【新春深堀り解説】オフサイトPPAはFIP利用が有利! 蓄電池コストが低減するまで補助制度を活用すべき
2025/01/16

風力発電を石炭や液化天然ガス(LNG)火力発電と並んで一人前の自立した電源とするには、出力の安定化が不可欠だ。また、風力を導入加速させるスキームとしてオフサイトPPAが注目されている。
FIP認定を取得した
蓄電池導入経費を補助
出力変動する風力発電がFITから自立した主力電源になるには、大型蓄電池の活用やオフサイトPPAがカギとなる。蓄電池併設はコスト増により事業採算確保が難しいことから、まだ実証段階が多い。蓄電池コストがまだまだ割高な間は、国の補助事業を使っていくのも一つの手法だろう。
国は2022年度から継続して「再生可能エネルギー電源併設型蓄電池導入支援事業」を実施している。同事業は再エネ発電設備に併設するFIP認定を取得した蓄電池の導入経費の一部を補助する。当然、再エネ発電所として風力発電も対象となる。設備購入費だけでなく工事費や設計費、土地造成費も補助対象で補助率は1/4~1/3程度だ。
実は、再エネ発電所に併設される蓄電池に充電した電力を送電系統網に接続して売電する場合の価格算定ルールは、明確化されていなかった。そこで国は、再エネ特措法を改正して、24年4月からFIP認定再エネ発電所に併設された蓄電池からの電力は、FIPによるプレミアム補助額を上乗せした価格で売電できるようになった。発電事業者は、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格単価が高いときの売電価格はプレミアム補助額の上乗せにより、さらに高く売ることができるようになる。発電事業者にとって追い風だ。
国は24年度の再エネ電源併設型蓄電池導入支援事業と需要家主導型太陽光発電支援事業を合わせた事業費として計100億円を計上している。24年度の同補助事業の発電事業者公募は9月以降に開始する。
蓄電池コスト低減へ
国内サプライチェーンを強化
肝心な蓄電池コスト低減に向け、国はここ数年国産蓄電池の製造を支援する事業を強化している。経済産業省は22年度補正予算「グリーン社会に不可欠な蓄電池の製造サプライチェーン強靱化支援事業」に3316億円を充てている。同事業は電化・デジタル化社会の基盤維持に不可欠な蓄電池の早急な安定供給を確保するため、蓄電池、部材、素材の設備投資と技術開発を支援する。設備の補助率は1/3以内、研究開発の補助率は半額だ。基金方式にすることで複数年にわたって事業を執行している。
目玉となる採択事業が自動車メーカー大手のホンダと電池メーカー大手のGSユアサの共同による車載用と定置用リチウムイオン電池工場建設だ。建設場所は非公表だが27年4月の運転開始を目指し、事業総額は4341億円にのぼる。そのうち、国の助成額は最大1587億円と同事業の補正予算額の半分近くを占める。年間生産能力2000万kWhは現状の日本全体の蓄電池生産能力と同等だ。電気自動車の車載用では数十万台分となる。経産省は24年度の同支援事業に2300億円計上している
石狩市の陸上風力で
FIP移行のPPAを導入
石狩市と再エネ地産地活協定を締結(出典 市民風力発電)
オフサイトPPAは安定的に風力発電事業を拡大していくうえで不可欠なスキームだ。同スキームは国が支援しなくても自立的に導入を加速できる。ただ現状は、FIP認定発電所でも同スキームを活用できるので、FIPを活用するべきだろう。
また地域新電力や自治体と連携して、自治体の公共施設に長期契約かつ手頃な価格で再エネ電力を供給するPPAは、その地域の地産地消に貢献できる。例えば市民風力発電が石狩市で稼働する1500kWの市民発電所は、24年5月から新電力の王子・伊藤忠エネクス電力販売を通じて電力を市内の小中学校や公共施設に供給している。
この市民発電所はFITからFIPに移行させて、需要家の石狩市とPPAを結んだ。市内の電源を活用した風力発電の地産地消とともに、市内公共施設の電気料金の低減を目指している。自治体と連携した風力発電事業は、当然地域共生型開発となる。地元住民の反対を解消し合意を得られやすくなるので、全国各地で問題となっている風力発電開発に対する抵抗を解決する手段の一つだ。
太陽光発電のオフサイトPPAは、国の「需要家主導型太陽光発電支援事業」が大きな後押しとなっている。24年度の同支援事業で風力発電は対象外だが、今後対象が広がれば、同スキームによる風力発電の導入拡大に弾みがつくだろう。
PROFILE
松崎茂雄
エネルギー問題を20年以上にわたって取材。独自の視点で国の政策に斬り込む経済ジャーナリスト。趣味は座禅とランニング。
WIND JOURNAL vol.7(2024年秋号)より転載