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【第2ラウンド深堀り解説②】ゼロプレミアムの波紋、4海域は大手企業連合が選定事業者に

洋上風力第2ラウンドは、2022年10月に改定した公募選定基準に従って審査された。発電事業者が複数海域に公募する場合の落札上限容量100万kWの設定や、早期運転開始の計画を高評価にするなどの基準変更が反映された落札結果となった。洋上風力産業のサプライチェーン構築に黄色信号だ。

<目次>
1. 秋田県男鹿市、潟上市、秋田市沖 世界トップレベルの事業を
2. 長崎県西海市沖 オフサイトPPAを活用
3. 資本力のある大手企業が 有利な状況に 

 

秋田県男鹿市、潟上市、秋田市沖
世界トップレベルの事業を

「秋田県八峰町、能代市沖」を落札した企業連合の代表企業であるジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)は、「長期安定的な発電所の運営とサプライチェーン構築を通じて、中長期的な地域の発展および国内産業育成に貢献してまいります。事業会社の構成員である JRE、IRJ、東北電力の 3 社は、開発や運営を含む事業遂行の全般に携わり、秋田銀行は構成員とともに地元企業等との連携および地域振興策の実行を支援してまいります。地域のみなさまとの密接なコミュニケーションを通じて、地域との共存共栄のための諸施策について検討・実行するとともに、洋上風力発電というクリーンなエネルギーを次世代に安定的かつ大規模に供給することで、2050 年のカーボンニュートラル社会の実現に寄与してまいります」とコメントしている。

「秋田県男鹿市、潟上市、秋田市沖」を落札した企業連合の代表企業であるJERAは、今後の事業の進め方について「責任をもって本事業の開発を進め、秋田をはじめとする地域経済の発展と持続可能な社会の実現に貢献する。当社、電源開発、東北電力、伊藤忠商事の4社それぞれが、これまで大規模プロジェクトを開発から建設、運営まで、一貫して行ってきたことで得たノウハウや強みを持ち寄ることで相乗効果を発揮し、世界でもトップレベルの洋上風力発電事業を実現する」と強調する。

地域振興策については、「開発期間の調査、建設工事、資機材調達、運転監視、メンテナンスなど、発電所のライフサイクルを通じて、地域の企業には積極的に参入してもらい、地域との事業共創を図っていきたいと考えている。産学連携も積極的に推進する予定だ」と言及する。具体的には、地盤調査や漁業影響調査などについては船舶を保有する地元建設会社や海運業を行う会社、地元漁協組合員、港湾荷役業者や建設業者などを起用する方針だ。運転開始後も、発電所の運転・維持管理に係る業務を地元企業に直接発注する予定だという。

「新潟県村上市、胎内市沖」を落札した企業連合の代表企業である三井物産は、「当企業連合は今後、経済産業省と国土交通省による公募占用計画の認定に向けた調整や、地域の皆さまとの協調・共生を目指して地域関係者との対話を重ね、本事業を通じて日本政府が掲げる2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けた再生可能エネルギーの主力電源化に大きく貢献していく。当社は、62カ国・地域で多角的に事業を展開する総合商社であり、世界各地で豊かな暮らしに欠かせない電力の安定供給をさまざまな電源の開発・運営を通じて実現している」と意気込む。

長崎県西海市沖は
オフサイトPPAを活用


長崎県西海市江島沖

「長崎県西海市江島沖」を落札した企業連合の代表企業である住友商事は、「国内外で培った長年にわたる電力ビジネスの経験を生かして、日本における電力の安定供給とカーボンニュートラル社会実現の双方に、地域の皆さまとともに、誠心誠意、取り組む」と表明する。

長崎県西海市江島沖の住友商事と東京電力リニューアブルパワーの企業連合による洋上風力発電事業は、非鉄金属大手の住友金属鉱山と半導体メーカー大手SUMCOへ「オフサイトPPA(電力調達契約)」で供給する計画だ。オフサイトPPAは発電事業者が需要家の敷地外に再エネ設備を設置し、送電系統網を通して需要家に電力を供給する方法である。再エネ電力を調達する手法として、国内外で導入事例が増えている。第2ラウンドからはFITではなくFIP制度が適用されたため、オフサイトPPAを活用できるようになった。

資本力のある
大手企業が有利な状況に

第2ラウンドの4海域で選定されたすべての事業体の運転開始予定時期は2030年より前になっている。しかし、公募に参加した12事業体のうち9社が供給価格をゼロプレミアムである3円/kWh以下で入札したことについては、洋上風力の産業育成につながらないのではとの懸念の声があがっている。

改定した公募選定基準で、価格評価に3円/kWhのゼロプレミアム水準を導入した時点で、入札の供給価格点は3円近くに張り付くのではとの予想が、風力発電業界の関係者から聞かれた。その予想が現実となった。

エネルギー産業・政策に精通している、ある大学教授は「洋上風力導入黎明期の段階で、政府の支援を事実上利用せずに発電事業を続けられるのは、資本力にゆとりのある大企業に限られる。大手企業とのつながりを持たない独立系ベンチャー企業が参入する余地がない」と指摘する。

支援制度を利用しなければ、その分だけ需要家の電気料金に上乗せされる再エネ賦課金の負担が減るというメリットはある。しかし、産業振興の面でみると、発電事業者が一定の収益を着実に出せる基準でなければ、肝心の洋上風力産業のサプライチェーン構築が困難になってしまう。

PROFILE

松崎茂雄

エネルギー問題を20年以上にわたって取材。独自の視点で国の政策に斬り込む経済ジャーナリスト。趣味は座禅とランニング。

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