岩手県久慈市沖 浮体式調査の最終報告書を今年度中にとりまとめ
2024/01/24
大規模な浮体式の先行事例として注目を集める岩手県久慈市沖の浮体式洋上風力発電検討委員会が昨年12月26日に開かれ、この1年の調査結果を踏まえた最終報告書を今年度中にとりまとめる方針を確認した。
2021年9月
準備段階に進んだ区域に
2021年に公表された岩手県久慈市沖のゾーニングマップ(出典 久慈市役所)
岩手県北部の久慈市は、同市沖の水深70メートル以上の海域で大規模な浮体式洋上風力発電の導入を検討している。2018~20年度に現地調査などを実施し、2021年2月にゾーニングマップを公表した。このマップでは、沿岸から約22.2キロまでの領海内を「漁業活動を優先するエリア」と「漁業との協調を検討するエリア」に区分けしている。地元の漁業者・発電事業者への意向調査と、主に漁業者を中心としたワークショップの議論を踏まえてとりまとめた。
2021年2月に公表したゾーニングマップでは、沖合15~20キロの水深110メートル以上の海域と、北部にある水深70~90メートルの海域を洋上風力発電の導入の可能性がある「漁業との協調を検討するエリア」に設定している。これをうけて、国は2021年9月、再エネ海域利用法に基づき、洋上風力の導入が将来的に有望視される「一定の準備段階に進んだ区域」に久慈市沖を選定した。
久慈市 遠藤市長
「より精緻化したマップ作成」
久慈市は、浮体式洋上風力発電を地域の発展に生かすため、関係団体や学識経験者などで構成する「久慈市沖浮体式洋上風力発電検討委員会」を設置し、議論を重ねている。同市の遠藤譲一市長は、昨年3月の市議会一般質問に対する答弁のなかで、これまでの漁業関係者との議論を踏まえ、周辺海域で詳細な操業状況や風況などを確認し、より精緻化したゾーニングマップを作成する意向を示している。
昨年12月28日に開催された第8回久慈市沖浮体式洋上風力発電検討委員会では、今年度の新たな取り組みについて報告があった。久慈市では、昨年4月以降に「漁業実態調査」、「漁業者説明会」、「風況調査」、「海底調査」、「海象調査」、「水温・塩分調査」、「千葉県銚子沖の視察」、「海外先進地、フランス ナントの情報収集」、「CO2削減効果の検証」を実施している。
51人の漁業者から
聞き取り調査を実施
「あまちゃん」のロケ地として知られる小袖漁港(岩手県久慈市)
このうち、漁業実態調査では昨年9月に市内8地区で計51人の漁業者から聞き取りを行った。その結果、「刺し網」と「かご漁」は通年で水揚げがあることがわかった。「イカ釣り漁」は、2月から5月を除いた時期に漁があり、タラ延縄は6月から8月を除いた時期に漁をしていた。
例年、水温が高い時期に水揚げ量が減少する傾向があるが、2023年は変動が小さかった。主要な魚のイワシ・サバは春と秋に水揚げが多く、ブリは夏に多い。2023年度は4~5月のスケトウダラ、7~8月のブリ、9~10月のスルメイカの水揚げが多いのが目立つ。2021~2022年に多かったサバ・イワシは、2023年は比較的少ない。年間を通して水揚げがあるタコ類は、2023年10~11月に例年に比べ多かった。過去3年間に秋サケは、ほとんど獲れていない。
市内8ヶ所で
漁業者説明会を実施
久慈市魚市場(岩手県久慈市)
漁業者への説明会は、昨年9月下旬に市内8カ所で実施した。説明会には8カ所で計142人の漁業者が出席している。参加者からは洋上風力に関して、風車建設時期の見通しや設置数、配置、港湾整備などについて質問があった。また、漁場が利用できなくなることを懸念する声のほか、騒音などによる環境への影響や津波災害を心配する声があった。
これに対して市側は「漁業者の同意がない限り事業を進めることはない」と説明した。参加者からは、これまでの市側の説明不足を指摘する声もあった。漁業者以外の近隣の自治体を含めた広範囲な説明が必要だとする意見や、賛成、反対で漁業者同士が分断されることがないよう望む意見もあった。
沖合で操業する広域漁業団体からは、「産卵場などが決まっていて、漁場として大切な場所がある。そのような大切な場所を避けるようにして欲しい」、「基本的に漁場に風車を建てなければ良いという考えだ。形式は関係ない。操業エリアの外でも、設置した風車によってタラ延縄やかご漁などが沖合に出てくるようになると、航行のじゃまになる」、「長期にわたって漁業に影響があるので、直接補償でなければあり得ない」といった意見が出された。
昨年10月下旬には、着床式の事業がスタートしている千葉県銚子市沖を視察した。漁業者9名と久慈市漁協1名、検討委員会の委員2名が参加した。銚子市では、市と商工会議所、漁協が共同出資して、視察の受け入れやメンテナンス業務の受け入れを行う会社を設立している。また、漁協が100%出資して「株式会社銚子漁業共生センター」を設立し、漁場調査事業や漁場創出事業を実施している。現地視察では、銚子市や漁協の最新動向について情報収集するとともに、メンテナンス港として活用する同市の名洗港などを視察した。
今年度中に
最終報告書をとりまとめ
久慈市漁港(岩手県久慈市)
昨年12月に開催された第8回久慈市沖浮体式洋上風力発電検討委員会では、久慈商工会議所の山王敏彦会頭が、「昨年10月に秋田県能代市を視察して、たくさん元気をいただいた。アパートが満室、有効求人倍率が2.5倍とものすごい勢いを感じた。市と商議所が一体となって洋上風力発電事業を進めていきたい」と述べた。漁業関係者からは、「漁業者との協調をどのように進めるのかがはっきりしない」、「地球温暖化などの影響で、水揚げされる魚種や漁場が変化している。今後も説明会や意見聴取の機会を継続的に設けて欲しい」といった意見が出された。
委員会では、第9回の会合を今年度中に開催し、この1年の調査結果を踏まえた最終報告書をとりまとめる方針だ。そのうえで、久慈市は関係者と協議して、より精緻化したゾーニングマップを検討する意向を示している。久慈市企業立地港湾部の大崎健司部長は、「洋上風力発電事業は、人口減少の最後の切り札ではないかということで市長も常々申しておりますが、地域振興の視点と漁業振興の視点があります。この2つは相反するところもありますが、説明会の開催や報告書の説明などを含めて、漁業で生計を立てている方々の理解醸成を図る取り組みを進めていきたい」と話している。
DATA
取材・文/高橋健一