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浮体式洋上風力トップ3社に聞く、日本が直面する課題と突破口

3月に都内で開催された浮体式洋上風力発電推進懇談会では、東京電力リニューアブルパワー、九電みらいエナジー、丸紅洋上風力開発という国内外のプロジェクトに携わるトッププレーヤーが、浮体式洋上風力発電の世界の最新事情、日本が抱える課題と解決策について熱い議論を交わした。

国内外で活躍中のトップランナー
開発案件は“GW規模”

日揮や戸田建設など6社が設立した浮体式洋上風力発電推進懇談会は3月、第2回浮体式洋上風力発電カンファレンスを都内で開催した。東京電力リニューアブルパワー、九電みらいエナジー、丸紅洋上風力開発のパネルディスカッションでは、実際に国内外のプロジェクトに携わる各社の視点から、世界の浮体式洋上風力発電の現場では何が起こっているのか、日本はこれからどのように取り組むべきか、意見が交わされた。

東京電力リニューアブルパワー

2009年から千葉県銚子市沖で着床式洋上風力発電の実証事業を行い、近年は、日本やノルウェーにおいてテトラ・スパー型浮体の技術開発に取り組んでいる。また、昨年11月に出資を決定したFlotaion Energy社(英国スコットランド)などと共同し、今年3月、英国の浮体式洋上風力発電の独占開発に関する合計191万kWの海底リース権を落札した。


東京電力リニューアブルパワー株式会社 常務取締役 風力部長 井上 慎介氏

 

九電みらいエナジー

福岡県北九州市の響灘で最大出力22万キロワットの着床式洋上風力発電を建設中。2025年度の運転開始を目指す。2017年には、浮体式に関する技術開発に取り組む国際イニシアチブ「Floating Wind Joint Industry Programme(JIP)」に欧州以外の企業として初めて参画し、実用化に向けた技術開発や研究を行う。


九電みらいエナジー株式会社 常務取締役 事業企画本部長 寺﨑 正勝氏

 

丸紅洋上風力開発

福島や北九州の浮体式洋上風力発電の実証事業を経て、日本初の大型洋上風力発電プロジェクトである秋田港・能代港の洋上風力発電プロジェクトをリードした。海外では、英国スコットランドにおける浮体式洋上風力発電事業の開発に関する海域リース権益(最大設備容量260万kW)を昨年1月に落札し、開発を進めている。


丸紅洋上風力開発株式会社 代表取締役社長 真鍋 寿史氏

 

三菱総合研究所(ファシリテーター)

洋上風力発電の政策・市場動向に関する国内随一の知見を有する。洋上風力発電に関するプロジェクトを多く実施し、最新の政策・制度、市場、サプライチェーン、コスト、技術動向を踏まえたコンサルティング・支援を提供している。

株式会社三菱総合研究所 サステナビリティ本部 脱炭素ソリューショングループ 主任研究員 寺澤 千尋氏

 

商用化が加速する世界の浮体式
ギガワット案件が2030年に稼働

ーー世界の浮体式洋上風力発電市場の最新の状況やスピード感は?

真鍋 世界の潮流として、日本よりはるかに大規模なGWクラスの浮体式洋上風力プロジェクトがすでに動き出しています。国内では、ラウンド1のプロジェクトが商業運転を開始するのが2028〜2030年ごろとされていますが、その頃、英国や米国などではGWクラスの浮体式洋上風力発電が稼働しているでしょう。世界が「日本はまだ研究開発の段階」という印象をもっていることは否定できません。

寺崎 浮体式風力発電の実証事業に対して、世界は商用化に向けた布石として取り組んでいます。日本が今後取り組むべきは、真摯に技術をキャッチアップし、得意な技術で浮体式風力発電事業を進めていくこと。そのためには、開発した技術を投入できる市場をつくる必要があります。日本の浮体式洋上風力発電事業は、市場の仕組みをいかに構築できるかにかかっています。

井上 日本もグリーンイノベーション基金などを活用して浮体式洋上風力発電の技術開発に取り組んでいますが、グローバル市場における日本のプレゼンスを左右するのは、海域を利用するためのリース権の入札に向けた取り組みをいかに加速できるか。市場の形成に当たってプレーヤーが参加するには規模も重要で、政府が掲げる2040年に洋上風力全体で3,000〜4,500万kWという目標を引き上げるべきだと考えます。
 

第一に事業フィールドの確保を
国のリーダーシップが必須

ーー国内の浮体式洋上風力発電事業に今もっとも必要なものは?

真鍋 世界トップクラスの市場をもちながら、国内産業の育成には失敗したといわれている英国のようにならないためには、サプライチェーンのボトルネックである浮体の量産体制を早急に構築すべきです。規模とスピード感を備えた市場ができれば、サプライチェーンはおのずと形成されるでしょう。

その一方で、足元の開発では、漁業者との調整に多くの労力と時間を要しています。福島の実証では、県外を含め30もの漁協と調整を行いました。特に、漁業権漁業や県知事許可の範囲を超えて大臣許可が必要になる場合、事業者だけでは調整が困難です。そのため、エネルギー政策として官公庁が連携し、包括的にアプローチしてほしいと考えています。

井上 浮体式洋上風力発電のポテンシャルがある海域を利用するには、関係者の合意を得て棲み分けを行うのが重要。個々のプロジェクトではなく全体的な海洋利用計画を含めて検討すべきです。港湾の整備を例に挙げると、着床式だけでなく浮体式を想定した整備を行うのがよいでしょう。官民が一体となった議論がまさに今、求められています。

浮体式洋上風力発電事業は、実際に発電を始めるまでに時間がかかります。十分な数・規模の事業フィールドが開発され、プロジェクトが立ち上がり、入札が行われればサプライチェーンは動き出すでしょう。何より重要なのは十分な規模の事業フィールドを用意すること。それに向けて当社もしっかりと取り組んでいきます。

寺崎 浮体式洋上風力発電のサプライチェーンは、日本が有する多様な技術を集積すれば創造できると考えます。大手企業と中小企業が手を携えることが大切で、そのための情報交換の場が必要です。日本市場だけでなくアジア太平洋地域もターゲットとして捉え、サプライチェーンを構築するのがよいでしょう。国や企業の垣根を超えて浮体式洋上風力発電を進める仲間として、競争と協調によって発展を目指したいと思います。


文:山下幸恵(office SOTO)

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