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風車ローター ピン穴の摩耗を防止するエクスパンダ―システム

風力発電の風車は、年々大型化が進んでいる。そうしたなか、巨大なブレードを支えるローターのピン穴の摩耗を防止する、画期的な製品が登場した。さまざまな可動部の摩耗を解決する、エクスパンダーシステムの仕組みを紹介する。

(アイキャッチ画像 エクスパンダ―システム 出典:ノルトロック)

可動部の摩耗を解決
エクスパンダーシステム

今から遡ること数年前。アメリカのオールエナジー・マネジメント(AEM)社は、風車O&Mの人材育成会社を設立し、技術者の養成に本格的に取り組み始めた。米国、カナダ、英国、イタリアの4ヵ国で計1,000基の風力発電設備のO&Mを請け負うことになったのだ。同社のスタッフがメンテナンス作業に取り組み始めた頃、風車のブレードとローターの継ぎ目に挿し入れたピンと、ローター側のピン穴の双方が、稼働開始の数日後に摩耗しているのが見つかった。

風車の組み立て段階であれば、肉盛溶接で摩耗部を補完したあと、ドリルでピンの穴径と合うよう調整する穴加工を行って、摩耗した部分を補修することができた。しかし、風車のタワーの上で、きめ細かなピン穴の補修作業を行うのは現実的に不可能なことである。風力発電の現場で実施可能な方法は、ピンとローター自体を交換すること。だが、それには約10日間の作業と、1万5,000ドル(約165万円)もの費用が必要となるという。

対応に苦慮していたAEM社は、さまざまな可動部の摩耗を解決する、エクスパンダーシステムを紹介された。エクスパンダーシステムは、スウェーデンのボルト締結メーカー、ノルトロックが製造販売する摩耗防止システム。建機や各種アタッチメント、 クレーンやプレス機などの工場設備、シールドマシンや掘削機などの可動部に発生するガタつきを、ピン穴の摩耗そのものを防ぐことで解決するシステムだ。

 

独自システムで
ピン径を拡張

設備機器の可動部には、軸となるピンが挿入されるが、抜き挿しを行うため、ピン穴には若干のクリアランス(遊び)がある。ところが、このクリアランスの幅でピンが繰り返し穴の中で打ち付けられることで、ピン穴は楕円状に摩耗してしまう。エクスパンダーシステムは、取り付けたあとに独自のシステムによってピン径が広がり、ピン穴のクリアランスを埋めてしまう。これにより、従来のピンのようにすき間で動くことがなくなり、ピン穴の楕円状の変形そのものを解決するという。

AEM社は、その後もエクスパンダーシステムを活用し続けている。同社のオペレーションズ・マネージャー、イアン・スリガー氏は「4人のスタッフで3日間かけて作業していたタービンの補修が、いまでは2人で1日かからない。ノルトロック社の人たちは、手厚くサポートしてくれるので、たいへん満足している」と笑顔をみせる。

エクスパンダーシステムは、多少摩耗が生じた既存のピン穴にも使用することができる。ピン径を拡張することによって、すでに摩耗した分のすき間も埋めることができるのだ。さらに同システムは、可動部のまわりの障害物やグリースの内部注入など、さまざまな形状に柔軟に対応できる。取り付け箇所に合わせてデザイン設計し、一般的な工具のみで取り付けることができるため、外部のサービスに頼ることなく、可動部の摩耗を抑制することが可能になるという。

ノルトロックグループでは、あらゆるボルト締結の課題を共に解決するパートナーとなることをグループのビジョンとして、日々新製品の開発・研究にも力を入れている。その一つに、機械式テンショナー「スーパーボルト」のラインアップである「LST」(ロードセンシング テンショナー)をスマートプロダクトとして近年発売した。スーパーボルト内に埋め込まれたひずみゲージを介して、遠隔監視システムでボルトの軸力管理ができる製品である。既にヨーロッパでは洋上風力発電向けに採用が進んでおり、重労働・高コストのかかる洋上メンテナンスの負担軽減に貢献している。

 

問い合わせ

株式会社ノルトロックジャパン
〒562-0028
大阪府箕面市彩都粟生南1丁目18番35号
Tel: 072-727-1069
MAIL: nlj@nord-lock-jp.com


取材・文/高橋健一

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