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動き出した浮体式大規模実証 水深400メートルの未知の海域に超大型風車を設置

丸紅洋上風力開発を幹事会社とする企業連合が、浮体式実証「秋田県南部沖」の研究開発を開始した。水深約400メートルの海域に、1万5000kW以上の超大型風車2基を設置する。

極めて厳しい条件下で
7つの研究開発に取り組む

「秋田県南部沖の実証は、日本海北部の深海という極めて厳しい条件下で実施します。この実証が成功したら、日本近海にとどまらずアジアの広い範囲で、研究開発した技術が応用できると考えています」と話すのは、ジャパン マリンユナイテッド(JMU)洋上風力プロジェクト部長の岩本昌樹氏。同社は、2022年から自社開発した約10分の1サイズのセミサブ型浮体模型を用いて研究開発を実施し、浮体基礎の量産化と設置低コスト化実現のための知見・技術を確立した。

秋田県南部沖ではセミサブ型の浮体を用いて、出力1万5000kW以上の同じ風車を2基設置する。2基ともに、同じ浮体と同じ係留システムを採用する予定だ。今回の実証エリアは、沖合約25キロ、水深約400メートルの未知の海域である。大型の係留アンカーを水深400メートルの海底に打ち込むのは、欧州では実績があるが、日本国内では初めての挑戦だ。

JMUの研究開発は、EPCI(設計・調達・製造・据付)分野で6つ、O&M(操業・メンテナンス)で1つの計7テーマに取り組む。EPCIでは、分割建造した浮体ブロックを洋上で接合する技術の確立や、鋼構造物を手掛けるヤードとのアライアンス構築による最適な建造方法の確立、一時保管する浮体を最少化する浮体輸送の効率化、大型浮体の高精度な構造解析手法の確立と標準化などをテーマとしている。


最適建造方法・浮体輸送効率化のイメージ。(出典 ジャパン マリンユナイテッド)

 

 

全国各地の中小造船所などを
浮体建造で活用

風車の大型化により浮体も大型化し、浮体を一体建造できる建造所の選択肢は非常に限られる。そこで浮体の高速・大量生産に向けて、国内に多数存在する中小規模の造船所などを浮体建造所として活用する計画だ。中小造船所も含めた複数の造船所などが連携して、浮体を分割・集積建造できる方法の確立を目指す。

係留ロープは、鋼製チェーンと合成繊維ロープを組み合わせたハイブリッド係留システムを採用する。秋田県潟上市沖では22年から約1年間にわたって直径約60ミリのハイブリッド係留ロープを使用し、張力が異なる2種類の係留方式での試験も行った。大型の台風や冬期間の暴風雪に見舞われたが、ロープに損傷はなく、大水深域では鋼製チェーンよりも軽量なハイブリッド係留システムを適用することがコスト優位性を持つことを確認した。


洋上接合のイメージ。(出典 ジャパン マリンユナイテッド)

秋田県南部沖では、フルサイズの大直径係留ロープを使用する。研究開発の全体統括を担当するJMUの岩本部長は「浮体式の量産化を進める際に、鋼製チェーンの供給不足が懸念されます。そのためにも、比較的製造しやすい合成繊維ロープの使用を増やしていくことが大きな課題のひとつになると考えています」と語る。

秋田県南部沖の洋上風車は29年秋頃の運転開始を目指している。O&Mの研究開発では、中日本航空のヘリコプターを活用する。空輸によるO&Mは、国内初の取り組みだ。丸紅洋上風力開発の真鍋寿史社長は「将来の商用化とEEZへの設置を見据えて、水深400メートルの深海域で技術と施工の経験を積んでいきたい」と話している。


取材・文:高橋健一

WIND JOURNAL vol.8(2025年春号)より転載

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