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スコットランド気候対策・エネルギー大臣に聞く 日本の浮体式技術開発への貢献に意欲

スコットランド政府のジリアン・マーティン(Gillian Martin)気候変動対策・エネルギー大臣が9月に日本を訪れ、WIND EXPO会場で講演した。日本の浮体式技術開発に貢献するとともに、スコットランドへの工場進出と積極的な投資を呼びかけた。

(トップ画像:スコットランド政府の気候対策・エネルギー大臣 ジリアン・マーティン氏)

 

<目次>
1.石油・ガス産業の知見で 洋上風力発電を推進
2.2024年3月に 浮体式風力イノベーションセンターを開設
3.洋上風力発電分野の 通商使節団が同行

 

石油・ガス産業の知見で
洋上風力発電を推進

ーースコットランドは、北海での石油・ガス産業で蓄積した知見を活かして浮体式洋上風力発電の開発を推進しています。今、もっとも力を入れていることを教えてください。


若い世代の雇用の場として洋上風力産業の振興に取り組むマーティン氏。

(マーティン大臣)スコットランドは洋上風力発電の導入を積極的に進めており、特に、サプライチェーンへの投資に力を入れています。日本の住友電気工業が昨年5月から、ハイランド地方のニッグ港に海底電力ケーブル工場の建設を始めていますが、それに関連する企業の集積などに取り組んでいます。

新たに企業が進出すれば、若い世代の方々が、この先もスコットランドで働き、生活することができます。スコットランド政府はこれまでにも石油・ガス産業の人材に対して、専門知識のリスキリングやスキルアップのサポートを行ってきました。

スコットランドが洋上風力発電に注力している目的の1つは、北海での石油・ガス産業に従事する労働力の受け皿とすることです。洋上風力発電分野は、これまで蓄積した海洋エンジニアリングの技術を生かすことができると考えています。

スコットランドには石油・ガス産業に関するサプライチェーンや労働力がすでに存在しており、それらをアップスケールすることで、洋上風力発電へも容易に応用することができます。スコットランドやノルウェーは、北海での石油・ガスの産業が盛んでした。だからこそ、脱炭素化に向けては強い責任があると考えています。

日本とスコットランドは、洋上風力発電に関して“共生的な”関係にあると考えています。つまり、お互いに助け合い、それぞれの強みを最大化するという意味です。洋上風力発電への投資やサプライチェーンの構築に向けて、お互いの専門知識を活用しあうことが重要だと思います。

ーー洋上風力発電の導入拡大に取り組むことによって、どのような経済効果があらわれていますか?

スコットランドでは以前から、陸上・洋上風力発電で発電した電気を域内で活用してきました。風力発電による電気は、近いうちに、スコットランドで使用する電気の量を超えるという見通しです。われわれは、発電した電気を英国の他の地域へ提供し、脱炭素電源の供給に関連した雇用の拡大を進めていきたいと考えています。

スコットランドは、早くから風力発電を導入したことによって、1990年と比べてCO2排出量を50%以上削減しています。これは、ネット・ゼロに向けた取り組みの過程にすぎませんが、CO2排出量の削減は計画よりも早いスピードで進んでいます。そして、洋上風力産業とそのサプライチェーンが健全に成長しつつあるという手応えも感じています。

例えば、ハイランド地方の若い人達はこれまで、仕事に就くには、スコットランド南西部の主要都市であるグラスゴーへ移り住む必要がありました。しかし、住友電気工業のケーブル工場がニッグ港に進出・投資することによって、若い人達がハイランド地方の企業に就職して定住することができるようになるでしょう。

住友電気工業の工場建設は、ハイランド地方に新たに1社の企業が進出しただけにとどまらず、洋上風力産業全体、地域コミュニティ、雇用、インフラに大きな影響を与えています。そのおかげで、若い人達とその家族が一緒に生活することができるようになるのです。

また、今年7月に三井物産や商船三井がニッグ港を共同で買収しましたが、こうした日本企業の動きは、スコットランドがいかに洋上風力に真剣に取り組んでいるかを評価していただいた結果だと考えています。

 

 

2024年3月に
浮体式風力イノベーションセンターを開設

ーー2024年3月に浮体式風力イノベーションセンターをアバディーンに開設しましたが、どのような成果が出ていますか?

スコットランド北東部の都市アバディーンは、50年間にわたって北海での石油・ガスを基幹産業としてきたエネルギー・シティです。私自身もアバディーンの出身であり、石油・ガスから再生可能エネルギーへの変化を見てきましたが、都市に与えた変化の重要性は筆舌に尽くせないほどです。

アバディーンに加えて、スコットランド北部にあるオークニー諸島には欧州海洋エネルギーセンターがあり、今年9月16日には、浮体式洋上風力技術研究組合(FLOWRA)と協力に関する覚書を取り交わすなど、日本との協力が進んでいます。まさに、これは洋上での石油・ガス産業に端を発したシナジー効果だと捉えています。

ーー浮体式洋上風力発電の開発について、今後の目標を教えてください。

スコットランドにある「ハイウィンドスコットランド」は、世界で初めて建設された浮体式洋上風力発電所で、スパー型の5つの風車からなるウィンドファームです。30MWの発電出力があり、過酷な環境でも耐えうるシンプルな構造と、摩耗を減らし発電量を増やすモーションコントロール技術が用いられているのが特徴です。スコットランド北東の海域でも別の取り組みが行われています。こうした洋上風力発電による電気が余剰したときに、グリーン水素を製造して、エネルギーを他の地域に提供することも計画しています。

ーー日本の洋上風力発電の発展にどのように貢献していきたいですか?


マーティン氏は日本の企業や投資家に期待していると話す。

日本では着床式洋上風力発電の取り組みが進んでいますが、海底の岩盤の硬さや水深の深さなどの環境を考慮すると、浮体式洋上風力発電ビジネスはゲームチェンジングな機会になると考えています。そうしたビジネスの転換に立ち会えることをとてもエキサイティングだと感じています。スコットランドで実用化されているテクノロジーや専門知識を通じて、こうした日本のチャレンジに貢献したいと考えています。

洋上風力発電は、クリーンなエネルギー安全保障に貢献します。エネルギー安全保障の問題は、脱炭素と同じくらい重要だと思います。エネルギーはできる限りレジリエントであるべきですし、気候変動に対しても同様です。エネルギー安全保障の問題は、日本にとって極めてクリティカルなものだと考えています。日本はカーボンニュートラルを目指す先進国の1つですから、エネルギー安全保障と脱炭素の両方を、テクノロジーを使って実現すべきだと考えています。

ーースコットランドのどのようなノウハウやソリューションを日本の浮体式洋上風力発電の発展に活用してほしいですか?

スコットランドは、海洋構造物の設計や設置、メンテナンスなどのサブシーエンジニアリングに長けています。こうした技術を日本が持つ土木やものづくりの専門知識と組み合わせることで、浮体式洋上風力発電をさらに発展させる可能性があると考えています。

スコットランド政府は海洋空間計画を策定しています。海はさまざまな目的に活用されているため、海洋空間計画を策定するには各方面との調整を必要とし、決して簡単なことではありません。日本も近い将来、EEZ(排他的経済水域)内に浮体式洋上風力発電を拡大するにあたって、こうした計画の策定を検討する必要性が高まると考えていますが、そうした機会においてもスコットランドの専門知識を活用してほしいと思います。

ーースコットランドのサプライチェーンクラスターには日本企業も参画していますが、日本企業にどのようなことを期待していますか。

日本の企業だけでなく、日本の投資家の皆さんに対しては、イノベーションをさらに拡大することを期待しています。日本企業にはものづくりに関する豊富な専門知識があり、極めて精緻な技術を持っています。日本のものづくり企業がスコットランドに進出することで、スコットランドのサプライチェーンを育成することにもつながるでしょう。スコットランドは日本の企業や投資家を大歓迎しています。

ーー日本の洋上風力発電関係者へのメッセージをお願いします。

私からのメッセージは、お互いに学びあい、協力して、ともに洋上風力発電の拡大に向けて取り組みましょうということです。日本とスコットランドの企業は、それぞれの専門知識や経験を持ち寄って、より良い洋上風力産業の成長に貢献できると考えていますし、そこにはたくさんのチャンスがあると考えています。

日本の地方都市の中には、アバディーンのようにエネルギー転換を図っている地域が少なくありません。エネルギーの転換にあたっては、既存の産業が縮小する一方で、新たな産業が誕生するという両面の影響があります。それらの影響の両面を考慮した上で、気候変動に立ち向かうことが重要だと考えています。

洋上風力発電分野の
通商使節団が同行


マーティン氏に同行した洋上風力発電分野の通商使節団。

スコットランド政府と駐日英国大使館スコットランド国際開発庁は、日本に洋上風力発電分野の通商使節団を派遣した。マーティン氏に同行した企業関係者に、日本の洋上風力発電の発展にどのように貢献していきたいかを聞いた。

■エナジー・トランジション・ゾーン(ETZ)
オフショア・リニューアブルズ ダイレクター
アイラ・ロブ氏

当社は民間主導の非営利企業であり、英国政府、スコットランド政府、エネルギー大手企業のウッド・グループから出資を受けています。われわれは海洋オイル&ガス産業における多くの知見、技術、人材を有しています。日本企業とも協力しており、スコットランドへの進出をサポートするなど、再生可能エネルギーへの公正な移行を実現し、地域の雇用を守ることを目指しています。

■エナーフロート
ダイレクター
マイク・ワット氏

当社は浮体式洋上風力発電のO&Mサービスプロバイダーです。スコットランドのキンカーディン浮体式洋上風力発電所の発電機の交換を洋上で行った実績があります。日本は今後、浮体式洋上風力発電を大量に導入するフェーズを迎え、専門的な知識や技術を必要とする場面が増えると思います。われわれは再生可能エネルギー業界で数十年にわたる経験を持ち、浮体式洋上風力発電に特有の課題を深く理解しています。当社のエンジニアリング、運用、保守に関するプロフェッショナルチームは、専門知識や技術によってこれらの課題を解決するサポートを行います。

■イオデックス
ビジネス&プロジェクト開発マネージャー
リー・ワスリング氏

当社はアバディーンに拠点を置き、海底の障害物を処理するサービスを提供しています。海底には、不発弾や座礁船などの障害物があるケースが多く、これまでにもスコットランド沖の洋上風力発電プロジェクトであるモレイ・ウエストなどで実績があります。洋上風力発電の施工前だけでなく、施工箇所に泡の壁をつくって周囲への騒音の影響を軽減するなど、海洋生物に配慮したサービスを提供しています。

■OEGリニューアブル
リージョナル・ダイレクター
ケビン・ウー氏

当社は1973年の創業以来、世界的なエネルギー産業向けにインフラ資産、技術、サービスを提供するエネルギーソリューション企業です。OEGは、日本や台湾をはじめ、世界のさまざまな国と地域に洋上風力発電に関するソリューションを提供しています。昨年5月には、双日マシナリーと日本の洋上風力発電市場に再生可能エネルギーサービスソリューションを提供するための覚書を取り交わしました。当社は日本の市場や商習慣について深く理解しており、国内市場に向けてサービスを提供する態勢を整えています。

■ジェームスフィッシャー・リニューアブルズ
APAC代表
カラム・ヒューム氏

当社は177年間にわたって船舶・海洋事業を展開してきました。特に、海洋石油・ガス産業においては、厳しい環境下で複雑なプロジェクトを遂行してきました。こうしたノウハウを洋上風力発電分野に生かし、最先端技術と専門知識を駆使して、お客様の資産ライフサイクル全体にわたる安全かつ効率的な運用を実現します。風車の設置前の測量から、風車の据え付けや試運転、運用後のO&Mに至るまで、安全かつ効率の良いサービスを提供します。

 

 


取材・文:山下幸恵(office SOTO)
写真:金子怜史

2026年1月16日(金)に開催する「第5回WINDビジネスフォーラム」では、福岡県北九州市洋上風力拠点化推進課の白井伸弥課長が、2026年春に運転開始を予定している北九州市響灘の洋上風力発電事業の将来展望や、浮体式洋上風力発電の総合拠点整備について講演します。


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いま、日本の洋上・陸上風力発電は大きな岐路に立たされています。大学の研究者や自治体の政策責任者、最先端テクノロジーの開発企業などをお迎えして、オンラインイベントを開催します!事前登録のみで無料ご参加いただけますので、お気軽にご参加ください。

 

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