【浮体式洋上風力市場】欧州の先行事例:政策主導の市場形成
2026/03/16
日本政府は、2040年までに15GW以上の浮体式洋上風力発電の案件を形成する目標を打ち出した。いまの日本に何が必要なのか。海外事情に詳しい専門家がわかりやすく解説する。
メイン画像:2017年にスコットランド沖で稼働した浮体式洋上風力発電所「Hywind Scotland」
再エネ海域利用法改正後の
現状と課題
再エネ海域利用法の改正法が今年6月に成立し、日本の排他的経済水域(EEZ)内に洋上風力発電設備が設置可能になりました。これにより、世界6位の海域面積に2466GWという潜在的発電容量(三菱総合研究所、2024)を擁する、洋上風力発電市場の開発環境が整備されました。そのうち実に2396GWが浮体式設備によるものであり、浮体式市場の重要性がうかがえます。このコラムでは、日本の浮体式洋上風力市場の発展に向けての課題を政策、経済、社会、技術の4回シリーズで概説し、欧州における取り組みの先行事例を参考に、今後実践的に活用できる教訓について考察します。
キーワード
【政策】市場形成、供給網構築
【経済】発電効率と建設実現性の最適化、投資利益の予見性、ローカルコンテンツ義務
【社会】地域共生、環境影響評価、人材育成
【技術】輸送・建設・運転技術とインフラ整備、研究開発の規模と速度
結論から申し上げると、洋上風力発電市場に限らず「産官学の連携を有言実行した国・地域のみが、その市場を発展させられる」という点は、論をまちません。これを理想論で終わらせず、具体的な行動計画に落とし込むためにも、第1回目は「政策的課題」に焦点をあてます。
欧州に学ぶべき
洋上風力の市場形成
市場を形成する二大要素は、需要と供給です。その成立には、市場が消費者に対して廉価な商品を提供し、事業者に対して長期的・安定的な利益を生むことが不可欠です。ましてや電力のような基幹産業においては、エネルギー安全保障という観点からも、本市場の発展には戦略的利益があります。
欧州各国政府と欧州連合(EU)は、1990年代から続く着床式洋上風力発電の産業形成の経験からこの戦略的利益を熟知し、事業者に対して「長期的な市場存続」と「安定的な利益率」を確約する政策を実行しています。2022年から続くウクライナ侵攻でエネルギー安全保障のリスクが顕在化し、この流れは加速しています。例えば、欧州各国は浮体式案件専用海域を制定し、公募を定期的に実施することを宣言。英国政府は25年5月、浮体式も含めた供給網構築(製造拠点、港湾整備、雇用創出)のために約2000億円規模の官民連携基金を設立。事業者誘致のために立ち上げたクリーン産業ボーナス(CIB)については、事業者の意見聴取後に当初予算の2.7倍である約1080億円へと増額。EUでは25年6月にクリーン産業取引に関する国策補助フレームワーク(CISAF)を設立し、2ヶ月後にはフランス政府の浮体式案件(3ヶ所)向けに約1.9兆円を拠出することを決定しました。こうした取り組みにより、欧州の事業者は長期的視野に基づく浮体式事業への投資決定が可能になりました。
風力発電設備の
国内調達率を高めるには
市場形成の次は、その大規模化です。これには建設・運転に必要な資機材の供給網を一定の経済圏内で構築し、大量生産により費用を低減することが、最も効果的な手段となります。すべてを国内で賄うことは非現実的であり、アジア圏のような広域的供給網の構築により、国益に利するローカルコンテンツ義務の効果的利用が肝要です。
日本政府は風力発電設備の国内調達率を40年までに65パーセントとする目標を掲げていますが、実現性には課題が多いと考えます。40年以上の歴史を持つ陸上風力発電であっても、国内調達率は17年時点で約3割でした。19年に国内メーカーが風力発電機の製造から撤退したいま、政府目標の達成には企業努力のみでは不可能であり、アジア圏を見据えた国の選択的支援が必須と考えます。
規模感のある起爆剤と
利害調整の役割を期待
日本政府も袖手傍観というわけではなく、浮体式専用海域の選定、供給網構築のためのGI基金(昨年度2兆円から2.7兆円へ増額済み。洋上風力への割当は約4パーセント)、セントラル方式の基本化など、実行中の政策も多数あります。40年という目標年度を鑑み、目標から逆算して相応な規模の支援策が求められます。他の再エネ産業との兼ね合いに配慮するあまり、すべての再エネ産業に不十分な支援を行うと、全産業の発展が阻害されるおそれがあります。日本政府には、大規模かつ戦略的な支援策を通して市場形成の起爆剤として、そしてその際の利害関係者間の調整を企業任せにせず、旗振り役として機能することを期待しています。
PROFILE
風海鳥2004
海外を中心にプラント建設業界に20年以上在籍。洋上風力産業に関しては、APAC圏市場の黎明期(2010年代)からさまざまな工事案件に従事してきた専門家。
WIND JOURNAL vol.9(2025年秋号)より転載









