「風車国産化をエネルギー安全保障として明確に位置づけるべき」足利大学 永尾特任教授が講演
2025/12/23
足利大学総合研究センター特任教授の永尾 徹氏が11月27日、「風力発電の国産化の動き」というテーマで講演した。永尾氏は「風車の国産化をエネルギー安全保障として明確に位置づけるべき」と訴えた。
1.富士重工業で 風車の研究・開発に取り組む
2.足利大学総合研究センター特任教授 永尾 徹氏 講演:風力発電の国産化の動き
3.10の企業・団体が 風車開発・製造を本格検討
4.リプレイス市場と浮体式大型風車 2つの計画で国産化推進
富士重工業で
風車の研究・開発に取り組む

第47回風力エネルギー利用シンポジウム(2025年11月27日)
永尾氏は1972年から2007年まで富士重工業(現SUBARU)に勤務し、航空機と風力発電設備の研究・開発に取り組んだ。富士重工業は、1996年から社内の若手技術者の自主的活動を契機として、風車の研究を始めた。風車と大きさは異なるが、風の受け方を設計する空力設計、強度などを高めるための複合材の使用、羽根や発電機を使う仕組みなどの点で、富士重工業が手がけてきた航空機の開発技術と重なる点も多くあったからだ。永尾氏はその研究グループのリーダーをつとめ、その後風力発電機事業を立ち上げた。
永尾氏は2025年11月27日に、第47回風力エネルギー利用シンポジウムで、「風力発電の国産化の動き」というテーマで講演した。永尾氏は日本風力エネルギー学会の会長をつとめているが、この日は足利大学総合研究センター特任教授としての立場で、風車の開発・製造のあるべき姿について熱い思いを訴えた。
足利大学総合研究センター特任教授
永尾 徹氏
講演:風力発電の国産化の動き

風力エネルギー利用シンポジウムで講演した永尾 徹氏
かつて、日本国内では日立製作所や三菱重工業、富士重工業、日本製鋼所が、最大2000kW級から7000kW級の風車製造を手がけていました。しかし、欧米企業との大型化競争や、国内風力発電市場の立ち上がりの遅れなどによって、2019年までに開発・製造から相次いで撤退してしまいました。これに伴い風車製造を支えていた関連機器産業の多くが撤退し、残っている企業も製造規模を縮小する傾向にあります。

風車関連機器製造の状況;水色は稼働中、グレーは撤退(出典 永尾氏の講演資料)
自国に風車メーカーを持たないと、どのようなことが起こるのか。それは風車の開発や製造を海外に依存していることで、(1)問題発生時に海外メーカーに指示を仰ぐことになる、(2)海外からの情報・支援がなければ何もできなくなる、(3)技術に対する姿勢への欠陥を生む(自分で考えない)などのさまざまな問題が発生します。これまで多くの風車事故調査を行ってきましたが、海外メーカーの風車はブラックボックスがあるなかで調査をしなければならならず、原因究明と解決に多くの推定が入り時間がかかるうえに、製造方法までさかのぼった対策ができないことが発生しています。
これに対して国産風車であれば、(1)日本の自然条件・気象条件にマッチした風車を製造することができる、(2)国内製造した部品はブラックボックス化が解消される、(3)不具合や非常事態への対応が迅速・正確にできる、(4)部品調達の自由度が確保される、(5)注文から納品まで長期間を要することがない、(6)技術・製造力が維持されるといったことが期待されます。
風車の開発・製造の話は、防衛装備品と良く似ています。「エネルギー安全保障」と「国家安全保障」に関わるという意味で共通しています。風車の開発・製造をエネルギー安全保障に位置付けることで、政府の対応が変わってくると思います。
10の企業・団体が
風車開発・製造を本格検討

アルバトロステクノロジーの浮遊軸型風車(出典 永尾氏の講演資料)
風力発電の導入拡大に向けて、国産風車メーカーの復活を期待する声が高まっています。現在10を超える企業や団体で、国産風車の開発・製造の検討が行われています。具体的な事例を個別に紹介します。
アルバトロステクノロジーの浮遊軸型風車(FAWT)は、NEDO事業で2026年3月まで開発に取り組みます。早ければ同年初めにも海上に設置される予定です。

駒井ハルテックの中型風力発電機(出典 永尾氏の講演資料)
駒井ハルテックは、出力300kWの風力発電機(KWT300)を商用化しています。これに加えて、出力1000kWの中型風力発電機(KWT1.0)を開発中で、26年度にプロトタイプを設置し、27年度の製造開始を目指しています。

風力エネルギー研究所の大型風車(出典 永尾氏の講演資料)
風力エネルギー研究所は国産化率100%の大型風車の開発を目指しています。出力2000kW級の風車でリプレイス需要を狙っています。現在、開発協力者と参加者を募集しています。アップウインドにするのか、ダウンウインドにするのか、また発電機は永久磁石もしくは、DFIG(二重給電誘導発電機)にするのかといったように仕様が固まっていませんが、さまざまな選択肢を念頭に置きながら検討を進めています。
「海洋産業タスクフォース」は、海事産業の民間企業を主体とした会員企業・団体の技術情報交流の場として2018年に発足した任意団体です。「風力発電事業サプライチェーンに関する課題と提言」というテーマで風車の国産化を検討していて、25年度中にも提言をまとめる予定です。陸上用の出力5000kW風車と浮体式の大型洋上風車の2つにターゲットを絞って検討しています。

風力エネルギー利用シンポジウムで講演した永尾 徹氏
さらに新エネルギー財団は、「日本発風車あり方研究会」を立ち上げ、産学連携で活発な議論を行っています。この研究会は、民間企業、行政、産業育成機関で中心的な立場として風力発電に携わってきた人たちがメンバーで、資源エネルギー庁とNEDOがオブザーバーとして参加しています。わたくしもメンバーのひとりとして25年4月から月に1回のペースで議論を重ね、26年3月に報告書をとりまとめる予定です。
リプレイス市場と浮体式大型風車
2つの計画で国産化推進

日本が取り組むべき市場(出典 永尾氏の講演資料)
新エネルギー財団の研究会では今後の対象市場として、日本が取り組むべきアプローチの案として2つ提示しています。そのうち「A計画」は、リプレイスと山岳地向けの風車です。リプレイスは年間20万kWの市場が期待できます。直近で動き出す市場であるため、国産風車メーカー復活の手始めとして、時期的にも合致します。
「B計画」は、浮体式の大型風車をターゲットにしています。現在、日本国内では浮体式の研究開発が幅広く、大きな組織で進んでいます。ところが風車は着床式とほぼ同じものを搭載することを想定しているようです。欧米の風車メーカーは、浮体式風車の開発・製造研究にあまり積極的ではありません。この研究会では、わが国主導で研究開発に着手しなければ、浮体式の本格導入に間に合わなくなることを懸念しています。以上のことから、市場が確実で技術的にも商業運転レベルに達している「A計画」で中型風車の開発・製造に着手し環境を整えたあと、大規模な「B計画」を展開することを提案しています。

風力エネルギー利用シンポジウムで講演した永尾 徹氏
風車の国産化を進めるにあたっては、資金調達や財務、技術・製造・販売などの分野で多くの課題があります。山積する課題を解決するには、国家的な取り組みが必要であり、政府がサプライチェーンを含めた風力発電製造事業を、10年、20年をかけて強化するための明確なビジョンを打ち出すべきと考えています。
DATA
取材・文/宗 敦司
2026年1月16日(金)に開催する「第5回WINDビジネスフォーラム」では、日本風力エネルギー学会 会長で、足利大学総合研究センター特任教授の永尾 徹氏が「日本の風力産業の活性化、国産風車の再興を目指して」をテーマに、風力発電産業の再構築の必要性を訴えます。

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