「安さ」から「強さ」へ。洋上風力供給網の戦略的自立への転換点
2026/08/06
第1ラウンド3海域からの三菱商事の撤退は、日本の洋上風力発電産業の足腰の弱さを象徴する出来事だった。「撤退ドミノ」が懸念されるなか、サプライチェーンの構築には何が必要なのか。海外事情に詳しい専門家がわかりやすく解説する。
メイン画像:台湾西海岸の洋上風力発電所。写真提供 PPR109103@Shutterstock.com
撤退劇が突きつけた
不都合な真実
昨年8月の撤退劇は、単なる一企業の採算の悪化という問題ではなく、日本が供給網を持たざる国であるがゆえの構造的な敗北です。当時、撤退理由とされた「予期せぬインフレと資材高騰」は、主要機器の海外依存度の高さゆえに、為替リスク、物流費、他国の需給逼迫による価格転嫁に対し、日本がいかに無防備であるかを露呈しました。政府が掲げる「2040年までに国内調達比率65%」という洋上風力供給網の構築目標は、単なる産業振興策ではなく、エネルギー安全保障を他国の事情に左右されないための「攻めの防衛策」ととらえるべきです。本稿では、台湾・韓国の先行事例を参考にしつつ、その実現策について考察します。
台湾・韓国の教訓
未熟な保護と巧妙な誘導
台湾と韓国における供給網構築政策は対照的であり、示唆に富んでいます。まず、台湾の事例は「反面教師」。台湾政府は2018年以降、事業者に対して特定品目の域内調達要件(LCR)を設定し、未達成の場合の罰則規定までついた強硬な産業育成策をとってきました。しかし、これは自由貿易を阻害するとして2024年7月にEUによるWTO提訴を招き、結果として同年11月、制度の完全撤廃を余儀なくされました。
一方で、韓国の事例は「智謀」。韓国政府は昨年8月、入札評価において実質的に国内産業への投資が必須となる制度を構築しました。価格点を前年度比で2割削減し非価格点内の産業経済効果点を同6割増加しました。同年の競争入札では、世界標準の15MW風車による発電コスト低減を提案した外資系事業者が全敗、発電コストが割高になることを承知で、韓国・斗山エナビリティ製の10MW機採用を宣言した韓国系事業者が全勝しました。韓国は、短期的な国民負担増を犠牲にしてでも、供給網構築優先という国家意思を、制度設計に込めて巧妙に貫徹したのです。
日本の戦略
経済合理性に基づく「必然の国産化」
翻って日本はどうすべきでしょうか。台湾のような直球の保護主義は、もはや国際社会の理解を得られません。一方、韓国のような短期的な痛みを伴う誘導は、国民感情や財務省の反発を招く恐れがあります。

商船三井の作業員輸送船。(写真提供 商船三井)
目指すべき道の手がかりは、CAPEX(建設費)の構造にあります。その6割を占める機器調達費の主要費目である「基礎構造物」と、残り4割の施工費の要である「施工船」の国産化が急務です。風車は欧州のコア技術を日本に誘致するよりは、ノックダウン機器の組立工場の誘致が現実的と考えます。一方、基礎構造物(モノパイルなど)は技術的実現性が高く、その巨大さゆえに、内航輸送のみで済めばばく大な物流費削減にも直結します。また、施工船についても、XXLモノパイルなどに対応可能な大型船が世界的に不足し、海外船の傭船料(ようせんりょう・借船料)が高騰の一途をたどっているため、日の丸施工船の保有は、工期遅延やコスト超過リスクの排除につながります。JFE(モノパイル製造工場)、五洋建設・商船三井(施工船、内航輸送船の新造)などの事例は、大いに歓迎すべき企業努力です。
日本政府には、こうした入札評価基準の抜本的見直しと、供給網の中で国産化の費用対効果が高い品目への選択的支援が求められます。助成金や優遇税制などで「日本版国産化モデル」を実施し、外・内資の民間企業が安心して設備投資できる環境が整えば、供給網は強靭化し、産業は着実に成長して、ひいては発電コストも低減できると考えます。安さだけを追い求めて海外依存度が高くなることは、エネルギー安全保障の主導権を他国に委ねていることと同義です。産官学が一体となってその主導権を日本に取り戻す努力がいまこそ必要です。
PROFILE
風海鳥2004
海外を中心にプラント建設業界に20年以上在籍。洋上風力産業に関しては、APAC圏市場の黎明期(2010年代)からさまざまな工事案件に従事してきた専門家。
WIND JOURNAL vol.10(2026年春号)より転載
取材・文/ウインドジャーナル編集部












