【洋上風力第1ラウンド】秋田、千葉の3海域全面撤退で疑心暗鬼 洋上風力と漁業共生の行方は?
2025/09/18

洋上風力第1ラウンドの3海域からの全面撤退は、各方面に大きな影響を与えている。そのなかでも、三菱商事が中心となって進めてきた地元の漁業関係者との連携の行方に不安が広がっており、洋上風力の地域共生に暗い影を落としている。
メイン画像:千葉県銚子市の銚子漁港
各海域の沿岸で
漁業振興の取り組み
秋田県男鹿市のカキ養殖事業(出典 三菱商事洋上風力)
三菱商事を中心とする企業連合が2021年12月、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖の3海域を落札して以降、同社はそれぞれの地域の漁業関係者との連携を図ってきた。洋上風力発電事業では、漁業との共生が成功の大きなカギであるためだ。
秋田県男鹿市では、選定事業者の「秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド」が、カキ養殖の事業化を目指して戸賀養殖研究会の設立を支援し、23年にマガキ養殖の実証試験に取り組み始めた。翌年の24年には順調な生育が確認されている。この成果を受けて今年3月からは1年かけて、水中にロープを垂らしてカキを養殖する「垂下式」の試験を進める予定だった。
そのほか、秋田県産の食材を使用したメニューを三菱商事の本社食堂で提供する取り組みや、秋田県沖で水揚げされたフグやシイラなどの販売先の確保のほか、今後は藻場再生に向けての実証試験を検討する予定だった。
銚子市では
漁協が新会社を設立
千葉県銚子市で進める地域創生のイメージ(出典 銚子市)
また、千葉県銚子市では漁業との共生に向けての基金創設や共生センターの設立、漁場実態調査などの取り組みが進められてきた。特に銚子市漁協は100%出資で「銚子漁業共生センター」を設立し、魚礁の効果についても調査を行ってきた。また20年には銚子市漁協などが洋上風力発電設備の運転管理やメンテナンスなどを行う新会社「銚子協同事業オフショアウインドサービス」を設立するなど、再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電事業との共生に向けて、漁業関係者が積極的に動いてきた経緯がある。
漁業分野以外でも三菱商事は、銚子市でEX(エネルギー・トランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)を一体的に推進する地域創生の取り組みとして、地域エネルギー事業や、地域産品の6次産業化、地域の交流・操業の場の設立などを検討していた。秋田県でも、能代市でAIを活用した予約乗り合いタクシーの実験をはじめとして、三菱自動車との災害時連携協定、ネギ農家へのICT導入支援、観光アプリの導入など、さまざまな地域共生策を手がけてきた。
「国が主体的に事業主導を」
全漁連が申し入れ
銚子市と三菱商事が連携協定を締結=2023年6月(出典 銚子市)
しかし、三菱商事が各地域で取り組んできた事業は、今後の展望が不安視されている。
8月27日の記者会見で三菱商事の中西勝也社長は地域共生について、「地域共生をやめることはない」と明言したが、同時に「地域共生策の継続については地域と密にコミュニケーションとって話し合いたい」と述べ、すべての取り組みを継続していくとのコミットメントはしていない。
撤退表明を受けて全国漁業協同組合連合会(JF)は8月28日、武藤容治経済産業大臣に対して、洋上風力発電の推進についての申し入れ書を提出した。「関係漁業者・JFは、幾年にわたって真摯な協議に臨み、調整に協力してきた。このたびの撤退は、当該関係漁業者のみならず、他の地域において真摯に向き合っている全国の関係漁業者に不安や疑心暗鬼を惹起(じゃっき)しかねない」として、漁業者の思いを裏切らないためにも「事業者の指導や関係漁業者との調整など、主体的に事業を主導し、関係地域において混乱が生じないよう、責任をもって対応する」ことを国に対して強く求めている。各地の漁業関係者の協力を得て進められてきた洋上風力発電事業が破綻することは、再生可能エネルギーに対する地域の信頼を裏切る結果となるだろう。
事業環境整備の具体策を
年内にとりまとめ
三菱商事は撤退表明したあと、秋田県と千葉県に出向き、地域共生の取り組みを継続していく考えを強調した。銚子市においては今後の具体的な議論の場として千葉県が提唱する「銚子地域の未来創造会議」への参加を前向きに検討すると説明した。
経済産業省と国土交通省は秋田、千葉の計3海域で法定協議会を開催し、事業環境整備の具体策を年内にとりまとめる意向を表明した。これと並行して政府は、三菱商事が3海域から全面撤退した要因を検証する方針だ。3海域の再公募がどのような制度で、どのような時期に実施されるのか、地元の漁業関係者も議論の行方を注視している。
DATA
銚子市「三菱商事株式会社との地域創生に関する連携協定の締結」
JF全漁連「再エネ海域利用法における洋上風力発電の推進に係る申し入れについて」
取材・文/宗 敦司