洋上風力の「ポテンシャル海域」発表。2050年に向け、漁業との共創に期待
2024/09/24
2050年のカーボンニュートラル目標に向け、重要な電力供給源として注目される洋上風力。課題のひとつである漁業との共存に向け、海域を絞り込む初期分析結果が発表された。
国の導入目標達成に向け
ポテンシャル海域を分析
三菱総合研究所は、洋上風力発電の開発海域の具体化に資する「ポテンシャル海域」に関する分析結果を発表した。船舶航行や漁業への影響を最小限に抑えながら、国の導入目標や2050年のカーボンニュートラルに求められる洋上風力発電量の目標を達成できる可能性が報告されている。
2021年5月、日本の国会で「地球温暖化対策の推進に関する法律」の改正案が成立し、2050年までのカーボンニュートラルの実現が法律に明記された。この目標に向かいつつ、同時にエネルギー・経済安全保障の確保や産業育成・経済成長に資する電力供給源として期待されているのが洋上風力である。
三菱総合研究所のレポートでは、この市場を拡大し産業を発展させるためには、洋上風力と漁業の協調を前提とした開発海域の特定が重要であると指摘。両者の対話を促進する基礎情報として、導入目標達成に必要とされる海域やその面積の具体的な情報を分析した。
目標値を上回る潜在能力を推計
さらなる具体化に向け「連携が急務」
分析は、ポテンシャル海域のうち、事業採算性の観点から実現可能性の高い海域を抽出することを目的に、2040年/2050年(運転開始年)、着床式/浮体式(技術形式)、船舶航行密度の考慮前後、発電コスト(事業採算性)別に算出。将来的なファームサイズの拡大、技術革新(風車の大型化、建設の効率化など)、国内サプライチェーン形成、港湾・系統インフラ整備、事業期間の拡大(30年間)によるコスト低減の進展を想定して分析を行った。
その結果、船舶航行密度考慮後の全ポテンシャル海域の面積は、2050年時点で着床式が70GW、浮体式が2,396GW相当と推計した。
(出典 三菱総合研究所)
(出典 三菱総合研究所)
また、事業性が高いと想定される発電コスト10円/kWh未満のポテンシャル海域の面積は、2050年時点で着床式 70GW、浮体式1,477GW 相当と推計。ちなみに、2040年時点では着床式が64GW、浮体式が343GW相当となる。
(出典 三菱総合研究所)
(出典 三菱総合研究所)
これらは、国の洋上風力の導入目標(2040年時点で30〜45GW、浮体式含む)や2050年カーボンニュートラル実現に求められる洋上風力の導入量である100GW(JWPA試算)を上回るものである。
なお、今回の分析では全ての自然条件や社会条件、漁業等の海洋利用の実態、系統連系可否等を考慮できていないことから、実際の開発可能海域は大きく絞り込まれることが想定される。また、あくまでポテンシャルを示すものであり、2050年カーボンニュートラル実現に向けた必要導入量を示すものではない。
しかし、これらのデータをもとに、洋上風力と漁業や、海洋利用に関する関係機関が保有する知見・データを集約できれば、ポテンシャル海域のさらなる具体化を図っていくことも可能とも指摘する。国・自治体、産業界、漁業関連機関、研究機関が連携し、洋上風力と漁業の未来共創の道を模索していくことが求められている。
DATA
三菱総合研究所、日本の洋上風力ポテンシャル海域に関する分析結果を発表
取材・文/本多祐介