馬淳社長、マツモト綱販(本社:大阪市)の松本健吾取締役、地元での調整役を担うウェンティ・ジャパン(本社:秋田市)の佐藤裕之社長が出席した。
締結式では、(1)秋田県と秋田市、ファイバーマックスは、日本における生産拠点として、秋田県と秋田市を候補地として、この両者と優先的に協議を行う、(2)秋田県と秋田市は、ファイバーマックスの進出計画の具体化に向け、適宜必要な情報を提供し、同社の計画の早期実現に向け、用地選定など協力する、(3)秋田県と秋田市は同社と共同し、浮体係留索の技術開発や試験研究について、秋田県または秋田市の地域内に「産・官・学」が連携するワークショップの設置を支援する、(4)ウェンティ・ジャパンは、同社の日本における事業展開に際し、協力会社として秋田県、秋田市と連携し、事業展開地域への波及効果の創出に資するよう協力する、の4点について合意する文書を取り交わした。
経済産業省は、今年8月に公表した「第2次洋上風力産業ビジョン」で、新たな政府目標として、「2040年までに15GW以上の浮体式洋上風力案件の形成」、「29年度中をめどに大規模浮体式洋上風力案件の形成」を掲げている。産業界の目標として、「40年までの国内調達比率65パーセント以上」を実現するため、サプライチェーンの構築と産業競争力の強化に取り組む方針だ。秋田県南部沖では、国のグリーンイノベーション基金を活用して「洋上風力発電の低コスト化プロジェクト」の実証事業が進められている。
秋田県の鈴木健太知事
秋田県の鈴木知事は、「これから秋田県沖で実証を進めようとしている浮体式洋上風力発電やクレーンのケーブルを製造する世界的な企業が、秋田県と秋田市を国内生産拠点の候補地に選んでいただいたことはたいへん意味があることだと考えています。秋田県が人口減少という大きな問題に立ち向かうにあたって、これまでにない分野の就職先が秋田にできるということですから、このチャンスをしっかり生かしていくとともに、地域と企業がウィンウィンの関係で協力していける体制をつくっていきたいと思っています」と期待を込めた。秋田市の沼谷市長は、「秋田とオランダ、岡山、大阪という大きなネットワークのなかで、覚書を締結させていただいたことをたいへんうれしく思っています。浮体式洋上風力発電に関する秋田県の可能性を見通してご判断いただいたことに感謝を申し上げます。秋田県が日本、そしてアジアの浮体式の生産拠点となるよう、末永いお付き合いをさせていただけたらと考えております」と話した。
秋田市の沼谷純市長
ファイバーマックスのサンダー氏は、「他県のいくつかの自治体からもお声がけをいただき、どこも魅力的なご提案でありましたが、鈴木知事、沼谷市長をはじめとする自治体のトップみずから積極的にご支援いただき、将来に対するビジョンを共有できたこと、加えて県内で風力事業を推進するウェンティ・ジャパンさまに地元との調整をお図りいただき、今後も継続してサポートを頂けること、秋田県南部沖などの浮体式洋上風力発電事業が北日本で数多く計画されていることから、秋田県と秋田市を候補地として選定させていただきました。国の第2次洋上風力産業ビジョンでは29年度中をめどに大規模浮体式洋上風力発電の案件形成を行う方針を示していることから、遅くとも29年までには着工できるように準備を進めたいと考えています」と決意を述べた。
ファイバーマックスの日本進出をサポートした日本貿易振興機構(ジェトロ)アムステルダム所長の奥井浩平氏は、「このたびの秋田県とファイバーマックス社の覚書締結を心よりお喜び申し上げます。ジェトロは過去30年近くにわたり先進技術を持つ外国企業の日本への進出、日本での展開をサポートしております。特にオランダにおいては、洋上風力、水素などの再生可能エネルギー、半導体などの分野で日本への誘致活動を積極的に行っており、欧州や米国を中心にグローバルなエネルギー転換に貢献しているファイバーマックス社のような有力企業を支援しています。特に日本の地方活性化に貢献すべく、全都道府県に広がるジェトロ国内ネットワークを駆使し、地方への進出にも貢献しています。今後も同様な事例がさらに増え地方の活性化につながることを期待しております」と話している。
TLPやセミサブ、バージ、スパーなど
あらゆる係留方式に対応可能
AiP認証を取得したファイバーマックスの合成繊維製浮体係留索 (出典 FibreMax)
FibreMax(ファイバーマックス)は、2009年に設立されたオランダのケーブルメーカー。同社の合成繊維製ケーブルは、「エンドレスワインディング」という一切の撚り(より)や編み(あみ)を行わない画期的な製法により、係留索として使用した場合、従来の鋼製や合成繊維製ロープに比べ著しくショックロードを軽減する特徴がある。また、鉄に比べ重量は80%以上も軽く、サビや腐食を通さないため、過酷な環境や海洋用途で最適な性能を発揮する。さらにプレテンションが不要というのも施工するうえで大きなアドバンテージとなる。
同社の「エンドレスワインディング」という製法は撚りや編みにより強度を保つのではなく、素材の強度がそのまま製品の強度となることが大きな特徴だ。それにより、最終製品になった際のパフォーマンスが98パーセントの精度で予め計算できるという。またポリエステル、アラミド、HMPEなど、どのような素材でも製造できるので、TLPやセミサブ、カテナリーなど、あらゆる係留方式に対応可能である。これまでにMBL1.7万キロニュートンまで製品化(DNV認定)しているが、理論上は6万キロニュートンまで製造可能だという。
洋上風力発電分野のほかに、クレーンなどの建設重機や建築資材のタイロッドなど、高強度、高張力が求められる分野での活用が進んでいる。建機向けにLIEBHERR、HUISMAN、KROLLなどの欧州の大手建機メーカーで採用されており、鋼製に代わり主流となりつつある。建機向けの販売はワイヤーロープ専門商社であるマツモト綱販株式会社が行う。
合成繊維製の浮体係留索で
国内初のAiP認証を取得
AiP認証の授与式 左から FibreMax サンダー氏、日本海事協会 松永昌樹常務理事(2024年10月)
ファイバーマックスは昨年10月、合成繊維製の浮体係留索で日本海事協会(Class NK)のAiP認証(基本設計承認)を取得した。洋上風力発電の合成繊維製の浮体係留索でAiP認証を取得したのは、同社が初めてだ。認証を取得したことで、実設計に向けた規則類の思想に基づく課題を洗い出し、最終的な図面承認を得るのに必要な設計の要点を整理できるようになった。同社は、従来の繊維ロープを係留索として使用した際にデメリットとなる摩耗や伸長を、「エンドレスワインディング」という独自製法によって克服した。今後は、1000メートル以上の大水深での活用を視野に製品開発を進める方針だ。
ファイバーマックスの合成繊維製浮体係留索のイメージ(出典 FibreMax)
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取材・文:ウインドジャーナル編集部
写真:佐藤和博
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